第7話 プラモデル
「ちょっとこのパーツがはまりにくいので、注意が必要ですね」
僕はカメラに向かってそう言った。
カメラは僕の手元を映していて、顔は映っていなかった。
手元には有名ロボットアニメシリーズに登場するロボットの1/144スケールの組み立て中プラモデルがあった。
半年程前から、こうしてプラモデルを組み立てながら雑談するという動画をインターネットに公開していた。
コロナ禍で休日も外で遊ぶことがはばかられるようになったせいもあるが、プラモ制作は元からの趣味だった。
ツイッターに完成画像を上げていたら、作る様子も見てみたいというコメントがあったのでこうして動画を公開するようになった。
もっとも、最初のうちは大変だった。元から人気のあるプラモシリーズだったというのもあるが、外出を控えることで需要が伸びると踏んだ転売屋が買い占めに走ったから品薄になったのだ。そのせいで欲しいプラモがなく、店屋を何件も回ったり代用品で済ますこともあった。
それでも、転売屋からは絶対に買わないと決めていた。欲しいからと高値で買えば相手の思う壺だ。そうやって手に入れた金をまた転売に費やすに決まっている。
また、最初の頃は動画の閲覧数が伸び悩んだ。元々趣味で始めたから気にしないと思いつつも、ほとんど誰も見ていないと思うと徒労感が酷かった。
しかし、最近は欲しいプラモがある店を覚え、動画の閲覧数もずっと伸びてきていた。
こんなにも大勢の人に見てもらって良いものだろうか?
今度は逆にそう悩んだ。
考えてみると、大したことはしていない。欲しいプラモを手に入れ、それを組み立てる様子を撮影しながら雑談しているだけだ。自分で言うのもなんだが、他の人の動画に比べてさして面白いとは思わなかった。
だが、動画のコメントで応援してくれている人を見るとそれでも良いとも思えた。毎回のようにコメントしてくれる常連もできて、ちょっとした有名人になった気分だった。
しかし、顔や個人情報は一切出さなかった。自分はスターではない。あくまで作るプラモの引き立て役だ。
ある日、仕事を終えて独り暮らしの部屋に戻ると違和感があった。
何がどうということはない。その時は気のせいだと自分に言い聞かせた。
それから数日後、その「違和感」は決定的なものとなった。
台座に設置してポーズを取らせたロボットのプラモのポーズが違っていたのだ。関節が緩んでポーズが崩れたとかそういう感じではなかった。
僕は恐る恐るそのプラモを台座ごと手に取った。
その下には何か書かれた1枚の紙が挟まっていた。
「ずっとあなたを見ています」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます