第6話 美人薄命

 「美人薄命」という言葉がありますが、現代はともかく昔、少なくとも江戸時代辺りまでは根拠のない言葉でもないと思います。

 この「美人」というのは、おそらくはそこらの平民に言うのではなくある程度、上流階級の人間に言われていたのならば……ですが。

 こう言ってはなんですが、当時の平民は貧しく、女性であっても美容に気を遣う余裕はあまりなかったのではないかと思えるからです。そう仮定すると、ある程度身分の高いもしくは経済的に余裕のある女性に対しての言葉だと考えられます。

 だとするならば、考えられる理由は2つあります。


 1つは、白米食による脚気かっけの影響です。

 脚気は、ビタミンB1の不足によって起こる病気で、倦怠感や食欲の低下等の症状が現れ、最悪の場合は心不全によって死に至ることもあります。

 身分の高い人間は、精米された白米を食べていたため、十分なビタミンB1が摂取できずにこの病気にかかることが多かったそうです。

 ここまで書くと、じゃあ白米以外のおかずで補えばいいと思われるかもしれませんが、昔の日本人は主食以外、おかずはそんなにも食べられなかったようです。そのため、栄養の摂取はほとんど主食でした。

 それでも地方では玄米食が多かったようですが、江戸に来た武士や大名が白米を食べ続けてなることが多かったことから、「江戸わずらい」とまで言われたそうです。


 もう1つは、おしろいです。

 「美人」薄命と言うが、男性も脚気ならかかるじゃないか――そう思われた方にはこちらの方が説得力はあるかもしれません。

 おしろいとは、ご存じの通り肌を白く見せる昔の化粧品です。肌を白く見せるために美容に気を遣う女性や公家はこれを顔等に塗っていました。江戸時代には庶民にまで浸透していたという話もあります。

 しかし、これにも問題があります。

 おしろいには、が成分として含まれていたのです。

 特に江戸時代頃になると鉛の含まれた物の方が多く使われていたため、鉛中毒になる人が多かったといいます。

 鉛中毒は頭痛や嘔吐等の様々な症状があり、これも最悪の場合は死に至ります。


 さて、以上の2つの理由が「美人薄命」の根拠だと推測されますが、いかがだったでしょうか?

 前者は男性も当てはまるため、後者の理由が強い気もしますが、おしろいは歌舞伎役者等も使っていたため必ずしも女性限定ではありませんが……。

 普段何気なく言われている言葉でも、理由を推測してみると面白いかもしれません。

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