第2話 不老不死の薬
とある国の独裁者が科学者に命じた。
自分のために不老不死の薬を作るように、と。
独裁者は寿命が尽きて死ぬことだけが不安の種だった。
人は誰しも死ぬ。それは独裁者であろうと例外ではない。もはや自分に敵は居ないと考えていたが、それだけは決して避けられない。
独裁者は国の税金を可能な限りその研究に注ぎ込んだ。
それはあまりにも身勝手で、その側近ですら呆れるほどの額だった。
誰もが馬鹿げたことを、と考えたが……誰も止めなかった。いや、誰も止められなかった。
それから数年、とうとう不老不死の薬ができたとの知らせが来た。
独裁者はそれを喜び、自分だけがその薬を服用すると、他の者が利用できないようにその研究を禁止させた。家族にも側近にもそれを服用させず、あくまで自分だけのために使った。
その直後にクーデターが起きた。
理由は様々だったが、皮肉なことに最後の引き金となったのはその不老不死の研究に多額の資金を投入し、なおかつ独占したことだった。
独裁者は権力の椅子から引きずり降ろされ、拷問を受けた。
もっとも、いくら苦痛を与えても独裁者は死ななかった。いくら痛みにあえごうとも、死ななかった。とうとうナイフで心臓を深く刺したが、血が噴き出しただけでまだ生きていた。
革命軍は始末に困ったが、それなら見せしめとして広場で生きたまま豚の餌にしようと考えた。
裸にして四肢をもいだ独裁者を、囲いの中の豚たちに与えるとすぐさま群がってきた。
それを見ようとやって来た群衆の中には、その研究を命じられた科学者も居た。
独裁者は生きたまま豚に喰われた。それを群衆の多くは歓喜の声を上げながら見ていた。
流石にもう死んだだろう――大半の人々がそう思った。
だが、科学者だけは違った。
科学者は豚の排泄物に向かって言った。
「こんな姿になっても、意識はまだあるのでしょう? ――そう、あなたは死ねやしない。手足をもがれても、喰われて糞尿になっても生き続ける。死ぬ時に死ねないというのは、それはもう呪いだ」
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