第5話切り裂きチャック

椛山は殺し屋名簿のページを捲っていた。

自爆する殺し屋にはもう当たりたくない。

そこにある殺し屋の名が……“切り裂きチャック“。

あの、イギリスの連続殺人事件の真犯人で警察に逮捕されていない、イギリス史上もっとも有名な未解決事件の殺し屋だ。

椛山は、興奮しながら公衆電話に向かった。

「もしもし、切り裂きチャックさんのお宅でよろしかったでしょうか?」

「き、貴様。何故、私の名を知っている?」

「あっ、殺し屋名簿に載っていましたので」

「……こ、殺し屋名簿。何故、日本人がその名簿を持っている?……ま、まさか、ボスですか?」

「ぼ、ボス?まぁ、そんなもんです。日本語上手いですね」

「は、はいっ。ボス。私は今、青森の漁師町で、魚を捌いていますので」

「かぁ~、チャックさんは今は人間を切り裂いておらず、魚を切り裂いているんだ?」

「は、はい」

「じゃ、後でFAXで送りますんで、資産家夫婦を切り裂いて下さい。報償金は5000万円」

「えっ、ご、5000万円。ぼ、ボス。必ず仕事を成功させますんで、何とぞ宜しくお願い致します」

「とりあえず、早めに殺ってね」

「かしこまりました」


ガチャッ


「ぼ、ボスはまだ生きていた。私はボスに殺した女の肉を差し入れしていた事を忘れてはいないだろう。よし、予行演習で若い女の腹を切り裂いてやる」

切り裂きチャックは、漁師町をさまよった。


ポケットに肉切り包丁を隠し持ち、女子高生に近付いた。

「お嬢ちゃん、駅はどっちの方向かな?」

「えーっと、駅は……キャー包丁!」

「大人しくしろ。今すぐ楽にしてやるっ」

チャックは女子高生の腕を掴んだ。


な、何をしてやがるっ!


そこには、若い男の警察官が拳銃を構え立っていた。

「お前が撃てば、この女の命は無い」


その時だ!

女子高生はかかとで思いっきりチャックの足の甲を踏みつけた。

「いって~、このクソガキがっ!」

女子高生は一瞬の隙を見て、チャックから離れた。

チャックは後を追う。


パンパンパン


乾いた銃声が響いた。

切り裂きチャックは若い警官に撃たれ絶命した。


椛山は大学の授業を終え駅に向かった。

そこで、号外が配られていた。それを彼は手にし読んでみると、デカデカと

「切り裂きチャック、青森で射殺」


……またか。椛山は今回も失敗したことを理解した。

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