第2話暗殺者・川村主水

椛山かばやまは殺し屋リストを手に、公衆電話に向かった。

選んだ殺し屋は、暗殺剣の遣い手・川村主水かわむらもんどである。

椛山はドキドキしながら、公衆電話のプッシュホンを押す。

「もしもし、川村主水さんのお電話で間違いないでしょうか?」

「ああ~そうだ。お主の名は?」

「椛山貴史と申します。大学で准教授として研究してますが、金持ちになりたくて、お力をお貸し出来ませんか?」

「……いくらだ?」

「絶対失敗しない自信がございましたら、言い値で」

「……5両だ!」

「えっ、ご、5両?」

「払えんのか?」

「いえいえ、余りに安かったので。後でFAXで現場の住所と写真を添付して川村さん宅に送ります。今夜、必ずあの老夫婦を殺して下さい」

「なぁ~に、心配してやがる。あんさん、拙者は暗殺剣の遣い手よ!ま、今夜はゆっくり枕を高くして寝ていろ」

「な、なんて頼もしい殺し屋なんだ。お願いいたします」


ガチャッ


椛山は、何食わぬ顔で資産家の老夫婦と晩御飯を食べた。

権蔵じいさんは、高級ウイスキーを椛山と呑んだ。


『さぁ、じいさん、これが最後の酒だ。心置きなく呑め!明日の朝は、冷たくなった体を発見してやる』


川村主水は、刀の刃先を手入れした。

「久しぶりの、仕事だぜ。さっき、FAXの写真を見たがか弱い老夫婦だぜ。ちょろいもんよ。明日までに、電気代支払わないと止められるから、ラッキーだぜ。しかも、5両。腕が鳴るぜ」

川村は地図を頼りに、資産家の住みかを探した。

「なんて、大きい邸宅なんだ。ここは、部屋の灯りが消えてから仕事に移るか」

川村は、刀を腰にスキットルの中の安物ウイスキーをチビチビ飲みながら、部屋の灯りが完全に消えるのを待った。

一時間後、資産家の家は真っ暗になった。

その時だ、空の雲行きが悪くなり雨が降りだした。

夏にはよくある事だ。

川村は邸宅の庭の栴檀せんだんの大木の下で雨をやり過ごした。

空が一瞬、明るくなった。


ピカッ!


ゴロゴロ、ドーン、バリバリバリッ!


栴檀に落雷した。

栴檀の大木は真っ二つに裂けた。

そして、真っ黒な性別不明の人間の死体が転がっていた。


資産家は、懐中電灯を照し栴檀の様子を確認した。

ヒィッ!

「し、死体だ!」

権蔵じいさんは、直ぐに警察に電話した。

現場検証がしばらく続き、朝方には警察は撤収した。


「あぁ~あ、よく寝た。どれどれ、あいつらの死体をば確認を」

椛山は3階から1階に降りてきた。

「あらっ、おはよう貴史先生」

「……お、おはようございます」


『な、何故、生きてやがる?川村主水はどうした?』


ツルばあさんが味噌汁を運びながら、

「先生、昨夜は眠れましたか?」

「は、はい。爆睡してました」

「昨夜はね、落雷があって、うちの栴檀の木の下で雨宿りしていた人が亡くなっていてね」

「そ、そうなんですか?お、男ですか?」

「先生、それが性別不明の死体じゃった。わしは、元刑事での。死体は見慣れてるから、何とも思わないんじゃがな。刀が近くに転がっておったわ」

「そ、そうですか。大変でしたね」

「ばあさん、後、お新香出して」

「はいはい」


椛山は十中八九、雷に撃たれて死んだのは、川村主水だと悟った。

まぁ、こんな事もある。

殺し屋リストには、数百人の殺し屋が載っているのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る