seen11-洋子1

昨日の夜は銀座のお見合いパーティー。もう疲れた。

慣れてはいけないし、好ましいことではないのはわかっている。

ビルを出た所で同じく戦に敗れた同年代女性と目が合う。たしか二つ隣の席だったはず。上滑りする会話がたまに聞こえてきていた。会話が苦手なようで、トークのキャッチボールが続いていなかった。その時はライバルが1人減ったと内心ガッツポーズだったが、私も1人で帰宅することとなった。互いに無言で弱々しい会釈する。


「次がんばりましょう」とでもおもっているのだろうか。

私はあなたと違う、コミュニケーション能力は高めだし、若くみえると言われるし、上場企業でバリバリ働いているし、貯金も少しはあるし、頭も良い。

お見合い中も、話題が途切れないように笑顔で会話を楽しめた。

若い頃は仕事が丁寧だね、気がきくね、洋子さんに任せれば大丈夫だよね、頼りにしてるよ、そう言って周りは褒めてくれていたのに、気付けば年頃の男性は皆んな凡百の人と結婚していた。地元の友達の中でも私だけが”おひとりさま“だ。


呼び名が洋子さんから石川さんに変わったのもその頃だった。

結婚に外見が重要ではない事は散々聞かされてきた。だからこそ内面を高めるために勉強も、習い事も、なんちゃらセミナーにも通った。

それでも結婚出来ないのは、時代のせい?そうだ、この不景気の時代が悪いんだ。

今日もやけ酒か。帰りにビールの6本パックを買って帰ろう。たしかあと2本しか冷蔵庫に無かったはずだ。

1人有楽町駅のエスカレーターに乗りながら、くすんだ手すりを掴んだ真っ赤なネイルを少しだけ睨んだ。


〜終わり〜


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残り香♯0 ひとつ はじめ @echorin

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