seen10-私5
その日、私はたまった有給休暇を使わないといけなかったので、仕事が落ち着いていたその日は休んで朝から家でゆっくりしていた。洗濯と掃除をして、遅めの朝ごはんを食べて散歩にでも行こうと部屋を出たのは昼過ぎ。
エレベーターで一階に降りエントランスに出たとき、なぜか管理人さんが床に座っていた。いやほぼ土下座だ。
「ほんとに違うんだ、そんなのじゃなくて、あの、、とにかくごめん」
「違うんならなんで謝るのよ。このマンションの住人じゃないの!」
あのお化けもどきが管理人さんに詰め寄っていた。強い語気が、弱弱しい見た目の分よけいにアンバランスで怖かった。
「ここに住んでる人じゃないです」ん?だれの事だ。そう思うと、非常口のドアから女性が一人こちらをうかがっていた。ミユウさんと同年代か、少し若い感じの女性だった。
「大丈夫ですか」彼女に近づいて声をかけると、
「あまり、。すいません」声は少し震えていた。彼女からはまだ若いコロンの香りがしていた。
「だったら誰よ、いつも安い香水つけて。しょっちゅうこの匂いさせて帰ってきて気づかないとでも思ったの?」
後日談。目の周りに青いあざができた管理人さんに聞いたところによると、夕方に現れていたお化けは管理人さんの奥さんで、浮気を疑って職場に偵察にきていたようだ。丁度管理人さんと入れ違いに入ってきて同じ匂いの女性を探していたそうで、ミユウさんも疑われて腕を掴まれたが、高級な香りのミユウさんは違ったらしい。私にいたってはニンニク臭かったので対象外だったようだ。そもそもこの歳で選考から外れたのかもしれない。
いつまでたっても見つからないので、匂いを付けて帰るのが一番多い水曜に顔を出したところ、丁度その女性をマンションに迎え入れるタイミングだったようで、お縄になったのだそう。
この話も、たまたまその場にいたので私には説明しないわけにはいかないと管理人さんが話してくれたので、どこまでが真実かはわからないが、よくある話だ。
アルチューは話しかけても無視されたのは少しかわいそう。浮気相手の可能性も感じなかったのだろうか。
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