seen5-私3

週明け、出勤の時間になっても小さいマンションだと他の住民と会うことも少ない。唯一言葉を交わすのは、毎朝7:30に家を出るとゴミの整理をしている管理人さん。

「おはようございます」と声をかけて燃えるゴミを置く。すると決まったように「おはようございます、行ってらっしゃい」と優しい声で送り出される。最初は距離をとっていたけれど、良い人そうなので良かった。


引っ越し当初、50歳前後の管理人を見て、お、若いと思った記憶がある。

管理人と言うとシニア世代や年配の主婦のイメージがあるのだが、まだまだ会社勤めしていそうなのに珍しいと思った。ま、特に話もしないのでよくわからないし、さして興味もない。


丁度テジマが出てきた。学校かなと思い挨拶してみた。「おはようございます、今日は早いですね」

「おはようございます、一限からなんで月曜は早いんですよ」と駅に向かっていった。

テジマのいなくなったエントランス前で、ふわっとデパートの化粧品売り場のような匂いが鼻腔をくすぐる。彼女はいつも高そうな香水をつけている。私はほぼつけないので、どのブランドかも分からないが丸の内OLっぽい。丸の内OLがどんな匂いかも知らないけれど、イメージね。

私もそのままテジマの香りを纏いながらマンションを出た。外に出る頃には、もうテジマを感じなくなっていて損した気分。私も香水つけようかと思案しながら駅へ向かう。




このマンションには、七不思議のようなものがある。いや正確にはまだ1つなので、ただの不思議だ。


夕方になると、妙齢の女性が一階のエレベーターホールや玄関をウロウロしていると言うのがそれだ。私も数回見かけたので、いる事は確認済みだ。普通に考えればここの住人なのだがどうやら違うらしい。


というのも以前、エレベーターを待っている間に、アルチューが管理人さんと話しているのを耳にした所、「こんにちは、よくお見かけしますよね、何号室の方かしら」と、勇者アルチューはその女性に声をかけたらしい。シラフの時はしっかりしていると思ったものだ。

しかしその女性は返事もせずに顔を背けて、そそくさと出ていってしまったらしい。


「昨日の夕方に変な女の人がいたんだけど、あれ何?泥棒か何かじゃない?管理人さん知りませんか」

「そんな人いたかなー。どんな感じでした?」

「40代くらいかなー、顔は地味目で化粧っ気もなくて長い髪で、服装も疲れた主婦って感じで」かなり偏見が混じっているが間違っていなくもない。

管理人さん曰く、「このマンションにそもそも家族連れっていないんですよ。だから主婦って言われても」

続けて「私は1度も見た事ないし、誰かと見間違えたとかじゃないですか」とあまり興味なさそうに答えていた。

エレベーターが来たのでその先の話は聞けなかったが、扉が閉まり、防犯ガラスから覗いているとアルチューが外に出て行ったのでさほど進展はなさそうだった。


部屋に戻り、夕食の準備に取り掛かる。無洗米を釜に入れ水を注ぎながら、ぼーっと晩御飯のおかずを考えていたら、なぜか“あずき洗い”という単語が頭に浮かんだ。

一瞬はてと思ったが、米研ぎからあずき洗いで妖怪まで脳内変換されたと納得。

まてよ、何故今妖怪を思い浮かべる?

あ、あの女性、40代の疲れた髪の長い女性のことか。いやまさか、そうなの?あんなにはっきり見えるものなのだろうか?でもアニメでは実生活に溶け込んで生活している姿をよく見るし。


ぞくっ、背中に鳥肌が立ち、もうこれ以上考えるのはやめた。一人暮らしでこれはやっちゃダメな奴ね。

ガッツリ肉野菜炒めで栄養つけよう、まずはビールか。ちくわときゅうりでツマミも作ろう。

そんな事を考えているうちに少し気が紛れ、30分後には顔に保湿パックシートをペタペタはってほろ酔いでテレビ観戦。モノマネ番組で笑い転げ、せっかくのパックがしわになりそうで剥がす。もったいない。もったいないおばけ。オバケ。お化け。


”マンション”、”女性”、”お化け”、検索。

やってしまった。そりゃ出るわよね、山ほど出てくる。日本のお化けなんて大概女性だし、妙齢だし、髪は長いし、貞子だし、無理。。。。。

棚からウイスキー(元カレの残り物)を出してロックで三杯。ふわっとしてばたりとベッドに倒れこんだ。これで恐怖心なく寝れそう。

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