第26話 お売りするのは何ですか?


 優愛さんの件が済んでから次の日、オジサンはある場所へと赴く。

 そこはある港の倉庫内。

 いくつも立ち並んでいる一つの倉庫に、オジサンは足を運んでいた。


「おやおや、私がやると女王さんに言っておいたのですけれどね」

「あ~、ぼよぼよきた~」


 倉庫内にいたのは、女王さんの部下である一人の女性。

 安らぎを覚えるのんびりとした口調が特徴の女性が、柔らかく微笑んでいた。

 ただし微笑む頬には赤い血が付いており、この場の空気はあまりにも血生臭かった。


「いけませんよ。摘出する際の衣服はちゃんと決まったモノを着用するようにと、女王さんに注意されているでしょう?」

「あ~、忘れてた~。ごめんなさ~い」


 ぺろりと舌を出しながら謝る彼女の周りには、手足と股間を包帯で巻かれた男達が数人転がっていた。

 全く無傷の状態で拘束されている者もいるが、その者達は全員すっかり脅えきった目を彼女に向けていた。


「はい、許します。次からは気を付けてくださいね。私は貴方様が病気になって苦しんで欲しくないのですから」

「えへ~、ぼよぼよ~やさし~」


 こんな状況であるのに何事もなく語り合う二人はあまりにも以上に見える事だろう。


「後は私が・・いえ、もう終わっているのですね。では後は引き渡すだけですので、もうお帰りいただいて結構ですよ」

「や~~、最後までみる~」

「これ以上はホントに何もやることはございません。見ていて楽しい物ではありませんし、あまりお聞かせしたくないお話をする事になると思いますので、どうぞお休みください。貴方に負担はかけたくありませんので」

「や~~~」

「困りましたねぇ」

「こまりました~」


 難しい顔を私がすると、彼女も真似するように難しい顔をする。

 なんとも可愛らしいお方です。

 少々言動が幼過ぎますが、まぁそこも彼女の魅力でしょう。

 わざわざ指摘することは致しません


「・・やはり後は運び込むだけか」

「はい、筋肉さんの予想通りでしたね」

「・・なら運ぶ」

「はい、よろしくお願いします」

「むきむき~」

「・・おう、ムキムキだ」

「がんばれ~」

「・・おう」


 そして私と一緒に来ていただいた筋肉さんも彼女の幼い言動に腹を立てることはなく、不器用ながらに返事を返し作業を始めた。

 傷ついていない男達をトラックに・・・ではなく、傷付いた男達をトラックに運んでいく。

 万が一暴れる事を考慮して拘束しながら。


 逆に腕を折られただけの者達は連れていかれずにそのまま放置される。

 彼等は今回筋肉さんが運ぶお客様では無いから当然ですね。


「お、お、俺達をどうするつもりだ! お、親父が黙ってねぇぞ! わかってんのか! テメェ等全員ぶっ殺されるぞ! 家族もダチも全員皆殺しだ!」


 目の前で悲惨な目に合う方を目の当たりにしたと言うのに、まだ吠える元気がある方がいらっしゃったようです。

 吠えるのはプライドが高い故か、それとも恐怖を紛らわせるためなのか判断しかねますねぇ。


「あは~? お口チャックする~?」

「そんなことしなくても宜しいですよ。数日後にはこのようなセリフを吐ける余裕すらなくなるのですから。それよりもまずは綺麗にしましょう。私の出申し訳ございませんが、宜しければこちらのウエットティッシュをお使いください」

「ふきふき~?」

「はい、ふきふきしてください」

「ふきふき~」

「・・・・・・」

「ふきふき~~!」

「わかりました。今拭きますので動かないでくださいね」

「むい~」


 甘えてくる彼女の要望に応えるように、オジサンはウエットティッシュで血を拭きとっていく。

 壊れ物を扱うように優しく丁寧に。

 そうして時間を潰していると、またも倉庫の扉が開かれた。


 すらりと伸びた長い脚。

 豊満な胸やお尻を見せつけるようにきわどい服を着た方々。

 そんな私を見てと言わんばかりの色っぽい方々が現れた。


「あらぁんっ! 待たせちゃったかしらん? オ・ジ・サ・マ・アン♡」


 ただし声は男性声である。

 とてもお綺麗な方々なのですが、彼女等は彼等であり、彼女等になりたい彼等なのです。


「これは皆様。どうもお久しぶりです。今来たところですからお気になさらず」

「かまかま~、おっそ~」

「もぉん。かまかまなんてひ~ど~い~。カミアって呼んでよぉん」

「かみあ~」

「うぅん、いい子ねぇん。はい玉ちゃんあげるわぁん」

「たまたま~。あむっ!」

「オジサマアンも玉ちゃんいるぅ?」

「いえいえ、お構いなく」

「オカマいなく~。コロコロコロコロ」


 飴玉と言う玉を渡してくるとても綺麗なオカマ様。

 もう少し言動には気を付けて頂きたいところですね。

 そんな事を思いながら、オジサンは飴玉をコロコロと転がす彼女の耳をそっと覆い隠す。

 クエスチョンマークを浮かべる彼女だが、そんな彼女ににこりを笑みを浮かべるだけで、決して耳から手を離すことはなかった。


「それでぇん? これが今回の商品ちゃんかしらぁん?」

「はい、そうです。とはいえ、私のご要望に応えて頂けるならば格安でお譲り致しますし、あらゆる工事費なども負担させて頂きます」

「あぁん。あれぇんのことねぇん。けど本当にいいのぉん?」

「ええ、彼等が今まで多くの女性を地獄に落としてきました。ですからその地獄を体験頂きましょう。女性としての地獄は勿論の事、男としての地獄も味わっていただきます。そして・・・」

「みなまで言わなくていいわぁん。ちゃんとオジサマアンのお望み通り有効活用してあ・げ・る」

「はい、よろしくお願い致します」

「?? よろ~。コロコロコロコロ」


 話しが終わった瞬間彼女の耳から手を離し、綺麗なお辞儀をするオジサン。

 そんなオジサンに習って彼女も同じく頭を下げた。

 やはりこの方は思わず撫でてしまいそうなほど愛らしいお方ですね。


 それからはとてもお綺麗なオカマの方々は商品である男性の方々を連れて行きます。

 これから自分達に何が起こるのか私とオカマ様方のやり取りでなんとなく理解したのか騒いでいますが、その悲鳴を耳にしても私の心は何も感じません。


「ざけんな! 俺を誰だと思ってやがる! 俺の親父はヤクザにだって顔がきくんだ! わかってんのかああん! おい! 聞けよクソ! おいそこの女! テメェ忘れねぇからな! ぜってぇぶっ壊れるまで犯して「黙りなさい」グベッ!?」


 いえ、嘘をつきましたね。

 少々、苛立ちを覚えております。

 状況を理解しているにも関わらず、自分ならば、自分の親ならばこの状況をどうにできると考えている愚か者を見ているととても苛立ちます。


「他者の痛みを知らず、地獄で生きる辛さを知らず。ただお前達はその場にか弱き子を落とし、嘲笑った。お前達は知らなくてはいけない。してはいけない事で楽しまれる辛さを。彼女達が歩んだ痛みを、人が人であることを望まなくなるほどの痛みを、お前達は知らなければならない。その道を、その命が尽きるまで歩み続けなければいけないのだ。それが死した彼女達への弔いとなる。お前達が殺した彼女達が天に召されるための贄となれ」

「オジサマアン。それくらいにしてもらえるぅ? あんまり力を込められちゃうとぉん。顔、壊れちゃうわぁん」

「これはこれは・・・失礼致しました」


 私としたことが少々感情に流されてしまいましたね。

 お恥ずかしい限りです。

 思わず彼の顔の骨を握り潰しそうになってしまいました。


「いいのよぉん。こういうゴミにイラつくのは仕方ないわぁん。そ・れ・よ・り、やっぱりオジサマアンの腕は逞しいわねぇん。物凄いお肉の量で見えないけどぉん、そのお肉の中にはとってもぶっとくて逞しいアレがみっちり詰まってそうだわぁん。お・い・し・そぉ~ん」

「お褒めの言葉ありがとうございます。もしも痩せることができましたらお見せしますよ」

「あらぁ~ん! そんなえっちぃ約束してくれるなんて困っちゃ~う」

「こまっちゃ~う。コロコロコロコロ」


 なんともにぎやかなお方です。

 ですが、彼・・いえ彼女と言っておきましょう。

 彼女のおかげで感情のままに殺さずに済んだのですから感謝しておきましょう。

 止めて頂けなければ、少々先日から溜まっていた鬱憤を晴らしてしまう所でした。

 誰も助けることができなかった不甲斐ない自分への怒りを・・。


「ぼよぶよ~。ごみごみが持ってかれた~」

「ええそうですね」


 それからしばらくして男性達は大きなトラックに詰め込まれ、連れていかれた。

 行先は日本国内ではなく、お外の世界でしょう。

 お外に連れ出してしまえば早々足は尽きませんし、人口が増える分、そう言うことを致すのがお好きなお方が多くいらっしゃいますから。


「ぽよぽよ~。お腹空いたなぁ~」

「おや、お食事をご希望ですか? でしたら私がお家までお送りしますが」

「ぱふぇ~」

「ふむ、お外で食べたいと?」

「ぱふぇ~」

「ですがお洋服が血で汚れていますし、お外で食べるのはちょっと・・・」

「ぱふぇ~」

「・・・・・・・仕方ありませんね。先日の反省も踏まえて私の上着や新品の服を持ってきているので、そちらに着替えてください。そしたら外食に付き合いましょう」

「おぉ~、ぱふぇ~」

「はい、パフェも食べましょうね。ただしパフェを食べるにはちゃんとご飯も食べてもらいますよ。お菓子ばかりでは身体に悪いですからね」

「むい~、ぱふぇ~」

「承りました」


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