第24話 愛の形は自由
「あとは貴方達に任せるわ。あと汚い男に触れたのだからちゃんと消毒しなさいね。そうしたら可愛がってあげるわ」
「「「「はいっ!」」」」
ビシッ! と敬礼する女王さんが連れて来た女性達。
そう言うのをご褒美にしてやる気が起こるのもどうかと思いますけどねぇ。
「オジ様もまたお会い致しましょう!」
「今度はもっといっぱい構って」
「いつでも遊びに来ていいですからね?」
「その醜い姿を少しでも改善する為のお料理もご用意したしますから、必ず来るのですわよ」
「ぷにぷにまたね~」
「はい、またでございます」
ペコリと頭を下げ、オジサンは女王さんのお車であるリムジンに乗り込む。
後部座席に・・・ではなく運転席に。
「それでは発進なさいブタオジ。私のお気に入りを特別に運転させてあげるのですから制限速度を守りつつ、遠回りしながらゆったりのんびり安全運転で向かいなさいよ。小さな傷の一つも付けたら許さないんだから」
「承りました」
元々の運転手の方がいらっしゃったのですがなぜか私が運転することになりました。
できる事なら広々とした後部座席でゆったりしたかったのですが、残念です。
「ほら、そんな端っこにいないでこっちにいらっしゃい。お手入れができないでしょ?」
「も、申し訳ないので、大丈夫ですよ?」
「ほらほら、そんなこと言わないの」
楽しそうに優愛さんのお相手をする女王さん。
少々強引な感じがしますが、優愛さんも遠慮しているだけで嫌がっている訳ではなさそうなので問題ないでしょう。
「キモオジ。優愛さんが怯えるでしょ。こっち見るんじゃないわよ」
「はい、申し訳ございません」
「え、あの、怖く、ありません・・・よ? 助けていただいた方ですし・・」
「けど気持ち悪いでしょ?」
「そ、そんなことは・・・」
「いいのよ無理しなくて、大丈夫、怖かったわね。大丈夫よ。お姉さんが傍にいますからね。あっ、何か飲み物でも飲む? それとも甘い物でも食べる?」
「だ、大丈夫です」
「もう、無理しなくていいのよ。ほらいい子いい子」
「あ、あぅ。大丈夫ですってばぁ」
優愛さんを抱きしめながらナデナデと頭を撫でる女王さん。
隙あらばスキンシップを心がけるのは変わりませんねぇ。
女性限定ですが。
というか、先程警察官だと名乗っておきながら車がリムジンって・・・・・色々間違っていますねぇ。
絶対不審に思われていると思うのですが何かいい言い訳を考えているのでしょうか?
「それでは発進しますのでちゃんとシートベルトを「いらぬこと言うんじゃないわよ。クソデブ」・・これはこれは恐ろしいですねぇ。でぇへへへへへへっ」
ついにはオジと言う単語が無くなり、身体的特徴でしか呼ばれなくなりましたね。
そんなにシートベルトをすると抱きしめづらくなるのが嫌なのでしょうか?
だとしてもやはり安全のために装着して欲しいのですが・・・・・・はい、わかりましたので睨まないでください。
「全く困った方ですねぇ」
「何か言ったかしら?」
「いいえ、なんでもございませんよぉ」
制限速度を守りながら丁寧にゆっくりとリムジンを走らせて二時間ほどで目的地に到着しました。
到着した場所は優愛さんのお家・・・ではありません。
「はい、到着いたしました。はい、はい、それでは入らせて頂きますね。はい、夜分遅くに失礼したします・・・・どうぞ。優愛さん。サプライズでございますよ」
「・・・・・・・」
「あなたの事だから何か意味があってこんなところに連れてきたのでしょうけど、私にくらい一言言っておくべきじゃない?」
オジサンが連れてきたのは児童養護施設がある場所。
今は真夜中であるため、施設内は淡い明かりが灯っているだけで、元気に駆け回る子供達の姿はない。
唯一明るい電気が付いているのは当直の職員がいる部屋だけであった。
「女王さんはなんだかんだと可愛らしい女の子のお願いに弱いですから、話してしまうではありませんか。そしたらサプライズになりませんよ」
「秘密にしろと言われれば私だって黙っているわよ」
「涙目&上目遣いでもですか?」
「・・・・・もちろんよ」
あまり信用できぬ返事ですね。
やはり話さなくてよかったです。
「ここは・・・・・・どこかで・・・」
「ここは優愛さんがお越しになりたかった場所ですよね?」
「はい・・・・そうだと思います」
少しぼんやりとしながら答える優愛。
「何度かこちらにいらしていたようですが、とても小さい頃のお話ですからね。記憶が曖昧なのも仕方がありません」
「・・・はい」
「残念ながら建物は変わってしまいましたが、想いでの場所だけは変わらず残っておりますのでどうぞお入りください。許可はもらっておりますので」
オジサンはゆっくりと施設内へと歩んでいくので、優愛達もその後に続いた。
児童養護施設内に入る前に優愛が思ったことは、おしゃれな造りの小学校と言った感じだ。
チューリップが咲いている花壇があり、子供が駆け回れるだけの広い遊び場があり、ブランコや滑り台などの遊具もある。
建物内に入ってみればお勉強するお部屋があるのは勿論の事、食堂やお風呂場、集団遊戯療法室と言う聞きなれないお部屋もあった。保健室みたいなものなのかな?
「着きましたよ」
「・・・中庭」
「そうですね」
「・・・・大きな木・・・ですね」
「そうですね。日本が誇る桜の木ですね」
「・・・・・・・・」
二人のやり取りに、女王さんはだから何と言いたげであったが、力無くフラフラと歩みだす優愛の姿を見て問いかけることはしなかった。
またオジサンがサプライズだとか言って、自分に何も話さないことにいら立ちながら。
「・・・・・これは・・見たことがあります」
桜の木に触れながらそう呟くと、ぐるりと桜の木の周りを歩みだす。
そして、ある場所を見つけるとピタリと止まった。
桜の幹で隠れていたが、積み重ねられた石がそこにあった。
「・・・・・見たことが・・・・あります」
これを私は見たことがあります。
とても小さい頃にこれとまったく同じものを見たことがあります。
そしてここには・・・
「ごめんなさい」
謝罪を口にした後、優愛は積み上げられた石を丁寧に崩し素手で地面を掘りだした。
思いのほか地面は柔らかくて優愛の手でも問題なく掘ることができた。
そして掘り進んでいくと、真四角の可笑しな鍵穴が付いた鍵のかかった小さな木箱を見つけた。
これは何なのか? などと言う疑問は浮かばない。
これは私のだ。
だっておねだりして、おねだりして、やっと貰えた物なのだから。
木箱の鍵を見つめた後、優愛は大事にしていたキリスト キーホルダーをおもむろに手に取り、鍵穴に差し込む。
普通の鍵穴と違う真四角な鍵穴に差し込み、右に回すと鍵が外れ、木箱の蓋を開けてみると、中には木で作られた指輪が二個入っていた。
木の指輪の中央には小さなダイヤモンドの宝石がはまっていた。
「バイオレットウッド」
「??」
「その指輪に使われている木材のお名前ですよ。別名パープルハートとも呼ばれております。茶色ではなく紫色なのが特徴ですね」
「バイオレットウッド、パープルハート」
真っ暗な闇夜のせいで木の指輪が紫色なのかはわからないけれど、なんとなくこの木の指輪は艶やかで優しい紫色の指輪であると思える。
昔、そんな指輪を見たことがあるから。
「大事にしてあげてくださいね。それは貴方が大好きだったお父さんが、生前大切になされていた指輪なのですから」
「!? なんで知っているの?」
「知っていますよ。それが欲しくて欲しくて、優愛さんが珍しく我儘を言われたと聞きましたからね」
「!?!? ま、まさか! お父さんのお友達ですか!」
優愛の問にオジサンはただにこりと笑みを向けるだけであるが、優愛がどうとらえたかは言うまでもないだろう。
「お父さんは! お父さんは何かほかに言ってませんでしたか! 何でもいいんです! なにか教えてください!」
「そうですねぇ。他に私が聞いているの・・・花壇に想いを込めていたと聞いていますね」
「花壇・・・・」
オジサンの言葉を聞いて、優愛は駆け出す。
確か子供達の遊具が置いてある場所に花壇があったはずだから。
そうして息を切らせながら花壇のある場所まで辿り着く。
花壇には赤と紫とピンクのチューリップが咲き誇っていた。
「ふぅ、ふぅ、赤のチューリップは、ふぅ、ふぅ、真実の愛、愛の告白、ふぅ、ふぅ、紫色は不滅の愛、ふぅ、ふぅ、ピンク色は真実の愛、ふぅふぅ、愛の芽生え、げほげほ、で、ございます」
咳をするほど必死に追いかけて来たオジサンは、律儀にチューリップの花言葉を語ってみせる。
オジサンの隣には、この程度の距離を掛けたくらいで咳き込むオジサンに呆れた女王さんがいたが、無言で背中をさすっているあたり気遣ってくれているようだ。
「ど、どうも・・ふぅ・・・・その花達がお父さんのお気持ちですね。ご結婚成されていたようですから、恐らく妻にあてたお言葉かと」
「・・・・・・・」
違う。これは私に向けられた想いだ。
だってお母さんはここの事を知らないもの。
お父さんはここの事を話していないもの。
だからこの想いは・・父が娘に向けるべきではない異性としての恋愛感情だ。私も抱いていた畏怖べき感情と同じだ。
「そういえば木言葉を語っていませんでしたね」
「木言葉ですか?」
「ええ、今優愛さんがお持ちのその指輪。材質はバイオレットウッドを使用しており、その木言葉は優しい愛、誠実、そして変わらぬ愛です」
「・・・・そうですか」
小さい頃から抱いていた、許されない想い。
叶うはずもない想いと理解しつつも、父が大切にしていた指輪をねだった。
その指輪は、一生涯愛する人に渡す為の物であると知りつつも、幼さを武器にして貰ったのだ。
とても汚く醜い行動であっても、それだけは欲しかったから。
この叶わぬ想いを形として残しておきたかったから。
だというのに、父は私と同じ思いを抱いていてくれた。
それがとても嬉しくて、涙が零れそうになったけれど。
「・・・亡きお父さんの想いを、亡きお父さんの遺品を見つけて下さり、ありがとうございます」
私は涙を零すことなく深々と頭を下げた。
この醜くも愛おしい許されない恋心を誰にも知られないために。
それから優愛はオジサン達に家へと送ってもらい、家に着いたのは朝日が昇り始めた時刻であった。
「それで? どこからどこまでが貴方の作り話で、何でこんな事をしたのかしら?」
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