第23話 彼女達にとっては男は顔じゃない


 あれからしばらくして優愛さんは落ち着きを取り戻しました。

 ただ落ち着きを取り戻した後、己の恰好がとても恥ずかしい事になっており叫ばれてしまいました。

 どうにかして差し上げたかったのですが、残念なことにホテルの部屋は全てオートロック式であり、しかも男達の指紋認証などもしなければいけない特別性のドアで作られていたのでどうにもなりませんでした


 無理やりドアを開けさせることもできなくはないですが、泣いている優愛さんから離れるのもどうかと思いますし、骨を折ったとはいえ一人にさせるのも危険ですし、何より怖い目に合ったと言うのに一緒にお部屋に入るのも嫌がるだろうと思い断念させて頂きました。

 私が身に付けている服を渡しても良かったのですが・・・こんな肥えたオジサンが身に付けていた服を着るのはイヤでしょうしね。


 何か羽織るモノを持ってくればよかったですね。


ポーン


「用意がなってないわね。デブオジ」


 用意の悪さに反省していると専用エレベーターから黒のハイヒールと黒スーツに身に包んだ金髪のとても小柄な女性が現れました。

 見た目はホントに幼くお子様の様に見えます。


「おやおや、お久しぶりです。女王さん。今日は筋肉さんではないのですね」

「常識的に考えて女性が標的にされているのだからあの筋肉達磨を連れてくるわけがないでしょ。相変わらずのバカオジね」

「それもそうでございますね。申し訳ございません」

「誤ってないで後ろ向けエロオジ。それとも変態オジと呼んだ方がいいかしら?」

「これはこれは手厳しい」


 強い口調で目付きは鋭い。

 目上の者を尊重するようなタイプではなく、とても敵を作りやすいタイプの様に見えるでしょうが、とてもお優しいお方ですので、女王さんを好きになる方も多いようです。


「そちらの可愛らしい貴方。替えの服を持ってきてあげたからこちらにいらっしゃい」

「え、あの・・・あなたは」

「私は警察の者だから安心して。はい、警察手帳ね。安心した? 安心したならこっちにいらっしゃい。いつまでもむさい男共がいる中でそんな恰好で居たくないでしょ?」

「は・・・はい」

「うふふ、いい子ね」


 まぁ、その優しさは女性限定でもありますし、女王さんを好きになるのも女性ばかりですけれどね。

 そもそも女王さんは同性である女性が大好きですからね。


「変な事は致しませんようにお願いしますね」

「私をそこらに転がっている性欲の塊と一緒にしないで頂戴。傷ついた可愛い子に何かするなんてありえないわ」


 そう言いながらルンルン気分で優愛さんを引き連れて部屋へと入っていきました。


 部屋は厳重なセキリティが施されているのですが、女王さんはとても機械に強く、ハッキングなるモノが大得意とのことです。

 恐らく専用エレベーターもそのような手段を用いて使用したのでしょうね。

 何をどうやったのかはオジサンには理解できませんが。


「デジタルは難しいですね」


 時代の流れに乗れないことに少しの寂しさを覚えながら、お着替えが終わるのを静かに待った。




 かちゃりと音を立て扉が開く。


「おや? 優愛さんはいかが致しましたか?」

「傷ついた女の子にはひとりで涙を流す時間が必要なのよ。一時間くらい放っておいてあげなさい。このグズオジ」


 そう言うと扉を少しだけ開けた状態にしながら壁に寄りかかりタバコを取り出した。


「ん」

「申し訳ございません。私はタバコを吸わないのでライターは持ち合わせていないのですよ」

「ん」

「ご自分でおつけになれば宜しいのでは?」

「ん」

「承りました」


 わざわざ懐から己のライターを取り出し私に渡してくる女王さん。

 何が何でも自分ではつけたくないようですね。


「ふぅ~・・・まったくクズが多くて困るわね。今回は未遂ですんだようだけれど、それでも心に傷を負うことになったわ」

「そうですね。私がもう少し早く辿り着ければ優愛さんに怖い目に合わせずにすんだのですが、面目次第もありませんね」


 私が女王さんのように機械に強ければ男達に組み敷かれる前に処理できたのですけれどね。


「あなたはよくやっている方だし、他の間抜け共よりも手際はいいほうよ。それに貴方は報酬の全てを使ってでも加害者のケアをしようとするからとても好ましいわ」

「幸いご先祖様方が稼いでくださったおかげでお金に癒着がないだけですよ?」

「そうだとしても赤字になってまで働く変人なんていないわよ。この変態オジ」


 甘い匂いの発するタバコを咥えながら、どこかバカにした口調で語ってくる女王さん。

 何故でしょうね。

 変人だと変態だと言われているのですが、とても温かみを感じてしまうのは。


「まぁ今回はそこらに転がっているクズ共のおかげで赤字にはならないから安心なさい」

「彼等は警察の方々に引き渡さないのですか?」


 彼等へ対してのお仕事は何もなく、証拠と共に彼等を警察に引き渡し、法で裁くことになっていたはずです。

 私が元々お受けしていたお仕事は、優愛さんが行っていたイタズラの忠告とそれを止めることでしたから。


「本部から急遽新たなお仕事が入ってきたのよ。そこに転がってるクズ共の親を利用するお仕事がね。だからそいつ等いいお金になるわよ。人質としても使えるし、脅しにも使える。もしくはこの地のヤクザに小さな借りが作れるわ。薬物に売春、違法ポルノ映像の売買にその他もろもろ。そいつ等は遊び半分でやっていたようだけど、ヤクザ共に許可なく商いをして、上りを横からかすめ取ったことは事実だもの。メンツを潰されて怒り心頭とまではいかないけれど、落とし前は付けたいと思っているはずよ」


 流石にヤクザなんて社会のゴミに渡すなんてもったいない事させる気はないけど、と言いながら、甘い匂いのするタバコの煙を私に吹きかけてくる。

 とても煙たいのでやめていただきたいのですがねぇ。


「だからかなり高額なお金が入り込んでくるわよ。良かったわね。今まで無駄にばら撒いていたお金が戻ってくるわよ」

「そうですか。では後で優愛さんのイタズラで傷を負ってしまった方々にばら撒くことに致しましょう」


 優愛のイタズラ。

 それは痴漢冤罪と言うイタズラでした。


 本来痴漢冤罪は重い罪ではあるのですが、優愛さんは金銭の要求も被害届も出すことなく、ただ謝罪と神への懺悔を要求していただけなので大きな話にも、問題にもなりませんでした。

 ただ被害者側が名誉棄損を訴えた場合どうなっていたかはわかりません。

 まぁ被害者側も話を大きくしたくはないので、大半は形ばかりの謝罪をして引き下がっていましたが、それでも運悪く知り合いの方に現場を見られ、噂を流され家庭崩壊した方もいらっしゃいます。

 優愛さんは気付いていないでしょうが、あの子が行ったことで不幸になられた方がいるのも事実です。


「ホントお節介ね・・・リストはあるの?」

「はい、作成済みでございます。後ほど筋肉さんにお渡ししておきますよ」

「筋肉達磨ではなく私に渡しなさいよ」

「いえ、お手数をかけると思いますので筋肉さんにお渡しします」

「ふ~ん・・・・・・・・・・・ホントお節介のオヤジね」


 不機嫌そうにタバコを吸い、顔に吹きかけてくる女王さん。

 恐らく今回クズ共に弄ばれた女性達の為にも使うことが見抜かれてしまっているのでしょう。

 手続等がとても面倒で、手慣れている筋肉さんにお願いしただけなのですがねぇ。


「それでは彼等を縛り上げてまいります。運び屋さんは何時ごろにいらっしゃいますか?」

「そんなことしなくていいわよ。そろそろ私の可愛い子達が来るはずだもの」


 女王さんの言葉を聞いたかのように専用エレベーターがまた勝手に動きだした。

 そしてエレベーターが戻ってくると女王さんの部下である見目麗しい女性がわらわらと降りて来た。


「「「「お待たせしました女王様!」」」」

「挨拶はいいわ。それよりもさっさと回収しなさい。サボらず真面目に働いたら後で可愛がってあげるわよ」

「「「「ぽっ」」」」


 そして降りて来た皆様は女王さんと同じ性癖の持ち主です。

 誠に困った方々ですね。


「それとデブオジに挨拶したいのならしておきなさい。別に怒ったりしないから」

「はい! お久しぶりですオジ様!」

「お久ですオジ様。会えてうれしいです」

「また太りましたかオジ様?」

「暑苦しさが増してアツオジになっておりますわよ。少しはお痩せになった方が宜しんじゃないかしら?」

「ぷにぷにです~」


 女王さんのお許しが出て見目麗し方々が声をかけてくださいます。

 誠にありがたい事です。


「皆様お久しぶりです。お元気そうで何よりですね。不自由なく暮らせていますか?」

「はい! 大丈夫です! お仕事は忙しいですが充実した日々を送らせて頂いております!」

「あまりオジ様が構ってくれないから楽しくないですけど」

「少しは遊びに来てもいいのですよ?」

「アツオジなら特別に女王様も許してくれますわ」

「ぼよぼよです~」

「ええ、機会があれば少しだけお邪魔させて頂きます」

「はい! お待ちしております!」

「なら美味しいお菓子を用意しておくです」

「真夜中に遊びに来てもいいですよ?」

「それは女王様が許してくれないわよ」

「夜はえちっち~の時間です~」

「あら貴方達さえ良ければこのデブオジを混ぜても構わないわよ。日頃から世話にもなっているし、恩返しも兼ねて遊んであげるわ」

「はい! 私は問題ありません!」

「私もです」

「恥ずかしいですが異存はないですよ?」

「楽しみにしておりますわ」

「新しい下着をご用意しなくてはいけませんわね」

「えっちっち~のお時間に一人追加です~」


 ですがこうやってからかって来るのは誠に困りものですね。

 私も男ではあるので、そのようなお誘いをされると心が揺らいでしまいます。


「誠に光栄なお誘いではありますが、ご遠慮させて頂きますね」

「なによ。私と彼女達に恥をかかせる気?」

「そのようつもりはございません。私では皆様とは釣り合わない人間と言うことです。見た目もこんなですから」

「釣り合う釣り合わないを決めるのは私達の勝手よ。いいから今夜にでも付き合いな「そろそろお仕事に取り掛かっては如何ですか?」・・・・ふん、ヘタレオジ」


 不機嫌そうに鼻を鳴らした後、女王さんは部下達に指示を出す。

 心なしか指示を出された部下の女性陣も不機嫌そうですね。


「少しはあの子達の気持ちも汲んであげなさいよ。皆貴方に助けられた恩返しがしたいと思っているのだから」

「恩の返し方が問題なのですよ。せっかく身体を弄ばれずに暮らしていけていると言うのに、私などに身体を差し出すのは本末転倒ではありませんか」

「それくらいしか返し方を知らない子達なのよ。それと自分を卑下するような言い方は止めなさい。そう言うのは嫌いよ」

「でぇへへ、申し訳ございません」

「相変わらず気持ち悪い笑い方ね。このキモオジ」


 鋭い目つきで睨みつけられたあと、またタバコを吸い顔に吹きかけてくる女王さん。

 ほんと毎度毎度タバコを吹きかけるのは止めてくれませんかねぇ。









 補足

 女性が男性の顔にタバコの煙を吹きかける行為は、恥じらう女性が男性に夜のお誘いをしている意味合いが込められている場合があるため、使わせて頂きました。

 互いの関係性にもよる所ですが、オジサンが助けた女性の多くは、過去に苦しい事情を抱えている方が多く、そう言う世界で生きた経験がある方々なのでしょう。

 故に異性の男性よりも同性の女性に好意を寄せやすい人が多い・・・・と言う感じです。


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