第21話 絶望と悲鳴と春の終わり
「ゆ、ゆ・・ゆーくん・・・これ・・なに?」
部屋に入るとそこには知らない男の人達がいた。
それも男の人達だけではなく、大きなカメラやライトなど色々な機材が置かれている。
なので優愛はこんなにも困惑し問いかけているのだが、そんな優愛の問いかけに裕也は答えることなく無理やり肩を抱き男達の元へと連れて行った。
「紹介するぜ優愛。こいつ等は俺のダチだ。仲良くしてやれ」
「な、なんでお友達がいるの?」
「あん? 何でってそりゃあ・・・」
言葉を止めてわざわざ優愛の顔を覗き込む裕也。
そして気持ち悪い笑みを浮かべながら
「・・・皆で遊ぶためだろうがよ」
そんな事を言って来た。
「そ、それって・・」
背筋がゾワゾワと凍るほどの表情。
今まで聞いたことのない冷たい声。
自分に向ける気持ち悪い視線。
その全てが初めての事で、優愛は言いようのない恐怖を覚えた。
「なんだ? まだわかってないのか? これから皆でお前を犯すって言ってんだよ!」
「う、うそ、嘘だよね?」
「はっ、嘘だと思うか? なら」
ビリビリビリビリッ!
「え?・・・・きゃあぁぁぁぁぁっ!!」
行き成り胸元に手を入れられたかと思えば、服を破かれた。
裕也の手にはいつの間にかナイフが握られていた。
「ひゅ~、結構いい身体してんじゃん」
「根暗の文系女子高生って聞いていたから貧層だと思っていたが、中々に楽しみがいのありそうな身体だな」
「い、いや・・・・・・っ!?」
舐め回すような視線を向けられ身体を隠しながら裕也に視線を向けるが、裕也は楽し気に気持ち悪い笑みを浮かべながらナイフをちらつかせていた。
それがたまらなく怖くて優愛は出口へと駆け出した。
部屋の扉を開け、廊下を駆け出す。
だが、駆け出した廊下には男が二人待ち構えていた。
後ろを振り向いて駆け出そうとするも、後ろにも二人の男が待ち構えていた。
皆が皆下卑た笑みを浮かべている。
「逃げる事無いだろゆ~ちゃん。一緒に楽しもうぜ~」
「ベッドの上で可愛がってやるからよぉ~」
「それともお外がご希望ですか~?」
「お外を希望してるのはテメェだろ! けははははっ!」
「た、たすけてーーーー! 誰か! だれかーーーーーーっ!」
怖い
恐怖を振り払うために私は叫んだ。
ここはホテルだ。
私達の他にお客がいるはず。
だから、その誰かに声が届けば直接助けられることができなくとも様子を見てホテルの人や警察の人を呼んでくれると思ったから。
「いやっ! 放して!! あぐっ!? た、たすけてっ! たすけっ! いやーーーーっ!!」
通せん坊する男達は何もせずただニヤニヤと笑っているだけだったが、部屋から出て来た男が叫ぶ私に掴みかかってきた。
掴まれて押し倒されて両手を押さえつけられて馬乗りにされた。
それでも私は懸命に声を出した。
この声が届けるために。
助けを呼ぶために。
「流石にうるせぇし、ぶん殴っていいか?」
「何言ってんだ。これが面白いんだろうが」
「つ~かさっさとネタバレしてやれよ~。この階には誰もいねぇってよ。ゆ~くん」
「お前がネタバレさせてんじゃねぇかよ」
「カメラは回ってるぜ~」
だが叫べども、叫べども、誰かが様子を見に来ることはなかった。
「あんまり騒ぐなよ。ゆ~ちゃん。この階には誰ものいねぇし、下や上に繋がる場所は俺達が使ったエレベーターしかねぇから無駄だぜ」
そして叫んでも意味のない理由を大好きな彼から聞かされた。
信じたくない。
すんなり部屋から逃げる事を黙認した訳が納得できてしまう。
自分達以外この場におらず、助けも呼べない状況であるのだから。
「ゆ~くん! なんで、なんで・・・たすけて、たすけてよぉ」
「おうおう、助けてやる助けてやる。助けてやるよ」
裕也の言葉に周りの男達は思わず吹き出す。
それが嘘であることを男達はわかっているからだ。
「けどな~、助けるにしても時間がかかるんだ。だからこういう事して時間稼いでもらってもいいですか~?」
スマホを向けられ、私はある画像を見せられた。
飛ばし飛ばし見せられるその映像は、私よりも前に被害にあわれた女性のものだった。
複数の男性に囲まれ抵抗できずに嬲られ、それが終われば何か薬のようなモノを打たれていた。
そしてそこから場面が変わる。
今度は女性一人と男性一人だ。
女性は身体を震わせながら嫌がりつつも、男性を受け入れていた。
嫌々でもそうしなくてはいけないように。
「こうやってさぁ。時間を稼いでいる間にどうにか助けられるように話を付けてきてやるよ。だからまずは一週間頑張ってみようか」
「い、いっしゅうかん?」
「ああ、安心して良いぜ。インフルエンザってことにして学校側にも連絡しておいてやるよ。ついでにほら、医師の診断書も用意済みだ」
「あ、あ・・・」
「普通はこんなことしてもバレそうなものだよな? だがお前の親は、お前に関心がないおかげでバレるこたぁねぇ。親共は家に帰って来ねぇんだろ? 月に一度顔を合わせることも稀なんだろ? だったら問題ねぇよな。お前の口から俺に教えてくれたんだからまず間違いねぇよなぁ?」
ゆ~君の言っていることは本当だ。
私が話したんだ。
愚痴をこぼすように、私の口から家族事情を話したんだ。
「お前みたいに親に見放されて、ダチも少なくて、少し優しくしてやれば警戒心無く引っ付いてくる女は見ていて面白かったぜ」
「だまして、なんで、だまして・・・」
「遊ぶためにきまってんだろ? お前みたいなバカな女を引っ掛けて、廻して、壊して、落ちていく様が面白いからやってるんだろ? なぁ、もっと泣きじゃくってくれよ。なぁ、もっと絶望してくれよ。なぁなぁなぁ、もっと・・・嫌がれよ」
裕也の言葉が合図となったのか、馬乗りになっていた男が切られた服を破っていく。
辛うじて隠されていた私の身体が露わにさせられていく。
「いやっ! 見ないで! 見な!? ヤッ!! ヤダッ!! 撮らないで! やめて! やめてよっ!」
男が一人、私の裸体をカメラに収めていく。
口元がとてもにやけていて・・・・気持ち悪い。
「い、イヤッ! 触らないでよッ!!」
露わにされた私の身体を男が触ってくる。
遠慮もなく力任せに、やりたいように触ってくるのが・・・・気持ち悪い
「ヤダよ。イヤだよ。やめて、やめて・・・やめ、ひっく、やめて、ください。お願い、お願いします」
叫んでも意味がないそれがわかって、私は懇願した。
許しを請うように、何も悪くない私は懇願した。
そんな私を男達はただ楽しそうに笑みを浮かべている・・・・気持ち悪い。
「やだっ! やめて! やーーーっ! ゆーくん! ゆーくん!」
懇願してもやめてもらえない。
だから私は、私を騙し、彼等と同じ気持ち悪い笑みを浮かべる彼に助けを求めた。
もしかしたら彼が仕掛けた質の悪い冗談なのかもしれない。
そんなありもしない希望に縋って。
「あはははははははっ! お前最高! まだ俺を信じているとか最高!」
「たすけて~。ゆ~く~ん」
「げはははははっ!! やめろやバカ! 笑って気持ちよくなれねぇだろ」
誰も聞いてくれない。
誰も私の声を聞いてくれない。
私の言葉に耳を傾けてくれない。
こんなにも心から叫んでいると言うのに、私の声は誰にも届かない。
「ひっく、ひっく」
手を握りしめながら、気持ち悪い笑みを浮かべる男の人達の姿を見たくなくて私は目をつむる。
怖くて怖くて怖くて怖くて、抵抗ができない状況が恐ろしくて、現実から目を背けるように。
「やだぁ。いやだよぉ」
「「「「ひははははははははははははははっ!」」」」
笑い声が聞こえる。
下卑た男の笑い声が私の悲鳴をかき消していく。
「神さま。神さま」
「「「「ひははははははははははははははっ!」」」」
助けを求める言葉も、祈る願いも、全てが男達の笑い声でかき消されていった。
「でぇへへへへへへっ!!」
「あん? げぼっ!?」
「な、なんだてめがごっ!?」
「くそ、だれだてがげっ!?」
そしてそんな私の助けを求める声も、男達の下卑た笑い声もかき消すほどに気持ち悪い笑い声が塗りつぶした。
「でぇへへへへへへっ! 誠に吐き気がしますねぇ」
気持ち悪い笑い声をあげている人は、馬乗りになっていた男や手足を押さえつけていた男達をぶん殴り、無理やり引き剥がすと、私を守る様に私と男の間に立った。
「申し訳ございません。あなたの助けを求める声がちゃんと聞こえていたと言うのに、遅れてしまいました。ですがもう大丈夫ですよ。私が、いえ、私達が守りますからね。でぇへへへへへへっ」
贅肉まみれの背中で、全然頼りがいが無いけれど・・・けれど声が届いていた。
ちゃんと私の声が届き、そして助けに来てくれたことが嬉しくて、助かるかもしれないことが嬉しくて、私の瞳は自然と涙を零していた。
なぜだろう。
誰も傍にいないはずなのに、一瞬誰かに頭を優しく撫でられた気がしたのはなぜだろう。
大丈夫だと言われているのは・・・・・・・なぜなのだろう。
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