第16話 冷たいお家に残る僅かな灯り
年上彼氏から大人の階段を上るプチ旅行に誘われてから数日、優愛は落ち着きがなかった。
約束した日は、土日を挟んだ二日間。
その二日間で自分は女になることがわかっていたから。
「これとこれと、後これも・・・」
だから美容室の予約や可愛らしい服・・・それと。
「ふぇ・・・これは・・・けど・・・・・・・・・えーい! どうにでもなれぇー!」
ちょ、ちょと、えっちな下着なんかも用意している。
あと、色んな所のケアも・・・・・。
お、女の子は色々と準備があるんだよ!
「え、え、うわぁ、え、えええ、これ、やだ、これ、えぇ・・・・・・・・・これ舐めたりするの?・・・えぇぇ」
そう色々と準備があるのだ。
学校では教えてくれない色々な事を。
そんな感じで私は彼とのプチ旅行の準備に追われていた。
彼との大事な最初の思い出を少しでも良い思い出にする為に。
そして自分が恥をかかないために。
「あっ、そうだこれも持って・・・・・・・・・・・・・」
ワクワク、ドキドキしながらプチ旅行の準備をしていた優愛だが、不意にその手は止まった。
その理由は重い扉が閉じられる音が聞こえたからだ。
この家に知らない誰かが入ってきた・・・と言う訳ではない。
帰った挨拶の声はなく、ドタドタと慌ただしい様子で自分の部屋を通り過ぎると、その先にある部屋へと入った。
その時点で誰が家に入って来たかなど想像できた。
私に一切興味を持っていない両親のどちらかが帰ってきたのだ。
そして、どちらの両親が帰ってきたのかはわからないが、その人は部屋の中でガサゴソと何かを漁ったあと、また慌ただしく足音を立てながら出ていく。
勿論いってきますなどの挨拶をされることなく、ガチャリと扉と鍵が閉まった。
車のエンジン音が聞こえ、遠ざかっていく。
「・・・・・・・・・・・・・」
一言声くらいかけて欲しいと思ってしまうのは我儘なのかなと思ってしまうが、そんな願いが叶うはずもない事を私はイヤになるほど知っている。
私の母はそう言う人で、今の父はそう言う人だと私は知っているのだから。
「・・これも・・・もってこ」
きゅっと握り締めたイエス・キリストのキーホルダーを握り締めながら、冷たくなった心を守ろうとする。
優愛は神様を信じていないけれど・・・けど、この神様はとても大事なものだから。
このキーホルダーは優愛の大好きな人と、大好きだった時の思い出が詰まっているのだから。
そんな彼女の姿を何かが見つめる。
すぐ傍で、されど決して届かぬところから。
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