第13話 これは捕まっても仕方が無い


 私の意見が通り警察がいらっしゃいました。

 そして私は連れていかれ牢獄に入ることに・・・・・・・と言うことにはならず、只今皆様とても困惑していらっしゃるところです。

 その理由は被害者にあわれた女子高生が、加害者が警察に連れていかれる事を強く拒んでおり、被害届を出す気も損害賠償を求めることもないからですね。


 故に警察は動けない。

 被害者側が加害者を庇い。

 加害者側のオジサンも、冤罪であると容疑を否認しているのだから。


 しかも被害者側が警察を呼ぶのではなく、加害者側が警察を呼ぶと言う意味の分からない行動をとり、


「いいですか。私が逮捕などする必要ないと言っているのです。被害にあった私がですよ。私は法の下でこの方を裁くつもりなど無く、心からの謝罪と更生する機会を与えたいだけなのです。あなた方警察にこの罪人を引き渡してしまったら、彼の人生はどうなるか考えたことはありますか! たった一度の過ちで、この方の人生が壊されてしまう責任を貴方達は負えますか!」


 被害者側が加害者側を庇う状況であるので、警察側としてはどうするべきかとても困る状況であった。


「いやいや、お嬢さん。人が罪を犯したならばちゃんと神様への懺悔や謝罪よりも先に、法の下で裁かれるべきですよ。そうでなくては秩序が乱れますからね。あっ、それと警察の方々、何度も言わせて頂きますが、私は痴漢など致しておりませんのであしからず。そしてこちらの方が痴漢をされていたことも真実でありますので、私に痴漢冤罪をかけようとしていないことも再三伝えさせていただきます」


 更に言えば加害者側もこんな感じで被害者側に訪れるかもしれない不利益を先んじて否定し庇うので、いったい自分達は何のために呼ばれたのかわからない状況であった。


「人が間違いを犯したならばまず反省することが先です。そして反省したうえで神に許しを請い、懺悔することで新たな人生を歩むのです。罪を憎んで人を憎まずですよ。わかりますかオジサン。そして貴方は私に痴漢をしました。これは確定事項ですのでちゃんと謝ってください。絶対訴えたりはしません。神様にだって誓いますから安心して謝罪してください。もしくは謝罪がおイヤでしたらどうぞこちらのミニミニ神様に懺悔なさってください」

「ですからやっていないので謝罪致しませんよ。というかとっても小さなキーホルダーですね? こちらはYES様ですか?」

「そうです! イエス様です!・・・・・・・なんだか発音可笑しくありませんか?」

「気のせいではございませんか?」

「そうですか?」

「そうですよ。ほらイエス様の言葉に「何時疑う事無かれ」という言葉があるではないですか」

「確かに聞いたことがあるような・・・・・・・何故でしょう。発音が物凄く可笑しく思えてなりません」

「え~と、お二人共、そろそろ宜しいですかな」


 流石に話が脱線し始めたので、呼ばれた警察官が話を戻すために声をかける。


「再度ご確認させてもらいますけど、此方の方が痴漢行為を行ったが、彼はそれを否定。そして加害者側である彼女が求めるのは、法的処置でも精神的苦痛に対する損害賠償の請求でもなく、謝罪してほしいと言うことで宜しいですね」

「謝罪と己の行いを悔いて懺悔してほしです。そして日に一度は協会にて祈りを捧げるのです」

「おやおや、先程までおっしゃっていた内容とは異なるようですが?」

「あなたが我儘を言うからです! なので今決めました! 貴方には毎日教会で祈りを捧げ、人として必要な神様への信仰心が必要なのです。そして神様に懺悔するのです」

「なるほど、神様に「やっちゃったぜ!」みたいな懺悔をするのですね。わかりました。教会には行きませんが、そのような懺悔を神様に致しましょう」

「あなたバカにしてますよね!? 」

「いえいえ、バカになどしておりませんよ。でぇへへへへへへっ」


 誰が見ても純粋そうな少女をおちょくっているようにしか見えない。

 久しぶりに年若い女性とお話しできてオジサンもちょっと楽しいのかもしれない。

 最近まで幸さんという女の子と暮らしていたので、彼女がいなくなって少し寂しかったのかもしれない。


「笑っている時点で認めたも同然です! もぅ! 怒っちゃいますよ! 怒って警察の方に連れて行ってもらいますよ! 被害届だって出しちゃうかもしれませんよ!」

「おやおやそれは困りますねぇ。けれどあなたが出したいのでしたらどうぞお好きになさってくださいね」

「んな!? そんなこと言っていいんですか!? 出しちゃったら警察に捕まっちゃうのですよ! お仕事無くなっちゃいますよ!?」

「ああ、それでしたらご安心ください。私は無職ですから失う職はございません」

「え?・・・あ・・・・・・はい」


 世間様に顔向けできないお仕事をこなしており、厳密には無職では無いのですが・・・まぁ無職で良いでしょう。

 社会的に私の立ち位置は仕事をしないで遊び惚けている無職のオジサンですから。


「で、でも、あの・・・あっ! 家族! そう家族です! ご家族の方々に迷惑が掛かりますよ! 妻やお子さん。両親やご兄弟の方々に迷惑が掛かります! 家庭崩壊待ったなしですよ!」

「兄弟はいませんし、両親も亡くなっております。そして私は独り身ですので、家庭崩壊が起こることなどございません。そもそもこの様な見た目の者に、女性が結婚を望むと思いますか?」

「あ、あぅ・・・」

「ことごとく論破していきやがる・・・・・・・このオジサン・・・最強かよ」

「悲しい最強だけどな」


 自分で言っていて少々悲しくなりますが、それが現実です。

 誰しも見た目が整っていない男性の元になど嫁ぎにきたいと思う方はいないでしょう。

 そして警察官の方々は同情的な視線を向けないでいただきたい。

 更に言うならば「これから人生良い事があるさ」と言いたげに、肩を叩いてこないで貰えませんかね駅員さん。


「まぁ、そんな感じですので仮に捕まってもさほど被害はありませんのでお気になさらず。それにお金さえ払えば有耶無耶にできますので問題ございません。これでもオジサンは人生を何度かやり直せるくらいの資産家でもあるのですよ」

「お、お金で解決するつもりですか?」

「はい、それで後腐れなく解決できますからね。でぇへへへへへへっ」

「うわぁ、このオジサン。なんちゃって最強ではなく、普通に最強だった。何この人金持ちなの? じゃあどうやっても勝てねぇじゃん。マジで鉄壁じゃん」

「最強オジサンここに爆誕だな」


 警察官の方々がとてもうるさいですねぇ。

 少しは警察官としての自覚をもって、そう言う無駄話はして欲しくないモノです。

 そして、駅員さん。

 何故裏切られた的な視線を向けてくるのでしょうか?

 私がお金を持っていることがそんなにおかしいのでしょうか?


「さてどうしますか? 訴えますか? 訴えるのでしたら私は全力で否定しますよ」

「むぅ・・・・むぅ!」


 オジサンは痴漢冤罪による徹底抗戦の構えを取ると安易に言っているのだが、残念なことに女子高生にはそれが正確に伝わっていないのか、頬を膨らませ怒るだけである。

 あれですね。

 とても幼い・・いえ、純粋なお方を相手にしているように思えてなりません。


「もぉいいです! 神様にごめんなさいできない人なんて知らないです! そう言う人はいくらお声をかけても届かないことは知っているのです! だからもう知らないです!」

「ふむ・・と言うことは、私を訴えると言うことですか?」

「訴えません! あなたは失うモノがないという口ぶりでしたが、そんな方いるはずありませんもの。家族がいなくとも、愛すべき女性がいなくとも、誰にだって大切な友人がいるはずですもの。だから訴えてそれを失って欲しくありません。だから絶対訴えたりしません」


 ならば何故俺達は呼ばれたのだと警察官の方々が視線を向けてくるが、その件に関しましては彼女を責めてはいけませんよ。

 呼んで欲しいと願ったのは私なのですから。

 いや、本当。

 この可笑しな状況は何なのでしょね。


「そうですか? では・・さようなら・・ですか?」

「むぅっ!! はい! さようなら! ふんだ!」


 そう言うと彼女は机に置いていた学生かばんを手に取ると、プイッと顔を背けて出て行こうとした。

 ああちゃんと、警察の方や駅員さんにお騒がせしたことに対して頭を下げてから出て行こうとしていました。

 礼儀正しい良い子のようですね。


「・・・おや?」


 そして出ていく際に、先程見せていただいたミニミニ神様のキーホルダーが落ちました。

 それに気が付いた私はキーホルダーを拾い、彼女に渡そうと近づいたんですが。


「・・・・・・・おや?」

「え? きゃ!?」


 何と言うことでしょう。

 足がもつれてもいないと言うのに、バランスを崩し私は女子高生を押し倒すように倒れ込んでしまいました。

 更にどこぞのハーレム主人公よろしく可笑しな格好で押し倒してしまいました。


「いたた・・・ふえ?・・・・・きゃーーーーーーーっ!?」


 押し倒すように倒れ込んだのに何故か私の頭は女子高生のスカートの中にあります。

 いったいどうやって倒れたらそんな風になるんだと言う感じですねぇ。

 そしてそんな倒れ方はどう見ても狙ってやったとしか思えず。


「え~と・・・・○○時○○分、痴漢の現行犯で逮捕します」


 警察官の目の前でそんな事をしてしまえば、こうなることは仕方ないと言えよう。


 ぶっとい腕に手錠を・・・・いや、太すぎて入らないのでそのまま腕を掴まれ、そのまま連行されながらオジサンはチラリと女子高生の背後に視線を向け、


(まったく、やってくれましたねぇ)


 オジサンにしか見えないその存在に呆れた視線を向けるのだった。


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