第8話 虐待オジサンは法では縛れぬ者達と落ちていく
(なんだ! これはなんだ! どうなってやがる!)
気持ち悪いオジサンによくわからない真っ黒な場所へと連れて来られた虐待オジサン。
今では誰かに目隠しを取られ、周りを見渡すが何も見えない。
いや、さっきまで見えていた。
何かが見えていた。
真っ白な半透明のなにかが確かに見えていた。
けれど見えない。
今は何も見えない。
「僕達の娘をお前は傷付けた」
「私達の娘をお前は傷付けた」
そして今は男と女の囁く声が聞こえてくる。
その声は虐待オジサンにとって聞き覚えのある声。
冷たく背筋が凍るほどの冷たい声だが、その声には聞き覚えがあった。
そう、幸の、虐待していた幸の両親の声だ。
死んだはずの幸の親の声が聞こえてくるのだ。
「ンーーーッ!? ンンンンッ!?!?!?」
そんなのはあり得ない。奴等は死んだんだと思っていても、今も生きているかのように声をかけてくるので全力で否定することができないでいた。
「お前を許さない」
「お前だけは許さない」
「僕達の大事な娘を物の様に扱い」
「私達の大事な娘を金に変えようとしたことを」
「「我等は許さない」」
男と女の声が混ざりあったかのような声が聞こえてくる。
だが次第に男の耳は、そんな混ざり合った者達の声すらも徐々に聞こえなくなっていった。
「「燃える世界へ、凍える世界へ、煮えたぎる世界へ、刺される世界へ、痛みのみ存在する世界へ、貴様を連れて行く。貴様が逃げぬように、我等と共に、赤く彩ることのできない世界へ落ちていこうぞ」」
そしてその言葉を最後に虐待オジサンは心臓麻痺にでもあったかのように、静かに息を引き取った。
虐待オジサンが死に絶えた後、ギギギッと鉄の扉が開くような音が聞え、その中から気持ち悪いオジサンが土や泥に汚れながらひょっこりと現れた。
「死して尚我が子を守らんとするとは、親の鏡でございますねぇ」
ペコリと死体となった虐待オジサンにではなく、明後日の方へと頭を下げる気持ち悪いオジサン。
そこには何もおらず、冷たい石壁だけが広がっているが、それでも頭を深々と下げ続けた。
「さてさて、それではさっさと処理してしまいましょう。これ以上鮮度が落ちてしまってはお待ちのお客様方にお叱りを受けてしまいますからねぇ」
そう言うと、気持ち悪いオジサンは物言わぬ死体となった虐待オジサンを担ぎあげると、隣の部屋へと連れて行った。
そしてその部屋に着くと壁の取手を押す。
すると部屋の床が開き、大きな穴が現れた。
その穴の中には五匹のやせこけた大型犬がおり、涎を垂らしていた。
「お待たせいたしました。どうぞお食べください」
気持ち悪いオジサンは何の躊躇もすることなく、虐待オジサンをその穴の中に捨てた。
犬達は腹を空かせていたのか、捨てられた肉を貪り食らい始める。
骨でさえも食らいつくしてやらんばかりの勢いで。
誘拐に死体遺棄、はたまた動物虐待などあまりにも褒められた行いをしていない気持ち悪いオジサンだが、気持ち悪いオジサンの表情には一仕事終えたと言っただけの疲労感しか浮かべておらず、罪悪感や嫌悪感などは一切浮かべていなかった。
「さて、お食事が済み次第、彼等のお部屋も掃除しなくてはいけませんね。ああ後、良い子にお留守番している幸さんのご褒美を準備しなければいけません。あちら様もお待ちでございますから」
そう言うと気持ち悪いオジサンは真夜中だと言うのにどこかに連絡を取り始めた。
迷惑この上なく、深夜に電話したところでなかなか繋がらないと思われたが、思いのほかすぐに繋がった。
「ああどうも~、私です私・・・ああ、すみませんオジオジサンです・・・はい、はい、わかりにくくて申し訳ございません。・・・ええ、ええ、此方は終わりましたのでお願いできますか? はい、はい、はい、いつも通りに処分しましたのではい。ええ、ええ、問題ございません。証拠も綺麗に致しましたので。はい、はいわかりました。では予定通り三日後に、はいはい・・はい、お世話さまでございます。はい、失礼足します~・・ふぅ、また怒らせてしまいました。今度は気を付けなければいけませんねぇ」
電話の相手に怒られてしまい、気持ち悪いオジサンはポリポリと頭を掻きながら、そろそろ食べ終えたであろう犬達の穴の中へと入っていった。
勿論人一人食べたくらいで落ち着くような犬達では無く、気持ち悪いオジサンに襲い掛かってくるのだが、気持ち悪いオジサンは慣れたように腰にぶら下げたナタで犬達をぶん殴り黙らせて言った。
「おや、一匹殺してしまいましたか。これは申し訳ございません。何分力の加減が下手ですので。まぁ、お食べになれるお食事が増えたと思ってお喜びくださいませ」
そして仲間の内一匹が殺されたうえで、身体に傷を負ったせいか、犬達は気持ち悪いオジサンに襲い掛かることはなく、気持ち悪いオジサンはその間に血で汚れた部屋を綺麗に掃除していくのだった。
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