第5話 気持ち悪いオジサンでも懐かれるのです


 気持悪いオジサンが住んでいる家は都会の喧騒が届かぬ山の中にある。

 更にその周りの山々も全てが気持ち悪いオジサンの土地であり、見た目の割に気持ち悪いオジサンはとてもお金持ちであった。

 そんなオジサンはいったいどんな仕事をしているのかと言うと、特にこれと言った会社に勤めているわけでもなく。

 社会的に言えば無職であり、ただ自給自足の生活を送っているだけであった。


 まぁ、これと言った会社に勤めていないとは言ったが、仕事をしていない訳ではないが。


「でぇへへへへへへへっ、少しは幸さんも楽しんでいただけているようですねぇ」


 深夜に気持ち悪いオジサンは一人暖かいお茶を啜りながら、月を眺める。

 朗らかに、のほほんと、今日の付きは満月で綺麗だなぁなどと思いながら。

 そんな気持ち悪いオジサンの頬を風が撫でる。

 その風にオジサンは気持ち悪い笑みをでぇへへと浮かべながる。


「わかっておりますよ。わかっておりますよ。あちらさんのご連絡も頂きましたので、明日にでもお片付けに参ります。ただ幸さんがお一人でお留守番できるかが問題ですので、彼女の了承を得てから動くことにしましょう。大丈夫です。ちゃんとお仕事はこなしますよ」」


 さわさわと何かが気持ち悪いオジサンの背中を撫でたような気がした。

 その感触にオジサンはまたも気持ち悪い笑みを浮かべながら、暖かなお茶を啜りその日は静かに眠りについた。






「幸さん。申し訳ございませんが今夜オジサンはお仕事に行かないといけないのですよ。お食事は用意しておきますから一人でお留守番お願いできますか?」


 幸と気持ち悪いオジサンが二人で朝食を取っていると、行き成りそんな話を切り出してきた。


「え・・あ・・う・・・お・・おでかけ・・・する・・ですか?」


 僅か四日だが、気持ち悪いオジサンは気持ち悪いだけで、悪いオジサンではないとなんとなく理解した幸。

 ご飯も食べさせてくれて、殴ってこなくて、声を荒げなくて、お酒も飲まない。

 気持ち悪い笑い方はするけど、ただそれだけ。

 基本まったりしていて、ゆったりとした性格の気持ち悪いオジサンであるため、今の幸はそこまでこの気持ち悪いオジサンに恐怖は浮かんでこなかった。

 なので、行き成り一人にさせられると言うことがちょっとだけ・・・ほんのちょっとだけ不安であった。


「えぇ、オジサンも仕事をしなければ食べていけませんからね。ですが明日の早朝には帰ってこれると思うのですが、それまで一人でお留守番をお願いできますか?」

「・・・・・・・・・・・・・」


 恐らく気持ち悪いオジサンに懐いたと言う訳ではなく、この山奥に自分一人だけ置いて行かれるかもしれないと言う恐怖があるのかもしれない。

 だから引き止めたいと思う幸だが、「一週間いい子にしろ」「お客様の不快になるようなことは言うな」と不意に虐待オジサンの声が幸の心を蝕み、身体を震わせた。


 カタカタと震えだす幸。

 そんな幸を見かねてか、気持ち悪いオジサンは壊れものを扱うように、優しく幸の手に己の手を重ねる。


「幸さんがおイヤとおっしゃるのでしたら、お仕事をニ三日後にしても構いませんよ? いかがしますか?」

「・・・・・え・・・ぅ・・・」

「こう見えても私はそれなりに優秀なオジサンなのです。ですから我儘を申されても構いませんよ。迷惑でもなんでもありませんから」


 脂ぎった手。

 そんな手を重ねられても不快でしかないはずなのに、そんな手でも優しく包み込まれる感じがして、心が温かくなるのを感じながら、幸は己の願いを口にした。


「・・・・・きょう・・・は・・・・一緒が・・いいです」


 明日は一人でもお留守番するから。

 お留守番できるように頑張るから、今夜は一緒にいて欲しいという願いを。


「はい、宜しいですよ。しかし・・・でぇへへへへっ、一緒がいいと言っていただけるのはなんとも気恥ずかしい限りですね。嬉しくはあるのですが、思わず頬がにやけてしまいますよ。でぇへへへへへへへっ」


 幸の言葉に、気持ち悪いオジサンは気持ち悪い笑みを浮かべながら、贅肉で垂れさがっている己の頬をブルンブルンと両手で持ち上げ恥ずかしがる。

 笑い声も気持ち悪ければ、動作も気持ち悪いオジサンであった。


 ただそんな気持ち悪いオジサンに早くも慣れてきているのか、幸は気にすることなく少しだけ、ホントに少しだけ口角を持ち上げるのだった。



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