第5話:金の卵から『金』が産まれた
◇
転生した場所から一番近い村——セルビオ王国領ルーネ村の前についた。
『村』と名がついているが、周りを石の壁に覆われた城塞都市であり、かなり栄えていそうな街だった。
「一人でセルビオ草原を突破したのか⁉︎」
今は、二人組の門番からの質問に答えている状況である。
言葉が通じるか不安だったが、日本語ではないものの話すことも聞くことも困ることはなかった。
女神セレスが何かしらの調整をして言語能力に関しては困らないように配慮してくれたのだろう。
それはともかく。
なぜか一人で村の前まで来たことで驚かれていた。
「え? ああ。珍しいのか?」
「珍しいなんてもんじゃねえよ。俺はもう十年ここで仕事をしているが、北口から一人で来たのはあんたが初めてだ……」
「セルビオ草原は別名『死の草原』だからな……。魔物の強さのレベルが桁外れなんだ。高位の冒険者でも普通はこのルートだけは避ける」
二人して真面目な顔で言うということは、冗談ではないのだろう。
確かに強そうな魔物だなと感じてはいたが、一般的にも強い魔物だったとは……改めて驚かされる。
「もしかしてあんた、名の知れた冒険者だったりするのか?」
「いや、ただの旅人だよ」
「ただの旅人がそんな強くてたまるかよ⁉︎」
と言われてもな……。
サラリーマンと答えてもおそらく伝わらないだろう。
もっとも、意味が伝わったとしても普通のリーマンが魔物を倒すという状況の方が違和感があるのだが。
「まあ、事情があって話せないってことなら仕方ねえ」
そういうわけではないのだが、良い感じに誤解してくれたようで一安心だ。
「通行料三千ジュエルだ」
「え、通行料がかかるのか?」
「ん? どこの村でもそうだろ。うちは安い方のはずだが」
日本円なら銀行にそれなりの貯金が眠っているのだが、あいにく今ここでは持ち合わせていない。
どうしたものか——と思っていると。
「コケ……コケコ……コケコッコー!」
コッコが産卵時独特の鳴き声を漏らす。
そして、金の卵をコロンと産み落とした。
何か金目のものが出てくれば通行料の代わりになるかもしれない。
俺は金の卵を割ってみた。
「ん……?
金の卵の中から出てきたのは、日本円硬貨でも米ドル硬貨でもない見たことのないデザインの硬貨だった。
なお、硬貨の色は五百円玉に似た金色だった。
「……奇妙な財布だな。まあいい、一万ジュエル硬貨での支払いだな。七千ジュエルのお釣りだ。よし、入村を許可する」
どうやらコッコの卵から出てきたのは異世界で使えるお金のようだった。
状況が飲み込めないが、問題は解決したようなので良しとしよう。
しかしこの村で過ごすにしても当面の生活費は必要になるだろうし、アイテムスロットに回収しておいた魔物を売って現金を補充しておきたい。
村の中に導いてくれた門番に質問してみる。
「実は魔物の素材があるんだが、これってどこかで売れたりするのか?」
「ん、普通に冒険者ギルドに行けばいいと思うが……?」
何を当たり前のことをとでも言いたげな表情だった。
どうやら知っていて当たり前のことだったらしい。
「冒険者ギルドの場所は……口で説明するより村に入ってすぐの案内板を見た方がわかりやすい。じゃ、ゆっくりして行けよ」
そう言って門番は持ち場に戻っていった。
「コッコ」
「うん?」
門番と話している間、コッコはニワトリが言葉を話すのは良くないと空気を読んだのかずっと黙っていてくれていた。
そのため俺もあの場ですぐには話しかけなかったのだが、一人と一匹で話せる状況になったのでどうしても気になり尋ねてみた。
「卵から現金が出てきたのはまあいいとして……一日何回でも産めるのか?」
さっき草原でポーションを産んでくれたばかりで二つ目の卵だった。
「毎日一個! ……だけど、昨日産んでない分溜まってたから今日は特別に二個産めた〜! ワレ、疲れた!」
「なるほど。にしても卵の産卵回数って貯められるものなのか……?」
「今日は特別みたい」
「……へ、へえ」
そうはならないだろ! と言いたくなるが、現実そうなっているのでなんとも言えない。
「まあいいや。とりあえず魔物を売りに行こう」
俺は村に入ってすぐの案内板を見て冒険者ギルドの場所を把握した。
商業地区や居住地区など地区ごとに活動スペースが分けられており、計画的に設計されているようで構造が分かりやすい。
冒険者ギルドは村の中央にあるらしい。
なお、冒険者や旅人が利用する宿も何件かまとまった場所にあるらしい。
これも覚えておいた方が良さそうだ。
◇
冒険者ギルドへの道中。
店の看板を見ながらなんとなく相場を確認しておく。
鳥モモ肉が百グラムあたり百二十ジュエル。卵が十個セットで二百ジュエル。肉汁たっぷりのフライドチキンが一つあたり百六十ジュエル。
……この辺から推測するに、一ジュエル=一円くらいの感覚で認識しておけば良さそうだ。
「ここだな」
相場感を養いながら歩いていると、すぐに冒険者ギルドについた。
木製の扉を開け、中に入る。
向かって左手には大量の依頼書が貼られた掲示板、右手には椅子と机が設置されているコミニュティスペースが設置されている。
奥にはギルドの職員がテーブルを隔てて座っている窓口が見えた。
建物の中には数人の冒険者が依頼を物色したり、パーティで集まって会議をしている姿が見られる。
勝手が分からないので、とりあえず窓口へ向かう。
「ようこそ。今日はいかがなさいましたか?」
不安を打ち消すような明るい笑顔で受付嬢が迎えてくれた。
「魔物の買取をして欲しいんだが、ここで良いのか?」
「魔物素材の買取をご希望ですね! こちらで承ります」
どうやら買取場所はここで合っていたらしい。
「えっと、それで買い取って欲しい魔物なんだが……ちょっと量が多いけどここで出していいのか?」
「え、はい。構いませんよ?」
「良かった。邪魔になるんじゃないかと思ってな」
「いえいえ、全然大丈夫ですよ!」
それじゃあ気にせず取り出すとしよう。
俺はアイテムスロットから百五十一匹の魔物を一括で取り出した。
ドゴドゴドゴドゴ……ッ‼︎
雪崩のような勢いで魔物の亡骸が溢れ出し、冒険者ギルドの受付を埋め尽くしてしまったのだった。
「えええええええええええ⁉︎ な、なんですかこれ⁉︎」
受付嬢は目が飛び出るんじゃないかというくらいの勢いで驚いていた。
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