第3話:ステータス

 魔物の動きに合わせて懐に忍び込み、剣を一閃。


 ザンッ——‼︎


 ブラックドッグの頭にクリティカルヒットし、一撃で倒すことができた。


「こんな感じなのか。……ん?」


 魔物を倒した直後、ポーションを飲んだ時のような力が湧き上がる感覚を覚えた。


 ステータスを確認してみる。


 ————————————————————

 名前:佐藤徹夜(17) Lv.10

 ジョブ:魔法剣士

 スキル:『火球Lv.1』


 ◆能力値

 HP:220(+1000)※残り2時間59分49秒

 MP:214(+1000)※残り2時間59分49秒

 攻撃力:107(+1000)※残り2時間59分49秒

 防御力:105(+1000)※残り2時間59分49秒

 攻撃速度:106(+1000)※残り2時間59分49秒

 移動速度:104(+1000)※残り2時間59分49秒

 魔法攻撃力:107(+1000)※残り2時間59分49秒

 魔法抵抗力:105(+1000)※残り2時間59分49秒

 精神力:110(+1000)※残り2時間59分49秒

 ————————————————————



 一体倒しただけでレベルが10も上がったのか……。


 それにしてもステータスの伸び幅が凄まじい。


「テツヤ〜、これで魔物怖くないね〜」


「そうだな」


 一見強そうな見た目の魔物だが、一撃で倒せると分かれば恐怖は消えた。


「これって明日も同じ卵を産めるのか?」


「卵の中身は選べない」


「じゃあ、明日は違うアイテムが出てくるってことか?」


「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」


「なるほど」


 となると、この強化は今だけの一時的なものと考えるのが良さそうだ。


「じゃあ、今のうちに魔物を倒せるだけ倒した方が良さそうだな」


 ポーションによる下駄を履けている間にレベルアップすることで本来のステータスを上げてしまえば今後同じものが手に入らなくても問題はない。


 そうと決まれば——あとはただの作業だ。


 現在地から近い魔物から順番に最短ルートで機械的に剣を振るう。


 ザンッ! ザンッ! ザンッ!


 幸いにも(?)魔物はうようよいるので数に困ることはなかった。


 レベル15……レベル20……レベル30……レベル50……レベル80……サクサクとレベルが上がっていく。


 さすがにだんだんと次のレベルまでの必要経験値量が増えるらしくレベルアップスピードは鈍化していったが、二時間半を消化したタイミングでレベル89に到達していた。


 ————————————————————

 名前:佐藤徹夜(17) Lv.89

 ジョブ:魔法剣士

 スキル:『火球Lv.1』


 ◆能力値

 HP:1010(+1000)※残り0時間28分55秒

 MP:1004(+1000)※残り0時間28分55秒

 攻撃力:897(+1000)※残り0時間28分55秒

 防御力:895(+1000)※残り0時間28分55秒

 攻撃速度:896(+1000)※残り0時間28分55秒

 移動速度:894(+1000)※残り0時間28分55秒

 魔法攻撃力:897(+1000)※残り0時間28分55秒

 魔法抵抗力:895(+1000)※残り0時間28分55秒

 精神力:900(+1000)※残り0時間28分55秒

 ————————————————————


 ここまでレベルが上がるとポーションによる下駄がなくても素のステータスだけでも余裕で魔物と戦えるようになっていた。


「まだやるの〜?」


 辺り一体は俺が倒した魔物の亡骸でいっぱいになっていた。


 金のニワトリは退屈そうに眺めていたが、当然まだ終えるつもりはない。


「ああ。時間切れになるまでは続けるさ」


 やればやるだけ目に見えた効果が現れるのなら、やらない手はない。


 もうポーションがなくても難なく倒せるようになり攻撃力に関してはオーバーキル気味になっている。


 だが、攻撃速度や移動速度といった点ではどれだけ高くても恩恵を感じられるため、ステータスの高さを余すことなく活かせる。


「さて、じゃあラストスパート——って、なんだ?」


 気合いを入れ直した直後。


 魔物がサァーっと潮を引いたように逃げていった。


 大量の魔物を倒した俺のことを恐れたのか?


 いや、だとしたらもっと早く逃げていないとおかしい。


 何か別の要因があるはずだが……わからないな。


 俺が困惑していると、茂みの中からブラックドッグとは違う大きな犬の魔物が顔を出してこちらを覗いた。


 頭が三つあり、蛇のような尾がついている。


「ぎえっ!」


 金のニワトリがこの魔物を見た瞬間に情けない声を出した。


「どうした?」


「テツヤ、逃げよう。あれケルベロス。絶対無理」


 あの魔物はケルベロスという名前らしい。


 確かに、これまでの魔物とは雰囲気からして違っていた。


 底知れない凶暴さと力強さを感じる。


 だが、俺に逃げるという選択肢はなかった。


「そんな強い魔物が一度狙った獲物を逃してくれるのか?」


「……」


 俺としてもあれはさすがに逃げられるものなら逃げたかったが、戦って勝つしか生き残る道はない。


 ……仕方ない。


 俺は剣を構え、ケルベロスに向けた。


「ガルルルルルッッ——‼︎」


 ケルベロスは咆哮し、牙を光らせ襲いかかってくる。


 ここ数時間の経験から魔物との戦闘も大分腰についてきた。


 俺は冷静に動きを観察し、攻撃を避ける——


 どれだけ攻撃力が高かろうと当たらなければどうということはないのだ。


「よし」


 かなりのスピードだが、どうにかついていけている。


 そして、僅かな隙を伺い……剣で斬り込む——‼︎


 ザアアアアァァァァン————ッッ!


 攻撃自体は成功したのだが——


「え?」


 俺の攻撃力に耐えられず、剣が折れてしまった。


 そのせいでケルベロスに決定的なダメージは与えられていない。


 嘘だろ……。


 さすがにこれは想定外だった。


 確かになんとなくそれほど良い武器じゃなさそうなのはわかっていたが、まさか折れるとは思わなかった。


 まあ、ここ二時間半ずっと魔物と戦っていたからな。


 気づかないうちに消耗していたのかも知れない。


「どうするかな……」


 武器なしでどうやって戦えば……いや、待てよ?


 よくよくステータスを思い出してみる。


 そういえば、『スキル』っていうのがあったな。


 確か——『火球』。


 ケルベロスに左手を向け、『火球』を使いたいと念じる。


 轟々と燃える火の球が生成され、飛んでいった。


 ケルベロスに着弾すると同時に爆発を起こし——


 ドゴオオオオオオオオオンンンンッ————‼︎


 轟音が草原に鳴り響いた。


 足元の草は燃え尽き、土は一部ガラス化している。


 『火球』などという一見弱そうな名前の魔法だが、なかなか高い攻撃力を持つようだ。


 そしてケルベロスはというと——


 プスプスプス……と黒焦げになって横たわっていた。


 どうやら、さっきの一撃で絶命していたらしい。

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