第2話:金のニワトリの卵

「んん……」


 強い日差しに照らされた眩しさで目を覚ました。


 頭上には雲ひとつない青空。


 辺り一体は緑色の草が生い茂る草原が広がっていた。


 俺以外に人間は誰もいない代わりに、犬に似た獰猛そうな魔物がうようよと闊歩している。


 どうやら、本当に異世界に転生してしまったようだった。


 脇に抱えた『金のニワトリ』と一緒に——


 ひとまず、身の回りの状況を確認する。


 俺が今着ている服は倒れたときに着ていたスーツではなく、ゲームやアニメのキャラクターが着ていそうな黒のローブ。


 さらに魔物と戦うためであろう西洋風の剣も所持しているようだ。


 これで戦いながら近くの人里を目指せということか?


 ——いや、無理だろ。


 冷静に考えて、戦闘経験のない素人が強そうな魔物と一対一で戦って勝てるわけがない。


 どうしたものかと頭を悩ませていると——


「テツヤ〜、お腹減った〜」


 金のニワトリから声が聞こえた。


「お前、喋れるのか……?」


「え、うん」


 言葉を話せるニワトリなんて聞いたことがないが……異世界ならそういうこともあるのか?


 まあ、些末なことはどうでもいいか。


「一つ確認しておきたい。俺があの魔物と戦って勝てると思うか?」


「う〜ん? とりあえずステータスを確認してみなよ」


「ステータス?」


「ステータス・オープンって念じたら能力がわかるよ」


「そうなのか」


 敵のステータスがわからなければ自分の能力だけが分かってもあまり意味はない気がするが、とりあえず素直に従ってみる。


 ステータス・オープン。


 すると、目の前にゲームのステータスウィンドウのようなものが展開した。


 ————————————————————

 名前:佐藤徹夜(17) Lv.1

 ジョブ:魔法剣士

 スキル:『火球Lv.1』


 ◆能力値

 HP:120

 MP:114

 攻撃力:7

 防御力:5

 攻撃速度:6

 移動速度:4

 魔法攻撃力:7

 魔法抵抗力:5

 精神力:10

 ————————————————————


 ん? 17歳……?


 手足の肌の状態を確認してみる。


 鏡がないので顔を確認することはできないが、明らかに若々しくなっている気がする。


 どうやら、転生したタイミングで肉体年齢も少し巻き戻っているようだ。


 それはともかく。


 比較する数字を用意する前に判断するのは早計かもしれないが……さすがにこれはめちゃくちゃ弱いんじゃないか……?


「攻撃力7と出たが……これってどうなんだ?」


「え、それでブラックドッグに勝てるかってこと? 無理無理っ! 絶対無理っ! てかテツヤざぁこ♡……んぐ!」


 余計なことを言おうとしたので首根っこを掴んで黙らせた。


 俺のことを弱いと言うわりにはこいつも大概だな?


「お前、さっき腹が減ったとか言ってたよな? 実は俺も腹が減ってたんだ。どうせ死ぬなら……最後に美味い物食ってから死んだ方が得だよな?」


 言いながら、生意気な金のニワトリをジロっと見る。


「えっ、えっ…そんな目で見ないで。ワレ、食べても美味しくないよ?」


「じゃ、確かめてみるか?」


「ひいっ!」


 シュンと小さくなる金のニワトリ。


「冗談だよ。でも、いざって時は囮にするのはアリだな」


 ふっと口角を上げると、金のニワトリは顔を青ざめていた。


 こいつ、以外にチキンなのかもしれないな。


 ニワトリだけに……。


「や、役に立つから……許して」


 そう言うと、金のニワトリは踏ん張り始めた。


「どうした?」


「コケ……コケコ……コケコッコー!」


 奇妙な鳴き声を出すと同時に、コロンと金色の卵が生まれた。


「ふう……これあげる」


 前足で卵を掴み、俺に手渡してくる金のニワトリ。


「代わりにこれ食べろってことか?」


 新鮮な卵とはいえ、生食には少し抵抗がある。


 とはいえこんな割れやすいものを持って移動するわけにもいかないしな。


 などと思考を巡らせていると、金のニワトリは首を横に振った。


「違う。卵割るだけでいい」


「へ?」


 さすがにせっかく産んでくれた卵を食べないのはそれはそれで勿体ないだろうと思ったのだが、産んだ本人が望むのであれば仕方ない。


 俺は右手で金の卵を持ち、左手に叩きつけるようにして卵を割ってみた。


 ガシャン!


 簡単に卵が割れ、黄身と白身で手がドロドロになるかと思ったその時。


 割れた卵の隙間から淡い光が抜け出し、瓶のシルエットを形作った。


 そして、三秒後。


「これは、ポーションか?」


 なんと、金の卵から出てきたのは瓶に入った液体だった。


 奇妙なことに白く発光している。


「飲むとステータスに良いこと起こるよ」


「良いこと?」


 まあ、聞くよりも飲んでみる方が早いか。


 俺は栓を空け、中の液体を勢いよく飲み干す。


 味は生卵のような感じだった。


「ん……なんだ……?」


 身体の芯から力が湧き上がってくるような不思議な感覚。


 今ならなんでもできそうな万能感でいっぱいになった。


 ステータスを確認してみる。


 ————————————————————

 名前:佐藤徹夜(17) Lv.1

 ジョブ:魔法剣士

 スキル:『火球Lv.1』


 ◆能力値

 HP:120(+1000)※残り2時間59分56秒

 MP:114(+1000)※残り2時間59分56秒

 攻撃力:7(+1000)※残り2時間59分56秒

 防御力:5(+1000)※残り2時間59分56秒

 攻撃速度:6(+1000)※残り2時間59分56秒

 移動速度:4(+1000)※残り2時間59分56秒

 魔法攻撃力:7(+1000)※残り2時間59分56秒

 魔法抵抗力:5(+1000)※残り2時間59分56秒

 精神力:10(+1000)※残り2時間59分56秒

 ————————————————————


 どうやら、このポーションは飲んだ後三時間の間は全てのステータスが1000上昇させる効果があるようだ。


 このニワトリ……普通に卵を産むことしかできないとばかり思っていたが、こんなアイテムを毎日産めるとなると、俺が想定していた以上に有能なのかもしれない。


「すごいな……これ」


「えへへ」


「でも、実際このステータス1000上昇ってのがどれほどのものか……まずは試してみないとな」


 俺は初期装備品として持っていた剣を抜き、一匹の犬の魔物——ブラックドッグに狙いを定めた。

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