第十一話 不穏な気配
イーザル峠の商隊護衛を開始してからというもの、アンデクス領内の物流は盛んになっていた。
北からの荷物はガルミッシュ辺境伯のお膝元であるパルテンキルヒェンまで船で川を遡上した後、イーザル峠を超えてアンデクスを経由し南へと向かっていく。
その逆もまた然りで南のカラブリア帝国から来た荷物がアンデクスを経由して北のバヴェアリアへと向かっていくのだ。
その結果として―――――
「おいおい、巡視の帰りだってのにまるで道が動かなくなったじゃないか!!一体全体誰のせいなんですかねぇ……?」
「自分のせいで困ってるのウケるんですけど」
という具合に街道は混雑していた。
「良くしようとしたら別の場所が悪くなるとかやってらんねぇよ……」
喫緊の課題となったインフラの整備だったがこの数十年、区画整理などとはほとんど無縁だったアンデクスの街は地権問題に揺れていた。
「まぁ、いきなりが過ぎたってのもあるだろうなぁ……」
アンデクスの街は人口二万程度で、それなりの都市ではあったが物流とは縁ない土地柄であったが故に、インフラは貧弱だった。
「それだけじゃないわ、適正価格での買い取りに住民が応じないのよ……まるでイーザル峠の物流活発化に反対するみたいにね」
家宰であり領内における様々な政策を取り仕切る立場であるエミリアはため息をこぼした。
「荷を奪われるのが怖い貴族連中の金が領内に入ってるのか?」
アルスの問いにエミリアは首を横に振った。
「これといって怪しい金銭の流入は確認出来てないわ」
公爵領での保守派の工作が明らかになってからというもの、抜け荷のないよう領内に入るモノ全般は厳しく検査していた。
「なら領内の金、というわけか……」
アルスは、眉間に皺を寄せた。
「家臣団に協力者がいるということか?」
サルヴァドーレ家の名を使って運用できる資金はそれなりにある。
俺の調印さえあれば、資金を引き出すことは可能なのだ。
「それが本当ならアルスの責任問題ね」
「やだなぁー、主君の仕事ぶり、信じてくださいよー」
エミリアに指摘されるとアルスは慌ててその可能性を否定した。
「だとすると他に想定出来るのは、地元有力者の後ろ盾があるという線ね」
アルスは着任してすぐに行った有力者たちとの面会を思い出した。
(みんな揃って俺に値踏みするような視線浴びせて来てたよなぁ……)
「領内の不安要素か……さっさと取り除きたいところだ」
「とりあえず反対住民と面会してみない?アルス得意な口八丁で口を割ってくれるかもよ?」
エミリアは、じっとしてても始まらないから行動しろと言外にアルスを諭した。
「気乗りはしないなぁ……」
黒幕に該当しそうな人物に見当をつけようと思考を巡らせていたアルスは、ある一人の人物とのやり取りに感じた引っかかりを思い出していた。
「ついでにもう一人、面会したい人物がいるんだがいいか?」
「いいけど誰なのよ?」
エミリアの質問にアルスは北の方角を指さしてみせた。
「なるほどね、一番最後に彼を呼ぶわ」
エミリアはアルスの考えを汲んですぐさま面会の場のセッティングに取り掛かったのだった。
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