67 限界
限界が来たのは火災の夜から三年を経た秋の事。
梶火の限界が、だった。
はじめに、
同じ邸に起居し、かつ間取りの都合上二人は同じ寝室を使用していた。昼夜を問わぬ護衛を兼ねる為、それも許容できぬ事ではなかったろう。
しかし、一度許された関係から下がる事は、この年代の青年にとってはあまりに難しく、また酷な事だった。それが日々
触れたい。
寄り添いたい。
そのごく当然の欲求は、瞬く間に忍耐という器から溢れ出たのだった。
そしてそれは、梶火だけの事ではない。
熊掌にとっても同じだった。
それは、
人目を忍んで、温もりを求めて、何かの拍子に指先を
やがて、夜の冷え込みを言い訳に
次には肌の香りを求めた。
唇に触れることを求めた。
――その時に
命と尊厳を
それでも、どうしても、その間に必ず
縛り上げられた傷が手首の上に残っている。
爪紅が残されている。
骨盤の上に執拗な
それを見て見ぬふりが出来る程には、梶火の執着は
二人を結び、その繋がりを
また、二人の事を認めて心に留め置いてくれる他人も存在しない。
それでは、この関係はこの世に存在しないのと同じだ。
何一つ、次の約束すらも残せない。
その苦しさから梶火の
人間が二人いる時に、その関係性というものはどうしても匂いたつ。他者からは明白に見えてしまう。
熊掌が
彼等二人を誰よりも近くから支え
割れるような頭痛が熊掌を襲った。南辰にしても、身を切るような思いで
事情を梶火に説明するまでに数日を要した。その事実を共有する事で失われる物を熊掌は恐れた。
数日経ってから終に聞かされた梶火は、ただ静かに「わかった」とだけ言うと、邸を後にした。
その直後、梶火は
熊掌は一人、頭を抱えて
それは、何気ない瞬間だった。
二人が
神無月だった。
熊掌と梶火は、悟堂の邸で二人、次の出立の日程と計画の調整をしていた。この時、
ふと、熊掌が振り返り背中を梶火に向けた。熊掌のうなじに梶火の視線が向かったのは、髪を高く結い上げていたからだった。
熊掌のうなじの深い部分、背との境あたりに、深い
それを見た瞬間、梶火の忍耐に限界が来た。
熊掌は常に、梶火に背中を向ける事を拒絶していたからである。
自分には赦されない事を
『
力尽くのそれは、間違いなく暴力だった。
この時に初めて熊掌は、自分の本気の抵抗が梶火に通用しない事を知った。
本当に引き裂かれたのは
悲しかったのだろうか。
悔しかったのだろうか。
絶望だったのだろうか。
頭に
戸が――――――開いていた。
次の瞬間、梶火の頭部に何かが振り下ろされたのが見えた。それが石を包んだ布だと気付いた時にはもう遅かった。
それを鬼のような形相で振り下ろしていたのは――
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