第26話

 それから一月。


私はいつものように陛下のお部屋へと向かった。


「ミナミのおかげですっかり良くなった。明日からは儂も執務に復帰することになったからここには来なくても大丈夫じゃ。ミナミ、有難う」


「陛下、元気なって良かった。陛下、お願いあるデス」


「願い事?服が欲しいのかな?」


陛下はニコニコと願い事を聞いてくれるみたい。


「陛下、私、どこか村、静かに暮らしたい」


陛下はピクリと動きを止めて口を開いた。


「ミナミ、どこかの村で静かに暮らしたいのか?」


私は頷く。


「ガインはそれを知っているのかな?」


「ガイン殿下??知らない」


「ミナミは何故ここから出ていこうと思ったのじゃ?」


「私いると、ガイン殿下と令嬢、結婚出来ないヨ。沢山ガイン殿下結婚したい言うヨ。あの令嬢のように」


「……そうか。そうじゃったな。ガインには儂から伝えておこう。ミナミは一人で生活していけるのかな?」


「多分大丈夫」


 食事だってあっちの世界にいた時は作っていたし、こっちの世界の教会で暮らしていたからある程度の事は一人で出来ると思う。


 何よりこの城の環境に私が馴染めていない気がするの。


 元々人見知りで怖がりなのに常に人がいて全て世話をされる。気を使わないわけにはいかないよね。


 私は陛下と話をした後、部屋へと戻る。ほっと息を吐く。陛下に言ってしまったからもう後には引けない。


私は城を出ていく覚悟を決めた。




 数日後、私は陛下の執務室へと呼ばれた。今日は聖女の服に着替えて向かう。


「ミナミ、待っておったぞ」


 執務室には元気そうな陛下と硬い表情をしたガイン殿下、宰相や司祭。ミスカさんと陛下の従者、護衛と思われる人達が部屋の中にいた。執務室は広いけれど、大きな男の人達で狭く感じてしまうのは仕方がない。私は促されるままソファへと座った。


「ミナミや、今日そなたを呼んだのは城から出たいという話だ。先ほどまでここにいる者達と話をしてな、ミナミの移住先が決まった」


私はコクンと頷く。


「王都から南西にある名もなき村。周りは森に囲まれている。その昔、聖女様が余生を過ごしたとされている地。どうやら不思議な力が今でも働いているようでな。滅多なことで人が立ち入ることができないのだ」


私はふと疑問に思った事を口にする。


「入れない、村人、どうしているヨ?」


「あぁ、詳しく言うと、村には入れるのだが、村から聖女の家まで少し歩く。その聖女の住まいには何故か辿り着けないのだ」


「家、は?」


「それは問題ない。ミナミと一緒に家まで職人を連れていき、その場で職人に対応させるからのぉ」


そっか、私と一緒に行ってその場で対応してくれるのね。あ、でも森に入れないって事は昔の聖女様の遺体があるんじゃないの!?きっと骨になっているよね。怖くなったのでその辺もしっかりと聞いてみる。


「昔、聖女様まだいる?」


「あぁ、聖女様はいない。聖女様を祀る墓がある。記録は残っていないが、きっと何かしら国の用事で聖女の森を出た時に亡くなったと思われるのだ」


そっか。それならちょっと安心だね。私は納得したのでそれ以上は大丈夫かな?なんて考えながらこれからの一人暮らしにほんの少し夢を膨らませていた。


「ミナミッ。本当に良いのか?俺が不甲斐ないばかりに」


「?ガイン殿下、大丈夫。私が言った事ヨ」


 ずっと黙っていたガイン殿下は苦しそうにしている。


私がここにいてもみんなにお世話されるばかりだもの。費用も凄いよねきっと。金食い虫だよ。存在しているだけでこの世界に恩恵を与えているとはいえ、何もしないのはちょっと気が引けてしまう。


ガイン殿下には良くしてもらったしね。


それに令嬢達はガイン殿下を望んでいる。それこそ私を殺そうとしてしまうくらいに。私がいる、という事が邪魔でしかないんだよ。


私の存在なんて森に引っ込んで五年位したらすぐにみんなの記憶からも無くなるわ。


 ガイン殿下は苦しそうな顔を続けていて口を開こうとしていたけれど、陛下から止められて口を閉じた。そこからは宰相の話となり、生活の流れなどを聞く。


どうやら行商が二か月に一度村に来るらしい。司祭様からは村にある教会の神父に何でも相談してほしいと言っていた。そして一通り説明が終わったので私は部屋に戻った。


「ミナミ様!この城を出るって本当ですか?」


シャンが今にも泣き出しそうな顔をしながら聞いてきた。


「シャン、ごめんヨ」


そう、私はガイン殿下にもそうだけれど、誰にも言わなかった。言えば引き止められると思ったの。心苦しいけれどね。



そうして私が城を発つのは一月後になった。

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