第24話 ガインside3

「ガイン殿下、疲れてない?」


ミナミは俺の事を気にしてくれている。


「あぁ。少し疲れたな」


 俺はそう言うと、彼女は異世界の言葉で何かを呟いた。すると俺の身体は光を帯び、さっきまでの疲れが吹き飛んでいる。


凄いな。


 ミナミに魔法かと聞くと、おまじないだという。聖女特有の祈りの言葉の効果なのだろうか。


 俺が不思議に思っていると、ミナミは突然立ち上がりクローゼットの中に入ってガサガサと何かを探している様子。戻ってくると髪がピョコっと立ち上がっている。そんな姿のミナミも可愛い。


「ガイン殿下、誕生日おめでとう」


 どうやら俺のプレゼントを用意してくれていたようだ。プレゼントを渡す姿に愛おしさを覚える。俺はプレゼントを開けてみると三本のガラスが目に入った。どんな物なのかミナミに聞くと、たどたどしい言葉で一生懸命説明してくれる。


「これは、ガラスペン。ガイン殿下、羽ペンだから、指が疲れる。インク瓶にここを入れて書く」


ほう、これは羽ペンの代わりなのか。ミナミは紙とインク瓶を俺の前に差し出す。俺はインク瓶にペン先を入れて紙に書き始めた。


「おぉ、これは凄い。面白いな!」


 スラスラと紙に文字が書かれていく。そして一度に書く文字の量は羽ペンの倍以上だ。そしてなにより持ちやすい。羽ペンは細いのですぐ折れてしまうが、これなら手の大きな俺でも早々には折ることはない。執務も捗る。


俺が喜んでいるとその姿を見てミナミはニコニコとしている。


あぁ、可愛いな。でも話を聞くと、ミスカが職人を紹介したらしい。


ミスカは知っていたのか。少し嫉妬を覚えながらもミナミにお礼をする。俺はミナミにお礼をと額にキスをしようとしたが、間が悪く俺の執事が呼びに来て小言を言っている。


くっ、これは諦めるしかないな。


無理強いしてミナミに嫌われるのは得策ではない。泣く泣く俺は部屋へ戻ることにした。


それにしてもミナミのおまじないは凄いな。


どれほどの効果があるのだろうか。


もし、わずかな希望でもあるのなら……。




 俺は覚悟を決めて翌朝ミナミにお願いをした。ミナミはいいよと気軽に答えてくれる。なんだそんな簡単な事と言わんばかりに微笑んでいた。彼女の優しさが俺の心に温もりを感じさせてくれる。


 一緒に父上の所へ行くように言うがシャンやオルヴォと一緒なら平気なのだろう。


俺はガラスペンをミスカに自慢しないといけないらしい。


ミナミの言葉に昨日の夜からずっと悩んでいた事が消え去った気がする。


力が抜けてフッっと笑みが零れた。


 俺は父上の事が気になりながらも執務室へと足を運び執務に取り掛かる。ミナミが作ってくれたガラスペンを取り出して書類にサインをしていく。なんて書きやすいんだ。


「ミスカ!これをミナミがくれた。凄いな」


サラサラと紙に書いて見せる。するとミスカはどれどれとガラスペンを眺め始めた。


「これが完成品なんですね。最初に職人を連れてきた時、ミナミ様は一生懸命説明をしていましたが、我々にはあんまり伝わらずに心配をしておりました。先日、職人から完成したと話には聞いていたんですが、これはとても素晴らしいですね。是非量産しましょう。職人からも伺い書が出ていますよ」


クッ、なんと言う事だ。


ミスカめ。


 完成品は見たことが無かったようだが既に商品化する気だったのか。なんだか悔しい。だが、これが広まれば文明を一気に開花させるかもしれんな。


 聖女の発明として売り出し、当面は政務官向けに用意するのがいいだろう。そう思っていると、執務室にシェダムが突撃してきた。


「シェダム、突然どうしたのだ?」


シェダムはいつになく鼻息が荒いように思う。


「ガイン殿下、聞きましたぞ!聖女様が使われているガラスペンの事を。あれ、儂も欲しいのです。一つ、いや十本は欲しいです」


 シェダムが懇願するなど滅多な事はないのに。それを見ていたミスカは『やはりすぐにでも用意せねばなりません』と伺い書を俺の机の上に置いた。


「クッ、俺とミナミだけしか持っていないという優越感には浸らせてくれないのか、お前達」


「残念ながら無理ですね。こんなに素晴らしい物は一刻も早く広めるべきでしょう」


 ミスカの言葉にシェダムも同意している。泣く泣く俺は伺い書にサインをする。ミスカの事だ超特急で書類を通して来週末には政務官へ配るのではなだろうか。


シェダムが俺の使っているガラスペンを欲しそうに見ているがこれは絶対やらん。





 そうしてバタバタしていたがなんとか午前中の執務を終わらせてお茶を飲んでいると、父上の従者が容態の報告をしに部屋へとやってきた。


「ニル、父上の具合はどうだ?ミナミが朝のうちに父上の所へいっただろう?」


ニルはあまり表情を表に出さないのだが、いつになく機嫌が良さそうだ。


「ガイン殿下、聖女様は陛下の元へやってきました。そして【おまじない】という祝福の言葉を述べると、それまでベッドから起き上がる事も出来なかった陛下が起き上がって聖女様とお話をされていました。


聖女様は暇だからまた明日来るとお話しておりました。陛下の元へ是非とも毎日足を運んで貰えるようお願いいたします」


「父上の容態は良くなっているのか?」


「はい。ほんの少しではありますが、医師からも改善がみられたと」


「……そうか、良かった。ミナミは何か言っていたか?」


「どうやら聖女様は薬の効果を上げる香が良くないと。たまに窓を開けて換気するように仰っていました。あと、また明日くると」


「そうか。こればかりはミナミに頼るしかないな」


「陛下も感謝しておりました」


そうだろう、そうだろう。自分の事のように嬉しくなる。


後でミナミの好きなフルーツを沢山用意しよう。


 ミナミはあまり好き嫌いをしないし、我儘も言わない。俺が欲しいものを聞いても無いと言う。物欲で彼女を繋ぎとめる事は難しい。


俺はミナミが好きだ。君しか要らない。

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