第22話 ガインside
聖女が城へ帰ってきた。怯えながらもオルヴォに連れられて。久しぶりに見た聖女はやはり小さかった。ガリガリにやせ細り命の危険があったが少しマシになってきているようだ。オルヴォの定期報告を貰って聖女の事を全然分かっていなかったのだと理解した、いやさせられた。
彼女はここに来た時、十六歳だったのだ。この世界で十六歳は成人となるが、どうやら異世界では十八歳が成人なのだという。彼女は見た目も幼く見えた。まだ十歳でも通るのではないだろうか。
そんな彼女は震えながらも差し出した私の手を取ってくれている。
今まで忙しさに聖女と会う時間を疎かにしていたが、教会での暮らしによると朝早くに自分から起きて勉強を頑張っているのだったな。意思疎通を図るためにも言葉を理解するのは必要だろう。
俺は聖女との距離を縮めるべく、朝食と夕食を一緒に取ることに決めた。
日中はどうしても執務で忙しいから時間を取ることができないのが残念だ。
初めて朝食を一緒に取った時は食事の量の少なさに驚いた。好き嫌いは無いと聞いているがこんな量ではまた倒れてしまうのではないかと心配する。黒髪に大きな黒目でこちらを伺う姿はなんと可愛いのだろうか。
もう少しすれば大人の色気も出てくる。殆どの男達は聖女の美しさに心奪われていくだろうな、俺のように。少しでも側に居たい、声を聞いていたいと思う。
夕食時にはほんのり化粧をしていて朝とは違う姿に息を呑む。
……美しい。
闇をもひれ伏す女王のようだ。凛としたその姿に俺は少しでも俺をみてほしいと願ってしまう。
翌日、朝食の量は変わらないが、フルーツが添えられていた。どうやらミナミはフルーツを気に入ったようだ。お腹一杯だと言いながらもデザートを頬張る姿がまた可愛い。
つい、口に入れてしまった。
驚きながらもモグモグ食べている姿がまた可愛くて仕方がない。夜と朝の違いに俺はどこまでもミナミに翻弄され続けている。それから毎日の食事が待ち遠しくなった。
ミナミはジェダムが言葉を教えているのを自ら進んで勉強しているようだ。ジェダムからの話では勉強に取り組む姿は素晴らしく、覚えも良い。そして彼女から聞く異世界の話がとても興味深いのだとか。
文明がこの世界より何百年も進んでいて民の識字率は九十%を越えると聞いた。ミナミが使う文字は三種類が組み合わさった物なのだとか。
たどたどしい言葉で説明を聞くが、教養の高さに驚くばかりなのだとか。そして算術についてはこの国でも貴族や文官しか理解していないような物を解く事が出来るらしい。
九九という物が存在しているらしく、紙に丁寧にこの世界の数字で表にして書いてくれたのを宝物だと喜んでいた。今度、文官達の部屋にも貼り付けておくとしよう。
シェダムばかりミナミと過ごす時間が多くて嫉妬してしまう自分がいる。
「坊ちゃまもまだまだ子供ですな」とシェダムに笑われてしまった。
そして毎日の勉強が実り始め、どんどん言葉を覚えている。とても痩せていた体型も少しずつだが丸みを帯びてきたのではないだろうか。毎日の会話が楽しい。
俺の思いとは裏腹にミナミにはどうやらあまり伝わっていないようだ。
歯がゆいな。
そうして迎えた俺の誕生日。
毎回国中の貴族達が集まり、俺の誕生日を祝うという体で舞踏会が行われる。毎年行う誕生日会は憂鬱で仕方がないのだが、今年はミナミのお披露目も兼ねているので待ち遠しい。
目まぐるしく日々が過ぎていく。
俺はしっかりとミナミの衣装も準備をした。教会からは『伝統に則って衣装を着るべきです』なんて言われたが、ミナミには似合わない。伝統を意識した物で十分だろう。
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