第21話

 私は朝食後、シャンとオルヴォに陛下に会いに行く事を伝えた。すると、先触れを出していたのか陛下の従者が迎えにくるらしい。私は朝のワンピースから聖女服に着替えをして準備をする。


「聖女様、従者が迎えにきております」


オルヴォさんの声に振り向くと、従者が礼をして部屋の外で待機している。


「シャン」


「大丈夫です。すぐ後ろについています」


シャンは私に微笑みかける。マーサは別の護衛と一緒にこの部屋に残る。不審者が入り込むといけないからね。


どうやら陛下の部屋はお城の一番奥で休んでいるみたい。ここでも従者とのコンパスの違いに泣けるよ。


 従者は私の事を気にしてゆっくり歩いてくれているんだけどね。そうか、私が自分自身に『大きくなりますように』っておまじないをすればいいのではなかろうか。


部屋に戻ったらやってみよう。


 そして気づいたのだけれど、どうやらこの世界では小さいせいか子供のように見られているフシがあるんだよね。もう十八なのによ?解せぬ。




 そうしている間に陛下の住居区画へと入っていく。これまでの通路とは違い、細部にも拘って装飾がされている。


「陛下、聖女様をお連れいたしました」


「……入れ」


 部屋に入った途端、今までに感じた事もないような圧を感じる。なんだろう、重々しいのか空気が悪いのかよく分からないけれどあまり良いとは思えない。そして香が強く焚かれているせいかクラクラする。あまりいい香りじゃないかな。


「シャン、窓を開けていい?」


 私がシャンに尋ねたけれど、陛下の従者が分かりましたと答える。はっ、そうよね。ここは陛下の部屋だものね。『淀んだ空気よ、どっかいけ』って思いながら窓をそっと開ける。


外は天気も良いし、この部屋からは花の咲いた木が沢山見えて素敵ね。


 改めて陛下を見ると、さっきよりかは顔色が少しマシになったかしら。陛下はベッドで寝ていてどうやら起き上がるのも難しいみたい。


「……聖女よ。よく来た」


「初めまして。私、ミナミ」


「異世界から来た聖女は小さくて可愛いのぉ。ミナミというのか。ガインが好むはずじゃ」


陛下は苦しそうにしながらも笑ってみせる。


「陛下は病気、なって、長い?」


「そうじゃな。かれこれもう五年はベッドの上で過ごしておる。仕方がない事だがな。儂はもう長くないじゃろう。最後にミナミに会えてよかったのぉ」


 そう言いながら私の頭を撫でる陛下。何だか寂しい。私は陛下の手を取り、『一日も早く陛下が元気になりますように』と日本語で願う。するとガイン殿下の時より少しだけ強く光った。


「ミナミ。今のは魔法か?随分と身体が楽になった気がするのじゃが」


先ほどまでベッドで起き上がる事も出来なかった陛下がベッドから起き上がる。その様子を見ていた従者が慌てて陛下の背中にクッションを入れている。


「魔法ない。【おまじない】って言う。小さな言葉。小さな願い。陛下元気になる、お願いした。まだ陛下、病気。だから明日、来るヨ」


病人の部屋に長居しては駄目な気がするんだよね。私は立ち上がり、部屋を出ようとする。


「ミナミ、明日も楽しみにしている」


 陛下は私に手を振っていたので私も手を振って部屋を出た。そして思い出したので従者に話をする。


「従者さん、あの香り、少し良くない思う。偶に窓を開ける」


「あの香は医師が薬の効き目が強くなると焚いていたのです。すぐに止めさせます」


そうか、今更気づいたけれど、文明がかなり遅れているんだったら呪いや魔術なんかが医者の代わりに病気の祈祷をしていそうよね。


もしかして陛下は病気ではなくて毒だった?


んなわけないか。


 

 私は部屋に戻ると、ジェダム先生が今か今かと待っていた。勉強の事を忘れていたわけではないよ?勉強の書き取りをする時に職人が私用にも作ってくれていたガラスペンを使って練習していく。


やっぱり羽根ペンよりこっちの方が持ちやすくて疲れない。折れないしいいね!意気揚々と書いていると、ガラスペンを見たジェダム先生が驚愕している。


画期的な発明品だ!!と。書き取りの練習をしている間に殿下に私にも欲しいとお願いしてくると言って部屋を出て行ってしまったよ。やっぱりみんな思っていたんだよね、使いづらいって。


私は帰ってこないシェダム先生を気にしながら残りの書き取りを頑張った。

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