第20話

「ガイン殿下、疲れてない?」


「あぁ。少し疲れた」


 私は『疲れが取れますように』と日本語でおまじないをするとやはり殿下はほわっと光った。この世界の言葉で言うより、日本語で言った方が効果は高いのかな?なんとなくだけれど、光り方が違ったような気がする。


気がするだけね?


ガイン殿下は効果を感じたのかとても驚いている。


「ミナミは魔法が使えるのか?」


「魔法?使えない。ちょっと、の【おまじない】だけ」


「【おまじない】とはなんだ?」


「少しだけの言葉?小さい、願い事」


「小さな願い事、か。いいな」


そうだ!私は思い出したようにソファから立ち上がると、クローゼットをガサゴソと探す。そして仕舞ってあったプレゼントをガイン殿下に手渡した。


「ガイン殿下、誕生日おめでとう」


「有難う。開けてもいいか?」


「うん」


 ガイン殿下はリボンをそっと外して箱を開いた。中からは三本のガラスペンが丁寧に仕舞われている。


「これは……?」


ガイン殿下は不思議そうな顔をして一本のガラスペンを取り出して光に当てて見ている。


「美しいな。これはどうやって使うのだ?」


「これは、ガラスペン。ガイン殿下、いつも羽根ペン、指が疲れる。これインク瓶、入れて書く」


 拙いながらも一生懸命説明する。そして紙とインク瓶をガイン殿下の前に差し出すと、殿下は面白そうにインク瓶にペン先を入れて紙に書き始めた。


「おぉ、これは凄い。面白いな!」


何度も楽しそうにペンで書いている。


「ガイン殿下、仕事、楽になる?」


「あぁ、もちろんだ。これは凄い。明日、ミスカに自慢しよう。これをどうやって作ったんだ?」


「ミスカさん言った。職人、一緒にきたヨ」


してやったりとニヤリと笑うミスカさんが目に浮かぶ。


 ガイン殿下と少し話をした後、殿下は迎えにきた執事に怒られながら部屋へと帰っていった。こんな時間まで女の子の部屋に入ってはいけませんだって。まぁそうよね。周りの人に気を遣わせてしまった。


今日の誕生日プレゼントは喜んで貰えたようでサプライズはばっちり成功だったよ。



 翌日の朝、朝食をいつものようにガイン殿下と取っていると、何か改まったように真面目な顔をしている。


「ガイン殿下、どうしたの?」


「あぁ、少し考え事をしていた。ミナミ、少しお願いがあるんだが、聞いてくれるだろうか?」


「お願い事?良いヨ」


私は首を傾げながら答えると、ガイン殿下はフッと頬が緩む。


「あぁ、父に会って欲しいんだ。病に倒れていてな。もう長くはないだろうと言われている」


 確か、ガイン殿下のお父さんは長く続いた戦争を終わらせたとっても偉い人よね?もしや、昨日の私のおまじないを期待している?効くかどうかわからないのに?でも、効くならやった方がいいんだよね?


「いいよ。後でシャンとオルヴォと陛下の所行く」


「俺も一緒がいいだろう?」


「ガイン殿下、忙しい。ガラスペン自慢しないといけない」


 ガイン殿下はそうだったなって笑顔になった。まぁ、居候させて貰っているのだし手伝える所は手伝わないとね。藁にも縋る思いっていうのかな。自分の親だったら助けたいって私も思うもの。

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