第19話

ふと私は疑問に思った。


「オルヴォさん、私が婚約者、思われる?」


「宜しいのでは?」


 立って挨拶を受けるのかと思っていたけれど、王様椅子がすぐさま用意されガイン殿下は座ったようだ。


「え?ガイン殿下、将来、王妃探している、だから、私いたら邪魔ヨ?」


私とオルヴォさんがボソボソと喋っていると、ガイン殿下が私を呼ぶ。


「ミナミ、さぁこちらへ来ておくれ」


 私は言われるままガイン殿下の元へ向かう。ガイン殿下は私の腰に手を回したかと思うと、私を横向きで膝にのせて椅子に座った。


「ガイン殿下!?えっと、みんな困る」


「そうか?俺は困らん」


 そう言いながら上機嫌で貴族達の挨拶に返事をしていく。この子供感。そりゃ私は小さいけれどね。私は黙って人形に撤する。偶に家族と挨拶に来た令嬢達に睨まれたが気にしてはいけない。中に勇者な令嬢がいた。


「聖女様、ガイン様と親しいのは分かりますが、殿下は妃候補者が沢山いる身。控えていただいた方がよろしいかと」


ほらっ、やっぱり来たよ。あの令嬢を思い出して少し震えてしまった。降りないといけないよね。けれど、その震えを優しく包むようにガイン殿下はギュッと私を離さない。


見上げると、途轍もなく優しい笑顔になっている。目は笑っていない。


……怖い。


私は下を向くしかなかった。


「聖女よ、心配せずともよい。私に顔を見せておくれ。どうだ?聖女は美姫であろう?」


けれどガイン殿下は顎クイをする。


!?


それを見て声を上げた令嬢と挨拶に来ていた夫婦の顔色は一気に悪くなる。


「聖女様の美しさに敵う者は、おりません。ガイン殿下、この度はお誕生日おめでとうございます」


父親と思われる人は汗を拭きながら答えている。


「あぁ。有難う。私には婚約者候補など存在しない。俺の全てを聖女に捧げると誓っておるのでな」


ふぇっ!?


 私はその言葉にビクッとして視線を上に向けると変わらず満面の笑みで私を見つめている。


ひぇぇぇ。


 勇者な令嬢は私を睨んでいるけれど、両親に促されて列を離れる。その後も何人もの貴族が挨拶をして去る。中には私を無視してガイン殿下との閨に上げるように進言する親や一夜を望む令嬢もいた。凄い。


一人の男に群がる女達に恐怖を覚えるわ。


 やっぱり私は教会で慎ましやかな生活が自分に合っている。顔に出さないようには頑張っていたけれど、少し疲れてきた。身体が疲れたって事ではなくて精神的に、かな。


みんな自信家で超ポジティブなのね。


私には無理だよ。これが終わったら教会に永預けでもお願いしてもいいかなって思ってしまう。


最後の挨拶までなんとか終わった。


……長かったよ。


 挨拶の終了と同時にホールから音楽が聞こえてくる。どうやらダンスをしたり、軽食を取ったりと誕生日会を各々楽しむらしい。


「ミナミ様、今なら退出出来ますよ」


オルヴォさんがそう後ろから話し掛けてきた。


「部屋に戻るヨ」


「あぁ、また後で」


 私はガイン殿下の膝から降りると、ガイン殿下も立ち上がり、皆の前でぎゅっと抱きしめて額にキスを一つ落とした。会場からはまた黄色い声が上がったのは言うまでもない。


私は目が泳ぎカクカクしながら手を上げた後、オルヴォさんにエスコートされて会場を出たのは仕方がないよね。頭からピーッて湯気が出そう。


あわわわ。


 会場を出てからはオルヴォさん以外の数人の護衛に守られながら部屋へと戻る。今日の警備は特に厳しいらしい。まぁ、それはそうよね。


 私が部屋に戻るとシャンとマーサが準備してくれていたようですぐにドレスを脱いで化粧を落として、湯浴みまでしてほっと一息。今日はマッサージもしてくれるらしい。二人のマッサージにうっとりしてホカホカの身体と心も満たされたの。


もちろんちゃんとお礼は言ったよ。残念なのはちょっと部屋が暗いことかな。夜の怪しいムードにはいいのだけれど、勉強するにはちょっと暗いんだよね。シャンデリアっていうのかな?蝋燭が沢山付いているの。あとはオイルランプがある。


そうだ!ランプシェードを鏡で反射すれば良くない?


車のライト的なやつにすればいいんじゃないの?


上に向いている光を鏡で囲って目的の方向に向ければ光倍増!この間のガラス職人さんにお願いすればいいかな。鏡はあるんだから出来るよ絶対。ダメ元で今度お願いしてみよう。ノートに忘れないようにメモをとってからベッドでゴロゴロしていると、シャンが夕食を持ってきてくれた。


今日は部屋で取るらしい。ガイン殿下は会場で食事しているわよね、きっと。


 私は食事を取ってからやることも無いのでソファに寝っ転がり本を読むことにした。まだ幼児用の本しか読めないんだけど、他にすることもないしね。


 この世界に来てからやることが無いので勉強ばかりしている気がするよ。とっても偉いよね。自分で自分を褒めるよ。


 どれくらい時間が経ったのかは分からないけど、扉がノックされ、返事をする。


入ってきたのはガイン殿下だった。


とっても疲れていそう。ガイン殿下はドカリと私の横に座ると、後ろから殿下の従者がワインとおつまみを持ってきた。


どうやらここで過ごすらしい。

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