第18話
ガイン殿下の誕生日。
この日は誕生日パーティが開かれるらしい。私は殿下の横にただ座っているだけでいいと言っていた。聖女として私は祝福を送ればいいのかな?プレゼントをクローゼットの奥深くに仕舞ってガイン殿下の誕生日を浮足立ちながら待った。
当日の朝。
今日はガイン殿下とは別々の朝食になるらしい。というのも私の支度が朝からあるのだそうだ。聖女の服でいいんじゃないかと思っていたんだけれど、シャンやマーヤは駄目だって。
聖女として、この世界の唯一として着飾らせるのが殿下の品格なんだとかどうとか言っていた。
私ももうすぐ十八歳。ガイン殿下は二十二歳になる。
ガイン殿下には婚約者がいないので私は王宮に住んでいるけれど、そろそろ結婚しないといけないんじゃないかなって思っている。
異世界小説では早い婚姻が主流なのよね。ガイン殿下に婚約者が出来たら婚約者の人に迷惑がかかるから教会に住むわって前に一度マーサに言ってみたんだけれど、マーサは『気にしなくていいんですよ』って言っていた。
あの後うやむやになったから聞けなかったけれど、何か事情でもあるのかな。
そう思考の海に潜っている間に私は湯浴みをして頭の先から足の先まで洗いあげられる。今日ばかりは侍女が沢山部屋に入ってきてマーサとシャン主導で私の準備が行われていた。
ここに来てからセミロングだった髪も伸びたよ。今日はハーフアップにしてくれるみたい。やはり聖女という事で白を基調とした清楚なドレスになっている。
「ミナミ様、準備が出来ました」
シャンは私の前に鏡を置いてくれた。鏡に映る自分の姿に驚きを隠せない。鏡の前でクルクルと回って見せる。
「シャン、マーサ!私じゃない!お姫さまのようだっ」
「ミナミ様、とても美しいです。ガイン殿下も鼻が高いですね」
「?そんな事ない、思うヨ」
「ふふっ。まぁ、そんな事はさておき。殿下が首を長くしてお待ちですよ」
「シャン、マーサありがとう。行ってくる」
支度が終わって侍女が呼びに行ったのかガイン殿下が部屋へと迎えにきた。ガイン殿下は私を見るなり、目を細めている。
「ミナミ、美しいな。……ドレスもよく似合っている」
「ガイン殿下、ありがとうゴザイマス」
彼は今日の主役というだけあってきっちりと頭も撫でつけて勲章が一杯付いている王子服を着ている。マントも勿論付いていて本当に王子様なのねって実感する。私とは違う世界の人よね。
「では行こう」
ガイン殿下が差し出した手に軽く手を乗せる。この世界の貴族はこうして令嬢をエスコートするのだと先生に教わった。
どうやら男尊女卑はそれなりにあるらしいけれど、私が思っているよりもずっと女性は強いらしい。
シャン達に言わせれば私はとても大人しい部類なのだとか。人見知りで周りが巨人だらけなら臆病にもなるものだと思うのよね。
ガイン殿下のエスコートで会場入りした私は人の多さに震えあがる。
騒めきの中、私達を見た人達は一瞬にして静まり返った。今まで見たことがない程の人で溢れている。ガイン殿下は私の震える手をそっと包み込み、耳元で囁く。
「大丈夫だ。俺が付いている」
その様子を見た令嬢達はキャッと黄色い声をあげている。ガイン殿下はご令嬢達から人気があるのだと思う。
そうして盛大に始まったガイン殿下の誕生日会。
ガイン殿下の挨拶が終わった後、進行役の宰相から『聖女様からガイン殿下への祝福を』と言われる。予想は合っていたらしい。練習していて良かった。私は立ち上がり、殿下の前に立って短いけれど願いを口にする。
「ガイン殿下にとって二十二歳という歳が良い歳になりますように」
と。すると淡く一瞬だけ殿下が光ったような気がする。
まさか、こんなのもおまじないの内に入るの!?
ちょっと自分で驚き、挙動不審になってしまったのは仕方がない。何人か見ていた人達がいたようでザワザワと会場が騒めいてしまった。何事も無かったように席に座ってはみたものの、ガイン殿下は微笑んでいる。
「聖女からの祝福を確かに受け取った。私は幸せ者だ。皆から慕われ、聖女の出現。これからも帝国は益々栄えていくだろう」
殿下がそう発言すると地鳴りのように響くほどの歓声と拍手で会場は沸き立ったガイン殿下は本当にみんなに慕われているのね。そうして会場の貴族がガイン殿下に挨拶しようと長い列になっている。
私はどうすればいいのかよく分からないので後ろに控えていたオルヴォさんにそっと聞いてみる。
「オルヴォさん、私、この後、何するヨ?」
「聖女様の体調は良さそうですか?暫くガイン殿下の隣に立って微笑まれたらよろしいかと」
体調はまだ思ったより大丈夫だったけれど、貴族が誰かって教えてもらっていないし、ただ一緒に立っているだけでいいのね?
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