第17話

「シャン、作って欲しい、ものある。ガイン殿下、内緒する、いい?」


 ある日、私はシャンにお茶を淹れてもらいながら聞いてみる。今日は久々の勉強の無い日で私は朝からのんびりと時間を過ごしている。


「んーそうですね。大きな費用がかかるのならミスカ政務官にお話をするのが良いと思います。政務官ですから殿下に内緒で費用を捻出するくらいすぐだと思いますよ。でも、ミナミ様の我儘ならガイン殿下は喜んで聞いてくれそうですが」


シャンは何故ガイン殿下に秘密にするのか不思議そうな顔をしている。


「来月、ガイン殿下の誕生日。プレゼント、したい。だけど、ガイン殿下、内緒いい」


シャインは納得したような顔をしている。


「なるほど。それなら納得です。是非ミスカ政務官にお願いしましょう」


「ガイン殿下、内緒。ミスカさん、連絡お願いヨ」


「畏まりました」


 シャンはすぐにミスカさんに連絡を取ってくれたようでミスカさんはすぐに私の部屋へとやってきた。


「ミナミ様、お呼びでしょうか?」


 ミスカさんはそっけない態度で聞いてきた。忙しい仕事の手を止めてしまったのできっと機嫌はよくないのかもしれない。私はそう思って手短に話をする。


「仕事、ごめんなさいヨ。今度、ガイン殿下、誕生日プレゼント、相談したかったヨ」


ミスカさんは一瞬眉を潜めた。何か悪い事を言ったかな。ちょっと後悔しつつも話を続ける。


「ガイン殿下、内緒したい。おかね、お願いと職人、紹介欲しい」


「費用と職人、ですか。どれくらいの費用がかかる予定ですか?」


「んー少し?ガラス、小物、作りたいヨ」


「ガラス小物、ですか。どのような物をご所望でしょうか?」


「ん?ガラスペン。ガイン殿下、羽根ペン使っている。手が大きい、細い羽根ペン、使いづらい、思う」


 私のその一言でミスカさんは驚いたように目を見開いた。何をそんなに驚く事があったのかはよく分からない。


「分かりました!すぐに職人を呼び寄せます。勿論殿下には内緒にしておきます。出来れば私に職人と会う時に同席させてください」


「わかった」



 そして二日後、ミスカさんとガラス職人と思われる人が部屋へとやってきた。


「聖女様、この度はお呼びいただきありがとうございます。ガラスでペンを作りたいと聞いたのですが、どのような物をお考えですか?」


 私は紙に分かりやすいように絵を書いて説明する。残念ながら買ったことが無いので分からない。ガラスペンも無いんだけれど、文具店に展示してあるのを見て試し書きはしたことがある。


シャーペンなんて代物は私には理解できないけれどね。鉛筆は確か鉛だっけ?でも鉛って見たことがないから全く分からないんだよね。そしてこれが鉛ですとか鉄ですとか言われても言葉が合っているかも分からない。


やはり私はただの小娘よね。


 絵にかいて説明すると分かりやすかったみたいだけれど、こんなのが本当にペンになるのかって疑問に思われていたみたい。ミスカさんの視線も何となく痛い。


「は、はぁ、分かりました。作ってみますね」


と、信用度ゼロでガラス職人は帰っていった。




 三日後、職人が私の元へとやってきた。


試作品が出来たみたい。私は出来たガラスペンを手に持ってみる。少し細いかな。持つ所を人差し指位の大きさがいいかなぁ。そして肝心のインクの吸い込み。これは酷い。波模様が大きくてあまり吸い込めない感じ。


多分イメージとしてはトンボ玉みたいな物に熱しながら金具で溝を何本も入れてうにょーんって伸ばしてぷちっと切るなのかなって思っているんだよね。持ち手の部分はまだいい。


丸いガラス玉を火に炙る絵を書いてジェスチャーで説明すると職人は理解してくれたようだ。


なるほど!!と言わんばかりに大きく何度も頷いてすぐに工房へ帰っていった。


 それから一週間後、試作品二号が出来たみたい。何本か持ってきてくれたわ。前回の説明が良かったのか持ち手の太さもいい感じ。そしてインクの吸い込み。これがなんと、上手く出来ていた。書き味もまぁまぁいいわ。試しにシャンにも書いてもらったの。


「ミナミ様!!これは凄いです!発明ですよ!世界がこれを待っていました!」


とても喜んでいる。形はとてもよくて八割は完成したんじゃないかと思う。職人も満足気に微笑んでいる。


「聖女様、色付けはどうしますか?」


ペン先は色が付いていたら分かりづらいわよね。


「ここ、無し。ここを赤、青、黄色、三本欲しい」


装飾ってよく分からないし、シンプルでいいよね。


「それはいいですね。色違いで三本用意します」


「私も欲しい」


「もちろん、お持ちいたします」



 それからまた一週間が経った。


綺麗な箱に入れられてガイン殿下用と私用の二つ。


「シャン!嬉しい!」


 私はプレゼントを手に喜びが溢れてくる。どうやら庭のバラも満開になってしまったようだ。外からワッと声が上がったのが聞こえてきた。


「職人さん、お金、ミスカさんから、貰える?」


「ええ。しっかりといただいておりますのでご安心を。それに殿下の誕生日の後から私の工房も忙しくなりそうです。聖女様にはお礼しかございません」


きっとミスカさんが大量発注するかもしれない。職人は笑顔で帰っていった。

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