第16話
部屋に戻って少しゆっくりしていると、昨日ガイン殿下が言っていた教師の人がやってきた。部屋に入ってきたのは白髭の恰幅のいいおじいちゃんという感じの先生だった。
「聖女様。この度、聖女様の教師を務めいたします、シェダム・ローと言います。宜しくお願いします」
ニコリと微笑むシェダム先生は優しそうな人に見える。
「私、高坂美波。ミナミ。よろしく」
「ミナミ様、私はミナミ様がおられた異世界に興味があります。教師をしっかりと務めますので偶にミナミ様がおられた世界の話しをお聞かせ下さい」
シェダム先生は研究者なのかな?
まぁ、私の乏しい知識でしか教える事は出来ないけれど、聞かれるなら答えるよ。言葉が通じるようになれば、かな。
シェダム先生はノートのような少し大きな紙に単語を書いて私が何度も書き取りをして言葉に出してみる。教会で少しずつは習っていたけれど、紙が無くて必死だったのよね。
「ふむ。単語は覚えているようですね」
そして単語の書き取りと同時に絵本の音読も始まった。何だか英語の授業を受けている気分になる。そして休憩の時に先生はお茶を淹れながら異世界の話をする。
「ミナミ様の世界はどういった世界なのでしょうか?聞いた話でここに召喚された時の服装は私達の物とは違ったものだと聞きました。この世界より文明は進んでいるのでしょうか?」
私はここへ来た時、ちょうど近所のスーパーに買い物に出掛けていたのでラフな服装だった。ジップアップのトレーナーにロンTとレギンスにスニーカー。この世界では無いものばかりかもしれない。
シェダム先生にクローゼットの奥にしまってあったジップアップのトレーナーを見せる。
「これ、ここ、ない」
ファスナーがこの世界にないと思ったのでちょうどいいと見せてみた。これが作られれば色々な場所で使えるよね。
「シェダム先生、これ、ファスナー」
私はファスナーの部分を見せるとシェダム先生は興味深そうに見ている。
「これは凄い!」
そう何度も繰り返しながらファスナーをジーッと上げ下げしている。私自身の功績ではないけれど、ちょっとは役に立ちそうかな。先生はすぐにファスナーの形を紙に書き取り、実用できるかどうか後で職人に話してみると言っていた。
先生の興奮で休憩が終わってしまったような気がする。午後は会話を重点的に行う感じだった。
そうして朝はガイン殿下と食事をしてから私はシェダム先生に午前中は文字を覚え、午後は会話を中心に勉強していった。もちろん休憩には異世界の話を少しずつ話す。
そんな日が一年ほど続いた頃。
ようやく私も日常会話がほんのり良くなった気がする。
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