第14話
門の前に兵士と何人もの人達。教会の人かな。それっぽい服を着た人が立っている。
私は旅の間はワンピースを着ていたんだけれど、城に入る時にワンピースだと不味いらしく、文官が用意してくれた白い服を渡された。ワンピースの上からすっぽりと着ればいいらしくてお城の門扉に入る時に上から着た。
馬車が停まると、オルヴォさんがまず降りて私の手を引いて降ろしてくれる。やはりここでも私の身長では一人で降りることができなくて抱っこに近い感じで降ろされた。
出迎えてくれている人達が私を見ると一瞬時間が止まったかのような感じがしたけれど。
「聖女様!お帰りなさい」
と、誰かが声を上げると他の人も一斉に声を出し、敬礼をしている。集まる視線とその姿に私はビクッと身体が震えて動けなくなっていると、オルヴォさんが耳元で『大丈夫です。一緒に行きましょう』と話して私の手を引いてくれる。
ドキドキしながら歩いていくと、男の人の前でオルヴォさんが立ち止まり、敬礼をしている。この人、王様だと思っていた人だ。きっとこの人がみんなのいうガイン殿下っていう人なんだと思う。
オルヴォさんが彼に挨拶をした後、横に移動し、敬礼している。ガイン殿下と視線が合う。
「聖女、よく戻ってきてくれた。俺は嬉しい。長旅で疲れただろう。部屋へと案内する」
ガイン殿下はフッと笑みを浮かべて私に手を差し出す。きっとこれはエスコートというやつのかな。私はそのまま手を乗せると、優しく手を引かれて城へと入っていく。
「聖女、村の暮らしはどうだったかな?心配していたんだ。元気になって良かった」
ガイン殿下はそう話しながらゆっくりと城の通路を歩いていく。歩幅の違う私に合わせてくれているみたい。
「村、みんな、優しい」
私はそう答えると、ガイン殿下は優しい声で答える。
「そうか。聖女の声は鈴がなるような可愛い声なのだな。ここが聖女の部屋だ。俺の部屋は隣にある。何かあったらすぐに俺を呼んでくれ。ではまた後でな」
ガイン殿下はそう言って部屋の前まで私を送った後、私を連れてきた文官と何処かへ行ってしまった。
「ミナミ様、お部屋へどうぞ。私が付いております」
そう言って先ほどまで後ろにいたオルヴォさんが扉を開けてくれる。
もうあのメイドはいないよね?
私は中々一歩が出なかったけれど、意を決して恐る恐る部屋に入る。
この部屋は最後にいた部屋だった。
白い家具に猫足のテーブルやソファ。あの時はただボーッと見ているだけで部屋の事なんて全然意識がなかった。
よく見てみると、とても可愛いお姫様のような部屋だったのね。私は少し嬉しくなった。家具もきっと私に合わせてくれたのだと思う。大きさもちょうどいいもの。
私がソファへ座ると、メイド服の女の人が二人部屋に入ってきた。
「聖女様、今日から聖女様のお世話をさせていただく侍女のシャンです。宜しくお願いします」
「私はマーヤと言います。これから聖女様のお世話を精一杯させていただきます。宜しくお願いします」
メイドだと思っていたけれど侍女なんだ。メイドと侍女の違いもよく分からないんだけどね。二人は私より少し年上なのかな。とても優しそうな感じで良かった。
前の人を思い出して少しビクッと肩を上げてしまったのは仕方がない。
「私、ミナミ。シャン、マーヤ、宜しく」
シャンとマーヤはどうやら交代で私の世話をするらしく、マーヤは頭を下げて部屋を出て行った。シャンはというと、早速私にお茶を淹れてくれている。とても良い香りのお茶。そっと口を付けて飲み始める。
シャンは私が飲む姿を確認すると隣の部屋へ移動し、何かをしている。暫くすると、
「ミナミ様、湯浴みの用意が出来ました。入られますか?」
ゆあみ?教会で習った言葉にはなかったからよく分からない。
「ゆあみ?」
私は侍女が用意していた隣の部屋を覗いてみると、猫足の白いバスタブに温かな湯気が立っているお風呂が用意されていた。湯浴みか。
お風呂に入れる!
私のテンションはかなり上がった。教会ではお風呂はなかったんだよね。どうしてたかって?小さなタライにお湯を入れて身体を拭く。髪の毛も拭くらしいんだけれど、私は耐えきれずにタライに頭を突っ込んで洗っていたのは内緒ね。
「湯浴み!する!」
私は何か月ぶりかのお風呂に入った。シャンは私を丁寧に洗ってくれたわ。人に洗われるのはとっても恥ずかしかったけれど、それよりもお風呂の気持ちよさが勝った。
石鹸やシャンプーとトリートメントはないみたいなんだけれど、果実?を布の袋入れていた物で肌を擦るらしい。
私の皮膚は柔らかいようらしく、シャンはとっても驚いて優しく撫でるように洗ってくれた。髪の毛も何か石鹸のようなもので洗ってからオイルを付けて馴染ませているのかな。優しく触られてうっとり目を閉じていたからその辺はよくわかんない。けれど気持ち良かったの!ついウトウトしちゃった。
簡易なワンピースを着てソファでウトウトしている間にシャンはしっかりと髪を乾かしてくれたみたい。髪の毛の艶がでて自分の髪じゃないみたいだった。
「ミナミ様、夕食はガイン殿下と取るようになっていますが、軽くお化粧をされますか?」
すっぴんで行くのは変なのかな。そのへんはよく分からない。
「する、の、いい?」
私はオドオドと聞いてみると、シャンから『ご令嬢は部屋から出るときはみな化粧をするのが一般的です』と言われたのでしてもらうことにした。
初めての化粧にちょっとドキドキする。化粧をした後、服を着替えて夕食を取りに食堂へと向かう。ワンピースではなく、部屋以外は聖女服で過ごさなければいけないらしい。
どうやら聖女の服は数種類あるらしく、白を基調として金のレースが施されていたり、白レースだけだったりと用途に合わせて着るらしい。夕食は一番地味な白レースの物みたい。白ばかりではなく淡い色の服も欲しいけれど文句は言えないわよね。でも、言う機会があれば希望をだしてみようと思う。
シャンにしてもらった化粧で少し大人っぽくなったような気がする。
「シャン、どう?」
私はニコリと微笑みシャンを見ると、シャンは一瞬止まったように見えたけれど、すぐに微笑み返してくれた。
「ミナミ様、とても可愛いです。きっとガイン殿下も喜んでくれます」
ガイン殿下?なんで?って思ったけれど、今からガイン殿下と夕食だった。
可愛いって言われてちょっとテンションが上がったけれど、王子様と食事だと思うとテンションが下がる。気が重いなぁ。そう思いながらも準備が出来たのでオルヴォさんに連れられて食堂へと向かう。
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