第13話

「城、帰る、私*#&%+?(必要があるの?)」


あぁ、通じなかった。うーん。言葉が分からないや。


「城に帰るのは聖女様を守るためでもあるのです。ここは平和な村ですが、聖女様がいらっしゃるとなると誘拐する者がおります」


文官の言っている内容は少し理解が難しい所はあったけれど、なんとか分かった。


「言葉、ゆっくり、簡単」


 城の人達が来たって事はきっとオルヴォさんかパロン神父さんがいつも報告しているって事だよね。その時に私は言葉が分からないって伝わっていないのかな。


「*+*#$%”&*+(私はこの世界に来たくて来たわけじゃない)」


どうせ通じないだろうから言ってみる。私が話すと文官は困ったような顔をしている。


「聖女様の身を守るためどうか、城へお戻りください」


文官が頭を下げた時、他の兵士もみんな頭を下げている。


……どうすればいいんだろう。


「私、静か、過ごす」


 私の言葉は了承と捉えられたのか文官達はほっとしている様子。何か言葉を間違えたのだろうか。自分の発した言葉に後悔するけれど、仕方がないのかなっていう諦めの気持ちもある。


ニナはほっとしているのか私を見て微笑んでいる。


その表情から私は何も言えなくなる。


 あぁ、もしかして私はここにいると気を遣わせてしまっているのだろうかと。私はそれ以上口を開かないままじっと様子を見ていると、文官は何か兵士達に指示を出している様子。きっとすぐに私の荷物を纏めて馬車に乗せるのだと思う。


私は礼拝室から出てパロン神父の部屋へと向かった。神父様は心配そうに声をかけてくれている。


「ミナミ様、大丈夫ですか?」


「……」


「いつでも村に戻って来てくださいね」


 パロン神父は心配そうに見ながらも微笑んでいる。きっと今の私の表情は酷いものに違いない。


私は部屋へ戻り、籠に荷物を詰めていく。


といっても、私の荷物なんて殆ど何にもない。


 この世界に来てから用意されていたのはワンピースが三着ほど。ここに来てからはシスターの制服三着の計六着しか持ち合わせていないしね。もちろん装飾品もなければお金も持っていない。私がこの世界に来た時に着ていた服もどうやら城に置いてきたようだし、本当に私の物は何もないの。シスターの制服を籠に詰めていると、ニナさんが慌てて止めに入る。


「城で聖女様はもっといい洋服が用意されています」と。


「いい。この服、持っていく」


 そうして部屋はまた何事もなかったような部屋へと戻った。ニナさんが私の代わりに籠を持って教会の外に出ると既に出発準備は出来ていたようだ。


三台の馬車は教会の前に止められていた。黒塗りの立派な馬車。確か私がここへ来た時も同じような馬車だったわ。


村で偶に見かける馬車は幌馬車っていうみたい。村の人達は物珍しさからみんな教会の前に集まってきていた。


「ミナミ様、行ってしまわれるのですね」


 サリさんが教会を出た所で話し掛けてきた。ニナさんもパロン神父も立っている。涙を堪えながら私はニナさんとサリさんに握手して抱きつく。


「パロン神父、ありがとう。*+?#$%#*(この教会に幸せが訪れますように)」


 私はパロン神父に握手をして幸せを願った。一瞬私の手がふわっと光ったような気がしたけれど、きっと気のせい。私はオルヴォさんに馬車へと乗せられた。どうやらオルヴォさんはガイン殿下が付けてくれた私の専属の護衛兵士らしい。


言葉を聞き取れるようになってから事実を知った。私は馬車に乗り込むとみんなが手を振ってくれている。ありがとう。みんなの気持ちが私を立ち直らせてくれた。馬車は御者の掛け声と共に馬車は出発した。


カラカラと乾いた音と共に動き出し、教会が少しずつ遠くなっていく。


「ミナミ様、大丈夫ですか?」


 行きは人形のようにボーッとして気づかなかったけれど、馬車ってとっても揺れるのね。私は馬車に酔いながら王都へ向かっていた。窓から見えるのは森ばかり。揺れのないようなタイヤとかクッションとか欲しい。


あ、もちろんチートは出来ないから馬車は改善できないと思う。電車のようにレールで進めばいいなんて考えるけれど、まぁ着くころには忘れちゃう。


 ガタガタと続く道を進む事数日。


途中で休憩を挟みながら王都へと向かっている。森だった景色は一気に街へと姿を変えた。私が王都を出るときは曇りだった気もするけれど、今は少し晴れ間も見えている。街には人々が沢山いて活気に溢れているみたい。


やはり王都に来て思うのは人が大きい。


子供だって私くらいの大きさじゃないかな。


絶対巨人族だ。


 私がいる場所は帝国と呼ばれていて、いつも戦争をしていたって言っていた。大きな戦争が終結したのが十年前だったかな。ニナさんの両親は戦争で亡くなったと言っていた。王都には戦争の爪痕は感じられない。きっと国の中心だから攻められなかったんだよねきっと。


「ミナミ様、もうすぐ到着します。私がついております」


 オルヴォさんがそう言って私に微笑みかける。もうニナさんもサリさんもここにはいない。知っている人もオルヴォさんだけになった。怖いってばかりも言っていられないんだよね、きっと。


そうこうしている間に馬車は城の門をくぐっていく。すると馬車の両端に均等間隔に兵士が立っている。そしてついに、馬車は城の門前に到着した。

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