第12話

 この世界には魔法という物は残念ながら存在しないとかどうとか。じゃぁ、私がこっそり使ったおまじないは何なの?って事になるけれど、それはまだ誰にも言っていない。


あれから何度か使ってみたけれど治癒魔法で腕が生える!とか大怪我がたちどころに治る!とかは無い感じなの。あくまでおまじないがよく効いているんじゃない?程度だと思っているので言う必要はないかな。


 毎日シスター達と語学の勉強。村の人達にも少しずつ会うようになった。どうやら王都で虐待され、療養のためにこの村に来た令嬢として心配されているって聞いたの。間違いではないけれど、令嬢でもないのよね。自室で語学の勉強をしていた時。


―コンコンコンコン―


 珍しく誰かが私を呼んでいる。私はそっと扉を開けて顔を出すと、会ったことの無い男の人がそこに立っていた。


「聖女様、お迎えに参りました」


私は突然の事に驚き、パタリと扉を閉めた。


……迎え?


 またあの城に戻る?私は怖くなり、ベッドに潜って震える。大丈夫だと頭では理解しているのだけれど、身体がまだ覚えているのだと思う。記憶が蘇る。大きな人達が、私を見て何か言っている。


床に叩きつけられた痛み、メイド服の女の人が私を叩き、顔を歪ませながら鞭打つ姿。ガタガタと震える自分を両手で押さえつける。大丈夫、大丈夫と自分に言い聞かせながら。


「ミナミ様!ご無事ですか」


サリさんが扉を開けて走り寄ってきた。


「こわい、こわい、私を、叩く」


半狂乱になっているのだと自分でも思う。でも、恐怖で止められない。


「ミナミ様、私達が付いていながら……」


 サリさんが私をぎゅっと抱きしめてくれている。どれくらいの時間が経ったのかわからないけれど、気が付くと私はそのまま眠っていたみたい。少しの間気を失っていただけ?外はまだ日が高いみたい。


私はベッドから出て神父の部屋へと向かう。いつもとは違って教会の礼拝室の方は人の声がする。きっと城の人なのだろうと思う。私は扉をノックし、神父の部屋に入る。


「ミナミ様が倒れたと聞いて心配しました。もう体調は良いのですか?」


パロン神父はとても心配している。


「パロン神父さん、私、平気」


「そうは言っても丸一日目を覚まされなくて心配しました」


えっと、丸一日?


そんなに寝ていたの?驚きを隠せないでいた私にパロン神父は微笑む。


「聖女様、私に用事があったのではないですか?」


「城の人、私、行く?」


 上手く話せない自分がもどかしいけれど、これしか伝えようがないのが辛い。異世界人チートは発動しないのが残念でならない。ほらっ、召喚されたらどこの言語もばっちりされているとか魔法で通訳するとか小説ではあるの話なのに。言語の壁が高すぎる。


「聖女様の体調をみながら、という事になると思いますが、いずれは王都へ帰る事になります。今、村に来ている者に会いますか?聖女様が会いたくないと思えばそのまま王都に帰します」


どうしようかと悩んでみたけれど、結局の所、王都にいつかは帰らないといけないのね。


でも、ちょっと怖い。


でも、わざわざ王都から来るのに何日もかけて来たんだよね。ニナさんかサリさんに一緒にいてもらえたら城の人達に会える気もする。


「ニナ%$#、一緒、イイ」


「分かりました。ニナを呼んできます。城の人達にも伝えるので暫く聖女様のお部屋でお待ちください」


 パロン神父はどこかホッとしたような表情をしている。やっぱり私は迷惑をかけているのかもしれない。少し凹みながらも頷き、部屋へと戻った。


 暫くするとニナさんは私の部屋へと入ってきた。ニナさんは相変わらず優しい。私なんかより、こういう人が聖女なんだと思うよ。


「聖女様、目を覚まされて良かったです。城の人達と会うって本当ですか?」


ニナさんはとても心配している様子。大丈夫、だと思いたい。私は小さく頷く。


「大丈夫です。私も側に居ますし、オルヴォさんも後ろにいますから」


 私の不安な様子にニナさんは一生懸命励ましてくれている。私はフッと息を軽く吐いてから部屋を出て礼拝室に入る。礼拝室に入るとそこには用意された席に座っていた数人の文官のような人と兵士が座っていて、何か雑談のような話をしているようだったけれど、私を見るなり彼らは立ち上がり、礼をしている。


「座って#&%”(下さい)」


 一応通じたのか彼らはみんな席に座った。私も用意された席に座る。もちろんすぐ隣にはニナさんが座ってくれている。やっぱり私を迎えに来た男の人達も巨人ばかり。強そうな彼らを見ると怖く感じてしまうのは仕方がないよ。


私がカタカタと震える手を押さえていると、ニナさんが気づいたようで私の手をそっと撫でてくれる。


「聖女様、突然の訪問に驚かせてしまい申し訳ありません」


真ん中に座っていた文官のような男の人が口を開いた。


「どうか、王都へお戻り下さいますようお願い申し上げます」


「なぜ?帰る、だめ?」


「ガイン殿下が聖女様を待っているのです」


「ガイン殿下?分からない。城、痛い、帰る、怖い」


「聖女様を虐待していた者達はもういません。ガイン殿下がとても心配しております。どうか、お戻り下さい」


 虐待していたメイドの女やあの令嬢もいないのね。お城で何かあったのだろうか。ここで言葉を教えて貰っている時、パロン神父から聖女について話を聞いた。聖女の心の安定がこの世界の天気や恵に関わっているのは理解している。


だったらここで心穏やかに過ごすのは駄目なのかな。


あぁ、でもきっと駄目なんだろうね。


だってラノベの聖女はよく孤児院を周ったり、儀式をしたりと色々忙しく過ごしている気がする。私は祈っても結界は張れないし、そもそも魔物もいないみたい。聖女っていう象徴的な物が欲しいだけの気もする。


でも、拒否出来るほど私が偉いわけでもない。分かってはいるんだ。


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明けましておめでとうございます。

朝から次話の順番がおかしな事に気づき修正に追われてました。(´∀`)

本年もどうぞよろしくお願いします。

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