第10話シスターニナside 2
「ファナ様、私、聖女様のお世話を是非させて下さい」
私は頭を下げるとファナさんは力が抜けたようにふっと微笑んでいる。
「ありがとう。聖女様の容態はあまり良いとは言えないわ。固形物はなんとか食事で摂れるようにはなったけれど、自分の感情を表に出すことができないの。それに私がお世話する以前の虐待を受けていた時の状況はよく分かってはいないのだけれど、ずっとベッドで過ごしていたみたい。
リハビリをしているのだけれど、立つ気力までも失われているのか、立てなくなっているわ。横にいる彼が聖女様の移動を助けてくれるから力の面では大丈夫よ」
私は兵士の方に視線を向けると挨拶をしてくれた。
「俺はオルヴォだ。聖女様の護衛や移動に付き添うためにいる。宜しく頼む」
ファナさん達は村で一泊してから王都に帰るらしい。私達は聖女様の体調の事や食事に関して引継ぎを行った。聖女様はお世話を拒否される事はないみたい。そして好き嫌いもないのだとか。
ただ、この世界に来て誰も聖女様と話をした事がないのでどんな生活をしていたのか、どんな物が好きなのか分からないと言っていたわ。
ファナさんは聖女様が元気になる事を願いつつ王都に戻っていった。
聖女様はこの教会で療養して過ごす事になった。聖女様はいつも視線を遠くに向けている。私がお世話をするのは拒否されないし、ファナさんが言っていたように食べ物の好き嫌いもないみたい。
王都では一体どんな生活をしていたのだろうか。反応はかなり薄いけれど、声は聞こえているみたい。私とサリさんは交代で聖女様のお世話を続けた。村の人達には虐待にあった貴族令嬢の療養だと話をしたわ。みんな心配してくれている。早く良くなってほしい。
みんなそう思いながらも日々を過ごしていたわ。
オルヴォさんは寡黙ながらもいつも聖女様の側にいて時々どこかへ手紙を出している。きっと城に報告を出しているのかもしれない。
ある日、いつも部屋だけだと息が詰まるだろうと庭に日光浴のために出たの。日光浴とはいうものの、天気はいつも薄曇りなのだけれど、狭い部屋に毎日いるよりは良いと思ったの。
オルヴォさんが聖女様を庭に連れていき、椅子に座らせるとひざ掛けを取りに戻った。私は部屋の窓からその様子を見ていたのだけれど、二匹の猫がどこからともなく現れて聖女様に懐いている。すると、今まで人に世話をされるがまま、表情一つ変えなかった聖女様が微笑みながら猫を撫でている。
あぁ、神様。なんてことでしょう。
聖女様が微笑むと聖女様の周りだけ光が差し込んだ。
「……奇跡」
私は思わず言葉が口から出た。微笑む聖女様はなんて神々しいのかしら。自然と涙が溢れてきた。異世界から一人やってきて、心を壊される程の虐待も受けていたのに。
私が窓を見つめながら涙を流していると、オルヴォさんがその様子を見て声を掛けてきた。
「シスターニナ。どうしたんだ?涙を流して」
「……オルヴォさん。だって、聖女様を見てください。微笑んで猫を撫でているんです。聖女様が微笑むと途端にほらっ、光も差し込んでいるでしょう?」
オルヴォさんが私の話を聞いて窓の外に視線を移す。
「奇跡だ」
オルヴォさんもその様子を見て驚いているのか立ち尽くしていた。
「オルヴォさん、聖女様にひざ掛けを持っていってあげて下さいっ」
「ああ、そうだな」
オルヴォさんがひざ掛けを持って庭に出た時にはまた無表情になってしまった。けれど、少しの変化はあった。
その日、聖女様が眠りに就かれた後、パロン神父、サリさん、オルヴォさん、私で話し合いが行われた。
「ニナ、聖女様が微笑んだというのは本当かい?」
「はい。パロン神父。聖女様が猫を撫でられた時にふっと微笑まれたの。その時、雲間から光が差して聖女様はとても神々しかったです。ね?オルヴォさんも見たでしょう?」
「あぁ。シスターニナの言う事は本当だ。一瞬だったが聖女様は微笑んでいた」
「えー、私も見たかったわ。でも、この教会に来て少しずつ良くなっているって事よね。嬉しいわ」
「毎日部屋に閉じこもって居るのも息が詰まるのかもしれない。これからは時間をみて毎日庭に出てもらうとしよう」
「「「そうですね」」」
そうして聖女様は毎日お昼過ぎに庭へ出てベンチに座る事になった。不思議なことに聖女様が外に出ると、何処からか猫やリス、子犬やシカ、鳥や狸など様々な動物達が聖女様の元に集まってきていた。
無表情だった聖女様も毎日聖女様に会いに来る動物達に心を開かれているみたいで笑うことが多くなった。そして自分から動物達を撫でているの。
日を追うごとに聖女様の心が癒されてきているのが分かる。それと同時に天気も晴れている事が多くなってきていて、暖かさも取り戻しつつあった。
聖女様は元気を取り戻しつつある。
最近は食事も自ら食べ始めている。筋力が衰えたせいで覚束ないけれど、ゆっくりと自分で全て食べられるようになってきたわ。庭に出ても動物達を撫でようと椅子から立ち上がる練習をしている。
私やサリさんとオルヴォさんで聖女様が転んでしまわないように近くで見守っている事が多くなった。どんどんと体調が良くなってきている事に私達は喜びを感じているけれど、
聖女様は一向に話す気配がない。
どうしてなの?
私達は言葉にしないけれど、日に日にその思いが募っていったそんなある日、聖女さまが立ち上がろうとして何かを呟いた時に足が淡く光った。そして、立ち上がり、歩いている。
……奇跡がまた一つ起きた。
私は涙があふれ出た。泣いている私を心配したのか聖女様は私の元へ歩いてきて手を差し伸べて下さった。
「”!$&&%*?」
……えっ。
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