第9話 シスターニナside

 私の名前はニナ。小さな時に親を亡くして教会に引き取られた。帝国は戦争していたから私みたいな孤児は教会に沢山いたわ。私が六歳頃に戦争は終わったみたいだけれど、疲弊していた民の暮らしは貧しく、その日の食べ物が無い事だって多いの。


国からの配給になんとか国民は保っていると誰かが言っていたわ。皆十ニ歳を過ぎると社会へ働きに出る。仕事が決まると教会を出ていく。私は針子として生活しようかと思っていたけれど、神父様やシスターを支えたいとシスターになったわ。王都に行って五年ほどシスターの修行をした後、王都から少し離れた村に配属される事が決まった。


 配属されるその村に孤児は居ないけれど、若い人は出稼ぎに出てしまって老人達しか残されていない村だと聞いた。私に出来る事があるのだろうかと不安になりながらも村へ向かう。村に着くと早速教会へと向かった。


ここの教会に住んでいるのはパロン神父とシスターのサリ。パロン神父は今年三十五歳なのだとか。生きていれば私の父と歳が近いかな。サリさんは今年二十歳の優しそうなお姉さん。


二人とも優しい。


そして村の人達も私を孫のように可愛がってくれている。


 朝のお祈りを終えると、村の畑のお手伝いをする。夕方まで働き、夜のお祈りをして一日が終わる。そんな毎日を四年ほど続けてきた。村自体は裕福ではないけれど、飢える心配はなく毎日楽しく過ぎていく日々。


 最近、曇り空が広がり天気の悪い日が続いているわ。どうやら世界中同じような天気なのだとか。一体何があったの?不安になっていると、村に雪がちらつき始めた。月一で来てくれる行商人の話では王都に雪が積もる程、降っているのだとか。


神様が怒っているのだと話をしていたわ。今、王都では何が起こっているのか分からないけれど、この天気に不安になる。雪が降ったり止んだりする日が何日も続いている。畑の植物は枯れ始めて村の人達も困り始めた。


今までにない天気にみんな困惑しているわ。私もパロン神父もサリさんも一生懸命お祈りを捧げるしかなかった。



 そんな日が何日も続いたある時、パロン神父の元に手紙が来た。どうやら王都から一人の令嬢を預かって欲しいという内容だった。令嬢を預かってくれている間、村の補助金を増やすという。詳しい内容は書かれていなかったみたいだけれど、王都の教会本部から直々の手紙なのでパロン神父はとても驚いていたわ。


村の状況を見て、私達はそのご令嬢を受け入れる事にしたの。どんな人がくるのかしら。手が付けられない程我儘でシスターと同じ生活をして我儘を治す?偶にそんな令嬢がいると話には聞いているわ。


そういう令嬢は環境の厳しい国境近い教会だったり、戒律の厳しい場所に送られたりするのが殆どなのだけれど。不安になりながらも馬車は到着した。


 旅装をした女の人と一人の兵士が馬車から降りてきた。兵士は一人の女の子を抱えているわ。この子が手紙のご令嬢かしら。三人はパロン神父の元へ向かった。部屋では何を話しているのかしら?私はお茶を出してからすぐに部屋を出た。


「ニナ、気になるわよね。手紙にあったご令嬢を見た?」


「それがちらっとしか見ていないんですよ。小さな子供のように見えたわ」


 私達が話していると、パロン神父がすぐに私達を呼んだ。部屋に入ると、旅装の女の人と兵士の間に小さくガリガリに痩せた黒髪の子供が無表情で座っている。


「ニナ、この方をこれから私達でお世話していく事になる」


「お名前は何と仰るのですか?」


「……聖女様だ」


私もサリさんも耳を疑った。


「えっと、お名前は?」


「聖女様なんだ。訳があってな。心を壊されているらしいんだ」


「……心を壊されて、いる?」


 私達の腑に落ちない顔をしていたのを旅装の女の人が話してくれた。


「私は王宮医師ペッテリの助手、ファナと申します。聖女様の療養のお願いを聞き入れていただきありがとうございます。聖女様のご容態なのですが」


ファナさんはそう話し始めた。


 どうやら異世界から召喚されてから一言も話をしていないのだとか。そして皇子殿下の花嫁として聖女様をお迎えする予定だったけれど、それを良しとしない令嬢が聖女様を苛めて、侍女を使って虐待まで行って生死の境を彷徨っていたらしい。


その虐待の話を聞いてパロン神父もサリさんも、もちろん私も心穏やかにはいられなかった。聖女様といえば私達教会関係者からは神様の代弁者と言われるほどの人で、とても神聖で崇められるべき人物。


なのに、生死を彷徨う程の事をされた??


許される事ではないわ。ここ最近の天候不順にも納得がいった。誰一人知らないこの世界に召喚されて来た聖女様。心細かったに違いないわ。それなのに虐待までされてしまうなんて。

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