第7話 ガインside4

 執務室に戻ると、今までにないほどの緊張感に包まれており、数名の者が後ろ手に縛られていた。


「……クスター、報告せよ」


クスターは緊張した面持ちで話し始める。


「まず、殿下の指示後に手配した護衛ですが、どうやら勤務後に何者かからの襲撃に遭い怪我をして療養中でした。聖女様への暴行、虐待に直接関与していたのはそこに居る侍女が主導していたようです。


そして主人であるイエッカから食事を抜くような指示と世話を放棄するよう指示が出ていたとの事です。


イエッカが副官から外された時も最後の指示が出ていたようです。『聖女を潰せ』と申しております。


その後、鞭などを使い暴行に及んでいたと話しております。詳しい取り調べはこの後、行う予定です。そして侍女に加担していた者、料理人、洗濯を担当する下女、衛兵、護衛を付けるのを阻止していた者を連れてまいりました」


「侍女以外の者の首を刎ねよ」


「承知致しました」


俺の命令を聞いた侍女以外の者達が一斉に声をあげる。助けて下さい、と。涙や鼻水を流しながら赦しを乞う姿に苛立ちを覚える。


「侍女にはより詳しく取り調べをしろ。そして命令した者がイエッカ以外にいるのかどうなのかも徹底的に調べつくせ。それと、イエッカを連れ戻し、公爵共々連れてこい」


「承知いたしました」


 クスカーに指示を出し、侍女に加担したやつらはクスカーと共に部屋を出ていく。


時々窓を見ながら執務を続ける。雪は小康状態を保っている。





そこから一週間程聖女は目覚めなかった。


 俺は毎日時間のある時には聖女の部屋へ赴き、聖女に話し掛けた。ファナは管を使って栄養摂取を行い、起きてすぐに身体が動かせるようにとマッサージをずっと行っている。偶に寝返りを打っているらしいのでもう少しすれば目覚めるだろうと言っていた。


それからまた数日後、液体の栄養摂取とペースト状にした野菜の摂取が始まっている。少しずつだが前進はしているようだ。


「ガイン殿下、侍女の調べが終わり、バルンド公爵及び、イエッカを連れてまいりました」


俺やミスカ、宰相、武官長、政務官長、大臣達を集め、謁見の間でそれは行われた。父はやはり病気のため出席は見送った。


「さて、バルンド公爵とその娘イエッカ。この場に呼び出された理由は分かっているな?」


 俺がそう口を開くと公爵は項垂れているが、小さくハイと頷いた。イエッカの方はというと、対照的に今にも暴力に訴えそうな程暴れている。


「私は何もしていないわ!私はガイン殿下と結婚するために生まれて来たんだもの!」


そしてクスカーは後ろ手に縛られた侍女を二人の前に転がす。手足は包帯を巻いている。どうやら相当キツイ尋問を受けたようだ。


「さて、イエッカ、この侍女を知っているだろう?」


宰相がイエッカに質問する。


「知らないわ!お願い!ガイン様助けてっ」


 先ほどとは打って変わってか弱い令嬢のふりをするイエッカ。その姿にミスカもクスターも白い目で見ている。


「侍女よ、お前は聖女様を虐待した罪に問われている。この場でイエッカと繋がっていると証言するなら死罪は考慮する事にしよう」


宰相はイエッカに答える気がないと思ったのか侍女に質問を変えた。


「わ、私は、イエッカ様付きの侍女でした。旦那様から『クスター様の依頼によりすぐに侍女を手配するよう指示があった。城に公爵家の者が入るチャンスだ。すぐに準備するように。公爵家からの指示はイエッカから行う。それまでは静かにしていろ』と言われました」


「ほう、イエッカから指示はあったのか?」


「ありました」


「それはいつだ?」


「私が王宮勤務初日です。イエッカ様から聖女様の部屋へ入る前に声を掛けられました」


「なんて言われたんだ?」


「『貴方が今から担当する女はガイン様の婚約者候補なの。殿下に嫌われるよう邪魔して頂戴』といわれました」


するとイエッカが怒り出す。


「だってガイン様は私の婚約者なんだもの。聖女を騙った女なんて邪魔でしかないじゃない!!」


「イエッカが城を出た後に聖女の食事を抜き、虐待をしたのは何故だ?」


侍女が目を泳がせながら答える。


「そ、それは。バルンド公爵から手紙が届きました。『イエッカを辺境の地へ送った聖女に報復を、痛い目に遇うことを望む』と」


 侍女がそう口にした時に大臣達の顔が一斉にバルンド公爵へ向くと、公爵は顔を歪ませている。俺は宰相と侍女のやり取りの途中だが口を開く。


「俺は、聖女がイエッカに頬を叩かれ、後ろ手に縛られた時、イエッカに今までに無いほど甘い処分をした。だが、聖女は現在も生死の境を彷徨っている。


皆も気づいているだろう、王都に降らぬ雪がその証拠だ。聖女が死ねば帝国、この世界が消滅する。それほど重大な事をしたのだ。自分達を優先するあまりにな。ミスカ、クスター、他に言いたい事はあるか?」


御座いませんと首を振る。


「宰相、大臣達よ、何か言いたい事はあるか?」


すると、一人の大臣がオドオドしながら手を挙げた。


「ジョロ大臣、なんだ?言ってみろ」


「聖女様の現在のご様子はいかがなのでしょうか」


「そうだな、ここに居る者には伝えておこう。聖女の容態だが峠は越したのだが、未だ目覚めぬ。体調も少しずつ回復しているのでもうじきに目覚めると医師の判断だ。その頃には雪も止むだろう」


大臣は頭を下げた。それ以上詳しく今は言うつもりはない。


「さて、ここで宰相と大臣に問いたい。この者達の処遇について」


すると宰相が一歩前に出て発言する。


「世界を滅亡の危機に晒したこの者達、一族全てに死刑を望みます」


「ほぅ。では賛成の者、挙手せよ」


するとその場に居た全ての者が手を挙げていく。


 その様子を見てバルンド公爵はガクガクと震えだし、イエッカは更に暴れ始める。イエッカを押さえていた衛兵はイエッカの強さに一人では押さえきれず、三人がかりで押さえつける事になった。


侍女は『私は指示されただけ。家族を取られているの』と涙ながらに繰り返している。


「では、バルンド公爵家全ての者を処刑とする。処刑は王都の広場にて三日後に行う事とする。それからクスターはイエッカの指導不足、侍女の報告を見抜けなかった事、聖女に付いている護衛の怪我の報告を怠ったため更迭する。


後任にはザナサン・ルストンとする。聖女の護衛をオルヴォ・ロマーリオとする。クスターについては一兵卒となり最北の村で警備にあたる事とする。以上だ」


宰相以下全ての者が臣下の礼を執る。そうしてバルンド元公爵達は牢へと連れていかれ、その場は解散となった。


加害者達の刑は決めたが、俺の心は晴れないでいる。


早く聖女よ、目覚めておくれ。

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