第11話 黒い帳はこの世界になにを映し出すか

 最近なにかと不穏だ。テレビの有名人が自殺をはかるたびにホットラインの連絡先が伝えられる。


 未咲「みんな生きづらいのかな……わたしが変わってあげたいけど、わたしだって命はひとつだし……」


 考えても暗くなるだけだからこの手の話題はいつも考えてこなかったけど、きょうはちょっと考えてみることにした。


 未咲「誰かに相談しようとしてもできないのは、やっぱり残されたわたし達がそのときに気づいてあげられなかったからなのかな……でもどうやったら気づいてあげられるんだろ……わからないよ……」


 察する能力にかけてるわたしにはやっぱりどうしても答えが出せなかった。そこで玲香ちゃんに連絡してみることにした。


 未咲「あのね玲香ちゃん、ちょっと重たい話題になるけどいいかな?」


 わたしは死をみずから選ぶ人たちについてどう思うのか玲香ちゃんに訊いた。


 玲香「そうね……未咲は秘密にしたいことがあったとき、それを人に話したりしたい?」

 未咲「わたしは……よっぽど話したくないことはしないかな……」

 玲香「もしそれが重い話だったとき、人って話すのをためらってしまうものなの。わかる?」

 未咲「でもでもっ、死を選ぶなんてことはしてほしくないなって、わたしはそう思うんだけど……」

 玲香「それが考えられないくらいに追い詰められたとき、人は死を選ぶのよ」

 未咲「じゃあ、どうすれば……」

 玲香「ことばで理解してもらえなかったら、それはもうどうしようもないんじゃないかしら」

 未咲「そう、なのかな……」


 わたしは幸せなのかもしれない。そこまで追い詰められることもなく今日までやってきたし。


 未咲「せめてもっと生きやすい世界になればいいのに……はぁ、この世って冷たい……」


 真実を知ってしまったような気がして寒気がした。何かあったかいもの買って飲むことにしよう。


 未咲「あっ、進くん」

 進「未咲ちゃん……いや違う。ごめん、そろそろ未咲、って呼んでもいいかな」


 そういえばわたしたちはまだ「ちゃん」や「くん」をつけて呼んでいた。進くんが違和感を込めてそう言ったのは結婚したあとにそれはない気がしたのかも。


 未咲「いいよ。だけどわたしはまだ『進くん』って言いたいな……いいよね?」

 進「うん、未咲の好きにしていいよ」

 未咲「ありがとう、進くん……こんなわがままなわたしだけど、これからもよろしくね」

 進「こちらこそ。じゃ、帰ろう」

 未咲「うんっ」


 誰かの死は、わたしたちの生につながっていく。

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