第8話 春はわたしたちの中に
春泉ちゃんが亡くなってからかなりの時間が経った。当時、進くんがわたしにとくに何か言うわけじゃなかったけど寄り添ってくれてうれしかった。
アナウンサー「それでは、本日のニュースです」
思えば、それはこのときから始まっていたように思う。四季化計画ともいうべきこの一大国家プロジェクトは、当時の人たちにとって衝撃的だったはず。
議員「この計画にどれだけの金額をつぎこむのか。総理、まず他にやるべきことがあるんじゃないですか?」
野党の人がこうつっかかっていたのも、いま思い出した。
首相「これはなんとしても達成しなければならないものです。国民の皆様が外気温にとらわれず安心して暮らせる社会が実現するまで、全力を尽くしてまいります」
それからしばらく経った現在、どことなく快適に過ごせている気がしていた。
そしてある晩。わたしたちはいつもどおり自宅にいて、進くんがわたしに声をかけてきた。
進「未咲ちゃん、待たせてごめん。僕と結婚してくれない?」
未咲「えっ、それってもしかして指輪、だよね……?」
いつの間にか用意されていた指輪を前に、わたしは感極まった。
未咲「うれしい……うん、もちろんいいよ」
進「迷惑かけちゃうこともあるかもしれないけど、これからもよろしくね」
未咲「うんっ、よろしくね、進くん!」
わたしたちにも春が来ていた。ひとつ屋根の下での共同生活がはじまる。
♦
玲香「やるじゃないあの子。これで未咲も生涯独身から免れたわね」
未咲「ひとりでもいいんだけど、わたしには大切な存在だなって」
玲香「わたしにも誰かいればいいけど、あいにく現れないわ……そろそろこちらから動かないといけないかもしれないわね」
未咲「玲香ちゃんにもきっと素敵な人が見つかるよ」
玲香「そうだといいわ……応援してて」
未咲「フレー、だねっ」
一足早くゴールした未咲を素直に祝福する。春泉にも報告したいけど、複雑な事情ゆえどう報告したものか……。
未咲「たしかわたしが進くんと親しくなってから春泉ちゃんって亡くなったよね……ということはやっぱり……」
玲香「考えたくないけど、その線はかなりありそうね……」
死因こそ
未咲「憶測でしかなかったもんね……取り調べにもちゃんと応じたけど……」
玲香「もちろんわたしたちは無実だけど、まったく無関係ってわけでもないわ」
未咲「いま思えばそうかもね……わたしが進くんと仲良くしてるのを見て、それを苦にして自殺しちゃったとか……」
玲香「それがバレないように自殺する春泉もなかなかのものね……少しくらい相談してくれてよかったのに……」
未咲「結ばれることだけが人生じゃないもんね……伝えたかったなぁ……」
この感じで納得してくれるかはわからないから玲香ちゃん頼みにはなりそう。だけどほんとうに惜しいことをしてしまった。
未咲「生きてればいいことあったはずなんだよね……なくても生きていこうって」
玲香「わたしたちが頼りないせいだったのかしら……ほんと
もうすぐ春が来る。そのことだって伝えたかったのに。
未咲「よくよく考えたらこの世界が冬だったことがいけなかった気がするよね」
玲香「反乱起こさないでちょうだいね、あんたは幸せになることが仕事よ」
未咲「もちろんそのつもりだよ! もしかして玲香ちゃん心配しちゃった?」
玲香「多少するわよ、そりゃ。あんたもわたしがいないとダメなんじゃない?」
未咲「わたしには進くんがいるから心配ないもん! べーだっ!」
玲香「そう言ってる子がいちばん心配なのよ。すぐ追いつくから待ってなさい」
未咲「早く来てね? 約束だから……」
おたがいに幸せになることを夢見ながら、この日は分かれることになった。
♦
それからわたしたちは海に行ったりスキーとかいろいろして楽しんだ。海は眺めるだけだったけど、そのうち泳ぐのにいい気温になったりするのかな……。
未咲「楽しいね、進くん」
進「そうだね」
笑いながらその日を振り返る。こんな日がずっと続くといいな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます