第7話 紅い花に想いを寄せて
枇杷という植物がある。寒いこの世界には馴染みがある。おおかた白い花が咲くことで知られている。
玲香「今年も綺麗に咲いたわね……誰かに似て」
いまはいないあの子を思いながら。となりには枇杷の紅い花がある。花言葉は「きっとうまくいく」。
玲香「贈るのには適さないけど、見るぶんにはいいわね」
どういうわけだか実をしっかりつけ、次世代につながっていく。
玲香「詳しいことは知らないけど、命ってほんと不思議ね」
未咲「どうしたの、玲香ちゃん?」
玲香「未咲、いつからそこにいたのよ」
未咲「えへへっ、なんか姿見えちゃって声かけてみたんだ~」
玲香「昔は白い花しか咲かなかったらしいわね、この花」
未咲「そうなの?」
玲香「ええ、この前のテレビだったかしら、言ってたわ」
未咲「そうなんだ~」
玲香「紅一点くらいの確率らしいけど……ほら、ここにあるでしょ」
未咲「あっ、ほんとだ。可愛い……」
これを読んでる人の中にはこの文章に違和感を催すかもしれないけど、この世界ではこうなってる。そういうものだと思って読んでほしい。
玲香「春泉のことを考えてたのよ。どうしてるかしらって」
未咲「お天道様から見守ってくれてるんじゃないかな?」
玲香「そうね……はぁ、なんで死んじゃっちゃったのかしらね……」
やりきれない気持ちはどこかにありつつ、春泉の人生だから何も言えない。
未咲「レクイエム、だっけ……玲香ちゃんそういうの得意かなって」
玲香「もう作ったじゃない……また作れっていうの? 欲しがるわね……」
未咲「お願い! これで最後にするから……」
玲香「しょうがないわね……ほんとに最後よ?」
未咲のほしがりに渋々つきあうことにした。いまわたしは自宅にいる。
玲香「はい、これでどうかしら」
未咲「いい演奏だったよ~、玲香ちゃん!」
玲香「ほんとにこれで最後ね? あれで終わりだと思ってたから……」
未咲「はーい。もう十分満足したし、自由にしていいよ」
あれもまあまあ長かったのに、今回も結構長くなってしまう。われながら魂こもってる感じがする。それだけにできてよかった気もする。ただ、もう最後にしたい。
玲香「あんまり作るといつまでもあの子休まらないでしょ、だから……」
未咲「うんうん、これで終わりだねっ」
図々しくお願いした未咲が、なぜかこちらをなだめてる気がする……。
玲香「分かればいいのよ。それじゃ、わたしは別の曲に専念させてもらうわ」
未咲「ありがとー玲香ちゃん、今回もいいものが聴けたよ~」
にこにこしてもらえたからよかった。曲作りの
玲香「そういえば、あの子とはうまくやってるの?」
未咲「進くんのこと? うん、ずっと仲良しだよ」
玲香「何か変化はあったかしら?」
未咲「うんとね、もうすぐありそうな気がするんだよね」
玲香「安定してきたってことね、よかったわ」
うまくいってるみたいだった。このまま続けばこの子はきっと幸せになる。
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