第5話 CDショップでのできごと

 未咲「わっ、このアルバム欲しいなぁ……」


 それはわたしがCDショップにいたときの話だった。

 ザクロが描かれたジャケットに一目奪われて、こうつぶやいていた。


 真琴「はっ、そこにいるのは未咲どの?!」

 未咲「あっ、真琴ちゃん……あのね、いまちょうど欲しいCD見つけて……」


 持ってたそれを真琴ちゃんに見せた。すると何かを思い出したように頭を抱えていた。


 真琴「うっ……!」

 未咲「どうしたの、真琴ちゃん?!」

 真琴「いや、なんでもない……最近のことを思い出してだな……」

 未咲「何?」

 真琴「それってザクロであろう……いま探し求めているんだが見当たらなくて」

 未咲「そんなに手に入らないの?」

 真琴「あぁ、まったく最近の人はよく情報を得ているよ……ふつうに飲めていたころが恋しい……」


 健康情報は大手メディアで紹介されると一気に広まる。それを言ってるみたい。


 真琴「そうこうしてる時間が惜しい……また探さないと……」


 ゾンビのように追い求めるその姿をやさしく見送った。


 未咲「ちょっとトイレ行きたくなってきた……これ買ってから行こうっと」


 会計が終わり、トイレを済ませたあとのこと。


 未咲「ん……?」


 下を見ると、透明な水たまりが広がっている。その上に一人の少女が立っていた。


 女の子「どうしよう……これから告白しようと思ったのに……」


 彼女の言うとおり、どうやら告白前にしちゃったらしい。


 女の子「うっ、うっ……」


 静かに泣いていたので、わたしはとっさに行動に出た。


 未咲「はいっ」

 女の子「なんですか、あなたは……?」

 未咲「これあげる。好みに合うかわからないけど……」


 さっき買ったCDを女の子にプレゼントすることにした。


 女の子「うれしいっ、ありがとうございます!」


 素直な子でよかった。気に入ってくれるとこちらもうれしい。


 ♦


 未咲「告白かぁ……そろそろわたしたちも結婚したいなぁ……」


 いつになるかわからないけど、心構えはしておこうと思った。


 未咲「進くんからしてくれなくても、わたしからいってもいいよね……」


 思えば一緒に住む前もそんな感じだった気がする。だからそう思った。


 未咲「そうだ、きょう玲香ちゃんに会う予定だったっけ……早く行こう」


 きょうはピアノ練習の復習をする予定もあって、急ぎ目に帰ることに。


 ♦


 玲香「思うんだけどこの曲、途中の歌い方が慣れないのよね」


 この前練習した『Going our own way!!』について、玲香ちゃんが言った。


 玲香「曲のイメージから想像してもっと跳ねるように歌うのかと思ったら全然そんなことなかったわね……学ばせていただいたわ」

 未咲「玲香ちゃんにも想定外のことってあるんだね……」

 玲香「当然よ、作曲者の数だけいろいろあるんだから」


 曲構成からジャンルまで、その組み合わせは無限にあると説く玲香ちゃん。


 玲香「BPMの速い曲はわたしはよくわからないけど、人気あるものはあるわね」

 未咲「そうだね。わたしもわからないものはあるんだけど……」


 あんまり早すぎると苦手っていうか。ほどよいところってあったりする。


 玲香「プロモそこを意識して作ってるところってきっとあるから、聴き比べると楽しいわよね」

 未咲「そうだねー。わたしたちと違う着眼点も絶対あるだろうし」


 それぞれのセンスが光ってこそ表現の世界って気がするから。またいろいろ聴きたいな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る