第16話 産休前

 由衣が二人に尽くすようになってから半年が経過した。


 昼過ぎ、二人は仕事で家に居ない。そんな中、由衣は笑顔で家事をこなしていた。


「今日は達也の好きな唐揚げに……でもゆかりさんの身体を考えたら揚げ物は控えるべきかな」


 最近益々お腹が大きくなるゆかりの事を由衣は思い浮かべた。


「脂っこいものじゃなければ大丈夫だよね」


 由衣は何もせずにいるというのが耐えられなかった頃。達也が仕事から帰って来るといつもスマホを借りて料理を調べ、メモをしまくっていた。そしてそのメモを昼間、掃除が終わってから覚えるという日々のおかげで数多くのレシピを頭に入れていたので脂っこさを抑える事もお手の物だった。


 由衣は掃除や洗濯ものなどの家事を終わらせると料理の下処理を始めた。


 ジップロックに切り分けたむね肉と調味料を適量入れ外から揉み混ぜる。


「ゆかりさん、来週から有給使ったりして産休に入るんだっけ」


 由衣はゆかりがそろそろ産休に入る事も頭に入れながら調理を進める。


 出来立てを食べて貰いたいので由衣は先にお風呂を沸かす。


 由衣は大きい仕事は終わったので洗濯物を畳み始める。もうすぐ畳み終わる、そんな時に家の扉が開いた。


「「ただいま」」


 二人の足音がゆっくりリビングに近づいてくる。


 やがて二人はリビングに現れた。

 達也はゆかりを支えるように背中に手を回し、ゆかりの腰に手を添えている。


「お、お帰りなさい。お風呂は沸いてるし、ご飯もあと唐揚げを揚げるだけだから。……ゆかりさん、唐揚げでも大丈夫?」


「由衣さん、いつもありがとね。妊婦でも普通に揚げ物は食べると思うから大丈夫だと思うよ。わたしも今揚げ物食べたいし」


「いつもありがとう。由衣」


「いえいえ。そんな」


 達也にもお礼を言われて嬉しくなってしまう由衣。


「じゃあ由衣、先にお風呂頂いても良い?」


「も、勿論良いよ。じゃあご飯作り始めたおくね」


 達也がご飯より先にお風呂に行くと言ったので由衣は了承し、ご飯を作る為にキッチンへ向かった。


「ゆかり、ほら行くよ」


 由衣は達也と一緒に脱衣所へ向かうゆかりをキッチンから羨ましそうに眺める。


「遂に腰まで手を回して帰ってくるようになっちゃったか……それに当たり前のように一緒にお風呂に入るようになった。でも仕方ないよね妊婦さんだし夫が支えてあげるのは普通のことだもん。妊婦になったことないから分からないけど」


 由衣はジップロックから取り出したお肉をレシピ通りに揚げ始める。


「それとも達也が出来る男だからあれだけ支えてあげてるのかな。やっぱり達也は最高の夫だったんだなぁ……」


 由衣は今ではゆかりに羨ましさを感じても、恨みなどは無かった。自分で幸せを手放したのにそれを手に入れている人が居るからってその人を潰そうとするほど由衣は腐っては居なかった。


 達也の為にもゆかりを自分も支えたい、そう感じるようになっていた。


「ゆかりは洗わなくて良いから」

「洗いっこだよ」


「…………」


 それでもやっぱり羨ましさで胸が張り裂けそうになるのはなくならなかった。




 ◇◇◇


 パジャマを着た二人がお風呂から上がって来たので夕食を食べ始めた。


「ゆかりさん、もうすぐ産休に入りますよね。何か私に出来る事があったら協力しますから。私役に立てられるよう頑張ります」


 由衣はゆかりに協力すると言いながら自身で作った食事を食べ続ける。


「由衣は十分役に立ってくれてるよ」


 達也にそう言われても役に立てている自信はなかった。




――――――――――

文字数が少なくなって申し訳ありません。

今週中には本編完結まで行きたいと思っています。

拙い文章が続きますが本編だけでも最後まで見てもらえたら嬉しいです。

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