第14話 達也とゆかりは由衣に選ばせる

 家に帰ってからは自分が何かを行っても良い存在なのか由衣は自問しながら家の掃除をしていた。


「私みたいな人間が掃除なんてしたら逆に汚くなるんじゃ……」


 それでも部屋が汚れていては達也に失望されると思い、掃除を続けた。



 暫くして達也たちが帰って来る。


「お帰りなさい。お風呂は沸かしてありますのでどちらが先に行って頂いて構いません」


 ゆかりが先に入ると言ってお風呂に向かった。

 リビングには由衣と達也二人だけ。


「あの、少額ですがこちらのお金を……」


「なに、このお金」


「あの、私と不倫していた男から頂いたものです」


 由衣は正直に話す事に決めていた。嘘をつくのは誠実ではない、そう思ったから。


「え、今日会いにでも行って来たの?」


「はい。行って来ました。それと一人に、犯されました…………」


 由衣は達也に隠し事をしたく無かったので全てを正直に話した。

 しかし由衣のその言葉を聞いた達也は壁に思いっきり頭を打ちつけた。


「な、何して……」


 頭を打ちつける達也を見て由衣は駆け寄ろうとする。


「近づくな!!! その手も汚れてるんだろ」


「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい……」


 達也は頭を壁につけたまま思いっきり何度も壁を殴る。


「俺がバカだった。何が清めの二週間だ。不倫する奴はまた不倫する。あーあ、少しは改心してくれると思ってたのにな……なんで俺が泣かなきゃならないんだよ」


 達也は無意識に頬を流れる涙に怒りの矛先を向けた。


「もう良い、ゆかりが来てから三人で話をしよう。先に俺はお風呂に行く」


 達也はまだゆかりが入っているお風呂に歩み始める。


「でも、ゆかりがまだお風呂に……」


「だから何だよ。もうすぐ夫婦になる男と女が同じ風呂に入る事なんて珍しくないだろ。それは由衣も良く知ってる筈だけど」


「え、でもそれは結婚してからじゃ……」


 由衣は思い出す。達也と結婚してから一緒にお風呂に入った事を。

 お互いに洗い合い、バックハグをしたり正面を向かい合って浴槽に浸かったりした記憶を思い出す。


 由衣が気がつくとリビングにはもう達也の姿はなく風呂の扉が強く閉まる音と驚くゆかりの声が響いた。




 ◇◇◇


 由衣は自分が如何に愚か者であるかを考え、反省し、達也たちが風呂から上がって来るのを待っていると先に空色で揃えられたパジャマを着たゆかりがリビングに入って来る。


「えへへ、由衣さん。ありがと」


 のぼせたのか、それとも酔っ払っているのかと思うほど赤面しているゆかりに突然お礼をされて由衣は戸惑う。


「わたしは由衣さんにこの家に居てもらっても構わないからね。頑張って!!」


 ゆかりの発言に全く理解の出来ない由衣。

 希望が少し見えた、そんな風に考えていると達也がリビングに戻って来た。


「ゆかりには全て話したし、話し合いを始めよう」


 達也が椅子に座ったので由衣もゆかりもそれぞれ席に着いた。


「今日は隣に座っても良い?」


「良いよ。おいで」


 達也は自分の隣に座って良いよと隣の席をポンポンと叩き、ゆかりを座らせると頭を二度三度撫でた。


「久々に自分の意思で頭を撫でたな……」


 由衣は黙って二人のそれを眺めた。


「俺とゆかりで由衣の処遇を考えたんだけど。一、生涯を懸けてこの家の為に尽くす。二、二度と俺たちの前に現れない。ゆかりはどちらでも良いらしいから好きな方を選んでくれ。強制はしない」


「私は一生を懸けてこの家の為に尽くします」




 ◇◇◇


「あのガードの硬い先輩が! あんな風にわたしを求めてくれるなんて……急にお風呂の扉が開いてビックリしたけどすっごい嬉しかったなぁ」


 達也より先にベッドに入りさっきのことを振り返って喜ぶゆかり。


「由衣さん、達也が居るのにあんな事をするなんてって思ってたけど邪魔しないんだったら害はないし、寧ろ手放してくれたんだから感謝すべき相手だよね」

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