第3話 不倫をした理由
達也に言われた私はお風呂に向かった。お風呂にどうぞと言われた時、一緒に由衣と呼ばれたのが少し嬉しかった。
さっきまでは不倫した者としては当然だけどお前と呼ばれていたから。
洗面所で今日着ていた衣服を脱ぎ、お風呂から上がった時にすぐに身に付けられるように下着とパジャマを用意する。
「えっ、えぇぇ…………。どうしてこの下着が棚の中に。あれ、隅に置いていた捨てるはずの下着の山もない。どうして……まさか、全部この中に、入れた?」
私の普段履いている下着の上には入っていて欲しくないモノが全て入っていた。
もしかして、達也に入れられた? でもどうして……私を誘ってる? いや、あり得ないそれだけは絶対に無い。
私は不倫の罪から一生逃れてはならないって事? 達也は他の男と使った下着を私が持ち続ける事が嫌だとは思わないの……?
「でも、あなたがそれを望むのなら私は一生私の罪を背負ったまま生きます」
私は虚空に呟いた後、手に持っていた下着を他の下着の上に置き、その下着を見る度に達也が私に失望する姿を想像して苦しむことにした。これが最初の戒め……。
「ごめんなさい。ごめん、なさい」
全裸の状態で私は下着に向かって達也へ謝罪を述べている。おかしい構図なのは理解しているが笑っていられない。
私は達也がケーキを食べようと言ってくれていた事を思い出して気持ちを切り替えて、すぐにお風呂に入る。
「達也のあ~ん。ふふ、美味しいわ。でも、あなたのソレも食べたい…………ッは!! 何を考えてるのバカ!! もうあ~んでさえしてくれないんだから」
私は無意識にシャワーを下半身のある所に当てていた。
私、ケーキをあ~んしてもらう想像で慰めちゃうなんて相当溜まってたのかしら。
私がこんな風になったのも全部達也のせいなんだけどね……。
でも責める事は決してできない。私は自分の欲に溺れて不倫なんてしてしまった。
「私のバカ。達也への愛より肉欲を選んだこの大バカ者。あんな素敵な人がいながら私はなぜ一時の欲に負けたの? このくそビッチ」
達也とケーキを食べる為に自分自身を罵り二度と不貞は行わない。
達也と関係のない人との行為は決してしない。スマホも手放す。達也以外の者との連絡は一切取らない。間接的にも直接的にも絶対に。
そう心に誓い湯船から上がってお風呂から出る。
◇◇◇
「でも、やっぱり不倫した理由は気になってしまう。俺のどこが悪かったのか? 自分で言うのもなんだけど俺は結構いい夫だったと思うけどな。でも……」
仕事は忙しいがその分給料は良く、由衣を専業主婦にさせてやれるほど。
また、休みもしっかり取っており日中二人で出かける事も少なくはなかった。
また、顔も悪くはなく中の上か上の下という程である。
「強いて言うとするなら最近、夜シてなかった事か?」
達也が一人ブツブツ言っている所に丁度由衣が戻って来た。
「お風呂、今上がりました」
「よし、ケーキを食べようか」
達也はお風呂から上がって未だ立ち尽くしている由衣を他所に冷蔵庫に入れておいたケーキを持ってテーブルの上に置いた。
「あっ、これはまずいな」
バキッ
達也はケーキの上に乗っていた『結婚記念日おめでとう』と書かれたチョコプレートを文の途中で割り、『記念日おめでとう』という文字だけを残した。
「ほらまぁ、今日は記念日だろ? 不倫を自らお前が告白した日」
「あ、あぁ……」
由衣は悟った。もうこの人は完全に自分の事を嫌っているのだと。
でも、同時に一つ疑問が由衣の中で浮かび上がった。嫌っているのにどうして自分を家に置くのか、と。慰謝料を請求して家から追い出せばいいのに。
「八等分にして今日食べない分は残しておこう。じゃあ改めて、記念日おめでとう!」
「…………おぇっ、ごめっ」
由衣は口元を抑えながら猫背の状態でトイレに向かった。
「ちょっとやりすぎた、かな。でも、罪悪感を感じながらも接そうとする由衣が苦しそうな姿を見ると何故か胸のイライラが少し収まるんだよな」
「達也、私はこれを耐えれば側に居てもいいんですね……。おぇ…おぇ……。達也の心が晴れるまで精神的に傷つけて下さい」
顔色の優れないまま由衣がトイレから戻って来た所で記念日のお祝いが再開された。
「不倫関連の記念日なんだし、俺から一つ質問があるんだけど良いか?」
「はい。でしたら私も一つ質問を……」
「仕方ない。俺の質問に答えてくれたら答えてやる」
由衣は不倫関連でどんなことを聞かれるのかドキドキして更に顔色が悪くなる。
「ありがとう、ございます」
「単刀直入に聞く、どうして不倫なんてしたんだ!!」
「あぁ、えぇっと。それは、あなたの、せいです」
達也はさっき一人で考えていた時にその可能性を考えていたので驚くことは無かった。ただ、どうしてもそれ以上の細かくなる理由を知りたかった。
「詳しく聞きたい、教えてくれ」
「はい。私はあなたと結婚するまで経験人数はゼロ人でした。それはあなたも知っていると思います」
「それは、まぁ知ってる。お互い付き合った人もゼロだったし」
「あなたと初めてシた時は初々しさがありました。しかし、半年ほど経った頃からあなたはドンドン上手くなって、私は次第にその行為が好きになって行きました。気づいた時にはもう寝る前はそれなしでは耐えられなくなって。でもあなたの仕事が忙しくなって、全然夜構ってくれなくなって……」
「ちょっとツッコミたい所があるんだけど、つまり俺がお前を快楽に溺れるようにしてしまったと……。それと仕事が忙しくなった当初は週に二回金曜と土曜の夜にしてただろ」
「あなたが仕事も忙しいのに構ってくれていることは私は凄く嬉しかった。だから強情に要求せずに一人で処理していました。週に二回でも上手くなっていくあなたのせいで私は一人では満足できなくなって、そして、悪い事に丁度その頃からあなたは週一回も出来なくなるくらい仕事が忙しくなってしまって……」
「それで、他人で満足しよう不倫に走ったわけか」
「でも、あなた以上の人なんて居なくて一人も満足出来なかった。それにその時は一度も口は使ってない。だから今でも口はあなただけのモノ。どうしてあなたはあんなに上手になったの?」
「それはさっきの質問したいと言っていた質問か?」
「いえ、違います」
「まあいいよ。答えてあげる。それは愛だ。仕事で疲弊している俺を献身的に寝る間も惜しんで世話をしてくれている由衣に離れられたくなかった。愛し続けていたからな。離れて欲しくなかったから一度の過ちは全て許すと言った」
「…………愛、あい……」
口を開いたまま由衣は一向に止まらない涙を流し続けた。その涙で自身の食べるケーキが乗っている皿の端に置かれていたチョコプレートの上で大きな雫が出来ていた。
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