第2話 情緒不安定な記念日
「折角作ってくれたんだし、今日はもうご飯を食べよう。作ってくれてありがとう」
「ふぇ?」
いきなり達也の表情が恐怖を纏う笑顔から純粋な笑顔になった事に動揺する由衣。
「「いただきます」」
達也は目の前に置かれているサラダではなく机の真ん中に置かれているハンバーグに手を付ける。苦い顔をしながら手ごねであろうハンバーグを食する。
「あ、あの。一応今日のハンバーグはスプーンで形を作ったので素手で触れてはいません。だから、そんな顔、しないで……」
由衣は達也がどんな反応をするのかが気になって顔色を窺っていたのだろう。達也が苦い顔をした瞬間、胸の奥がキュッとしたような感覚に陥り涙が零れた。
「何か、話しませんか? そうだ会社はどう……ですか? 今日はいつもより早かったですし、波も収まったんですか?」
一人涙を拭い、話しかけるなとは言われなかったので由衣は何か話題を創り出そうとする。
「え、いや忙しいのは変らないけど、今日は結婚記念日だから早めに帰って来たんだ」
「どうして……」
離婚を言い渡してきた達也が何故記念日を大切にするのか由衣にはさっぱり分からなかった。
「俺はお前が自分から不倫の事を言い出すまでは普通の夫婦として生活して行こうと思ってたからな。結果的に俺の不注意からの告白だったがやっぱり自分の口から言ってくれて嬉しいよ。お前を一度選んだ俺は正しかったんだなって」
ハンバーグを口に入れるとすぐサラダや飲み物で流しながら達也は由衣の言いたいことを予測しながら答える。
「私……」
自分を選んだ事が正しかったと言われた、さっきまで泣いていた由衣は心が不安定になっていた。
不倫をした事を正直に話したら当たり前だが散々言われ、その後正直に言ったことに対して褒められる。
「御馳走様でした」
達也は食事中の由衣にそう伝えて食器を洗うために立ち上がりキッチンへ向かった。
「これも、お揃いで買ったんだよな……こっちの皿も家族が増えた時用に三枚セットで……」
二人でこの家に住むことになってから色々買いに行った時のことを思い返す。
「俺、不倫を耐えようとし過ぎて倫理観バグったのか? どうしてこんなに胸がムカムカするんだよ」
やがて皿や茶碗を洗い終え再び顔を上げる。
「あの、ごめんなさい。食器を洗わせてしまって」
キッチンの側の開いた扉の所で由衣が立って居た。
「良いよこのくらい自分で。……この敬語も俺があんな命令したからだよな」
「何かおっしゃいました?」
「何にも言ってないから気にするな。それよりお風呂は?」
達也は席に戻っても気まずい雰囲気を作り出すだけだと考えお風呂に行くことを考えた。
「あ、はい。沸かしてあります。勿論私は入っておりませんのでどうぞ先に入って下さい」
「あぁ、ありがとう。俺お風呂入って来るわ。ケーキはまた後に」
洗面所に入り服を脱ぐ。
「ここも二人で一緒に入れるように広くしたんだっけ。あれ、これって……」
そこには様々な女性ものの下着が仕分けられて置いてあった。袋に入れられていなかった事もあり達也はそれを幾つか手に取って広げた。
「いいよな、由衣も見たんだし」
広げた下着は普通のモノもあれば凄い派手なモノ、隠すべき所が隠れていないような淫らなモノもいくつかあった。
「そうか、そういう事か。この下着を不倫中に使っていて、バレたから捨てる、と」
達也はアハハハと名案が浮かんだかの様に笑いながら広げた下着を奇麗に畳み、他の仕分けて置かれていたモノもすべて畳みなおす。
「こんな下着で他の男と……まぁいい、これで少しは胸のムカムカも収まる。ごめんな、由衣」
達也は捨てる為に置かれていた下着を全て、それぞれの下着や靴下が入れられている棚の場所に入れた。それも普通の下着の上にちょこんと置いて確実に取ってしまうように。
達也は頭を振って何も考えない様にしてお風呂に入った。
「はぁ、これからどうしようかな。由衣とはもう離婚をすることになったし。今は正直再婚をするかも考えられないかな」
達也はお風呂用スマホケースに入れたスマホを取り出して後輩に連絡を取る。由衣が三度目の不倫をした時から相談していた後輩だ。
『さっき離婚するって話をしたよ』
『やっと、話す決心が付いたんですね。わたしは先輩が成長してくれて嬉しいです』
『だから、俺からは言わないって言ってただろ。嫁が自首したんだよ』
『元嫁ですね。じゃあ先輩は今フリーと』
『今は誰かと付き合う気はない。それに嫁も家に置いておくことにしたし』
『元、ですね。ってはぁぁぁぁぁ? そんなのずるいですよ! 不倫した癖に』
『悪い、今お風呂から上がるからまた後で』
かなり長く湯船に浸かっていたので会話を途中で切り、お風呂から上がることにする。お風呂に入る時に由衣がどんな反応をするのか楽しみなのか不敵な笑みを浮かべながら洗面所から出る。
「由衣、お風呂先に貰って悪かったな。どうぞ。由衣が上がったらケーキを食べよう」
「ゆ、ゆい? 由衣って呼んでくれた?」
「え、あぁ、うん。……さっきの独り言の時のまま会話してしまってたか」
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