第11話 確定?
由衣が自身の過ちを反省し、解決しようと決意した日から二週間が経った。
「もうすぐ辛い思いをするだけの日々は終わる……はず」
結婚記念日から数えると三週間はとっくに経過しているのだが由衣はもう一度不倫相手と再会した時に無理やりされないかが心配で動き出す事が出来ていなかった。
しかし、自分が除け者になって行くのを只々黙って見ているのが辛くて動き出すことを決めた。
「明日から開始する!!」
◇◇◇
「大丈夫、絶対に大丈夫。だって先輩だよ? 絶対成功させてるはず」
ゆかりはトイレの中で胸をドキドキさせていた。
手には達也より先に会社を出てドラッグストアで買った検査薬が……。
「えっと、この後に平らな所で三分待つ」
ゆかりは初めての経験なので説明を読みながら検査を進める。
「もし、子どもが出来てなかったらどうしよう。また先輩に襲わせる? いやいや今は信じるしかないよね」
三分間待っていようと思っていたゆかりだったが二分が経過したところでついチラッと見てしまった。
「え、やった、やったぁ。先輩との赤ちゃんがここにいるんだ。えっとまずはどうしたらいいんだっけ、一旦写真撮って。どうしよう、親に連絡……はもうちょっと先延ばしにした方が良い気がするし、そうだ松本先輩に連絡しよう。同性としてずっと相談に乗って貰ってたし」
ゆかりは未だトイレの中にいるという事も忘れて恋愛の相談に乗って貰っていた四年先輩の松本にメッセージを送った。
『お疲れ様です! 松本先輩。わたしがずっと相談していた男性と先日付き合う事が出来ました。松本先輩のガンガン行ったら男は落ちるってアドバイスのおかげです。彼はまだ照れ隠しなのかツンツンしてますけど赤ちゃん作りも既に視野に入れていて』
ゆかりがメッセージを送って数分経ってから既読が付き返事が返って来る。
『お、それはおめでとう! いやぁ私も他人の恋愛ばっかりアドバイスして自分の恋愛はダメダメなんだよねぇ。やっぱりガツガツ行くのも効果ありか』
ゆかりは達也と結ばれたことを初めて誰かに祝福されたので嬉しくなった。
『いやいや、松本先輩は綺麗ですから仕事よりも恋愛に手を出せば引く手数多だと思いますよ』
松本が自分より先に達也を狙っていたなら危なかったなと思いながらゆかりはメッセージを返す。
『そうだ、ずっと一緒に居るゆかりちゃんなら知ってると思うんだけど達也君、最近離婚したらしいね。狙ってみようかと思ってるんだけど達也君の周りの女性関連の話とか詳しく知らない?』
さっきの祝福は達也と結ばれた事に対してだと思っていたゆかりはすっかり自分の想い人が誰であるか明確に話していなかった事に気づいた。
松本が達也を口説く前に言っておかなければならないと思いゆかりはすぐに連絡を返す。
『先輩はダメですよ。もう離婚後すぐに他の人と付き合いだしましたから。それに多分近々赤ちゃんも出来ると思いますよ。割とそういう関係なので』
まさか自分で流した達也が離婚したという噂が裏目に出るとは思っていなかったゆかりだったが、松本に達也はフリーじゃないと言っておくことで達也を狙う人がいなくなるだろうと安堵する。
『残念、仕事も出来て声も顔も性格も良いけど無理をする彼を私が癒してあげたかったなぁ』
恋愛相談に乗って貰っていた相手なのにゆかりはスマホに向かってドヤ顔をした。
トイレから出てリビングに戻ると達也と由衣が共にダイニングテーブルに腰掛けていた。
「なぁ、ゆかり。今になって調べたんだけど、妊娠が発覚するのって早くても二週間後らしいな。俺の記憶が正しければお前が妊娠したって言った時、一週間も経ってなかった気がするんだが」
「これが証拠」
ゆかりは二人に近づき、得意げな顔をしてさっき撮った写真を二人に見せる。
「あれ、コレうちのトイレじゃ……」
「え……あ、えっと、それはなんというか、そうです。妊娠が確定する前に妊娠したって言いました。でも、この家のトイレで撮った写真からこの子が托卵である可能性はかなり低くなったでしょ?」
嬉しすぎてそんなどこのトイレなのかを考えていなかったゆかりは激しく動揺する。
「托卵……そうか、その可能性もあるのか。危ない危ない。知らない奴の子どもを育てる所だった」
「え、そんなことない。先輩の、ダーリンの子で間違いないよ」
「なぁゆかり、俺は人を簡単に信じられなくなったのは分かってるよな」
達也は由衣を見ることは無いが、ゆかりが由衣を睨む。
由衣は自分に向いている目線を感じると俯いてしまった。
「そのお腹にいる子は俺の子じゃない可能性もあるわけだ。俺の子だって確証が出来るようになるまでは一緒に暮らすのは辞めよう。明日でいいから必要な物だけ持って出て行ってくれ。それ以外の物はまた今度渡すから。今はちょっと落ち着きたい」
◇◇◇
「神様、私にも運が回って来たのでしょうか。変に不倫相手に近づかないで達也に尽くせば良いのでしょうか。取り敢えずあのお腹の中にいる子が達也の子であると判明するまでは達也に尽くす事にします」
由衣は自室で独り、窓の外の月に向かってブツブツと喋っていた。
そして由衣の心にわずかな変化があった。心の底に埋もれていた嬉しいという感情をほんの少し取り戻した。
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