第10話 由衣の過去と決意

「あーあ、思い出しちゃったなぁ……」


 由衣は自室のベッドで横になり、眠りに着く前に達也との甘々なやり取りを思い出す。




 ◆◆◆


「今日は夜更かししたいなぁ」


「明日からまた大学だから今日は早めに寝るべきだって由衣。昨日夜更かしした結果今日だって昼過ぎまで寝てただろ」


「良いじゃん! 達也と夜通しゲームしたいよぉ。今日だってお日様に照らされながら達也と添い寝するの気持ちよかったし」


 付き合って一年が経とうとしている頃、由衣は独り暮らしをしている達也の部屋に入り浸る事が多くなり、週末の間はゲームや映画を一緒に楽しむのが当たり前になっていた。


「明日は陽が照らす時間帯に寝てるのはマズいんだって」


「わかった。でも、達也がハグしながら寝てくれないと私は無理やり達也を起こしてゲームするから」


「はいはい。俺も由衣に抱きついて寝るの好きだから構わないよ」


 二人は同じ布団に入りお互いが向かい合ってハグをしながら眠りにつく。あまりキツく抱きしめると苦しくなるので優しく抱きしめた。


「大好きだよ。由衣」


「私も! 結婚しようね」


「プロポーズは俺からさせてくれよ。格好良く決めたいからさ」


「達也は……そのままでも世界一カッコいいよ!!」


「おやすみ、未来のお嫁さん」


「おやすみ、未来のお婿さん」




「達也! あーんして」


「はい、あーん」


 由衣の甘えたおねだりに嬉しそうに応える達也。


「由衣は本当に食べさせてもらうのが好きだな。赤ちゃんみたい」


「だって私にあーんする時、達也も嬉しそうな顔するんだもん。それと、達也の赤ちゃんになら私なりたい!! ばぶぅ」


 達也の冗談を真に受けたかの様に赤ちゃんになる由衣。達也の膝の上に乗り始める。


「ちょ、なるなら普通母親だろ? 膝から降りて俺のお嫁さんになってよ」


 膝の上で丸くなろうとしていた由衣は突然身体を起こして立ち上がり達也を期待のこもった眼差しで見つめる。


「え?! そ、それってプ、プロポーズ?!」


「ごめん、由衣。プロポーズではない。ただ食事が進まないから降りて欲しいなぁって思って」


 なぁんだとガックリ肩を落とす由衣だったが良く考えればあれがプロポーズだった場合、赤ちゃんの状態でプロポーズをされた事になる所だったなと思い返してホッとした。




 ◇◇◇


「達也……戻りたいよぉ。あの頃に」


 その日、由衣は一睡もする事が出来なかった。




「それじゃあ、行って来ます」


「ダーリン! 行きましょう」


 ゆかりの表情は朝起きて来た時機嫌が悪そうだったがもう切り替えた様でニコニコしていた。


 今日も二人で会社に向かう所を見送る由衣。達也の表情が先日までよりも人間っぽくなっていたのが由衣は辛かった。


「私に受けた傷をゆかりさんに癒してもらったのかな」


 由衣は自分が達也を傷つけた事、ゆかりが達也を癒している可能性がある事の両方が自分の存在価値の無さを表している様で苦しくなった。



 昨日達也とゆかりは同じベッドで寝た。理由はベッドが達也と由衣の分しか無かったからである。


 由衣は二人が同じベッドを使う事を拒否してゆかりに自分のベッドを使わせようとしたが不倫する様な人のベッドは使いたく無いと言われ何も言い返す事が出来なかった。


 達也は無関心で何も言う事はなかった。



 二人を見送った後、由衣は考えた。どうすれば自分が達也の信用に値する人間になれるのかを。


 閃いた由衣は達也の部屋に忍び込み、不倫証拠ファイルを開き、相手の特徴と名前をメモした。


「待っててね、達也。自分の過ちは自分で解決するから。それで少しは信頼回復、したいな……」




——————————

文字数が少なくなって申し訳ないです。

内容は変わりませんが(多分)、この話は後から修正するかもしれません。

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