4.甘いバニラが漂う街
新学期早々のクラス替え騒動から、一ヶ月が経とうとしている。
クライアンとウォルファングがフィーの護衛付きになっているのは相変わらずで、軍服姿の幼馴染みにも慣れてきたし、コスモスが仲良くしてくれるようになったため、学院内で困ることはほとんどなくなってきた。
そんな生活の中、週二日来てくれる家政婦のヒヤシンスとは、学院が休みの日である土曜日に朝食を共にするようになった。
「ターゲス様。お疲れ様です」
ヒヤシンスがさっと席から立ち上がり一礼をしたためフィーは一瞬驚き後ろを振り向く。
ヒヤシンスの視線の先を見ると、階段から大きな翼を背負った大男が大きなあくびをしながら歩いてきた。
「おぉ、いたのかヒヤシンス……フィラデルフィア!見ないうちに大きくなったな!今まで顔を合わせられず済まなかった」
椅子から立ち上がったヒヤシンスにならい、フィーも一緒にその場から立ち上がる。
約二年ぶりに再会した自分の養父は先ほどまで眠っていたようだが、それでも疲れている表情が取れていないように見える。
クライアンが多忙だと言っていたのは本当のようだ。
「おはようございます、ターゲスさん」
「あぁ!フィー、一年見ないうちにこんなに大きくなって!」
「うわっ、たかーい!!」
ターゲスはフィーの身体を軽々と高く持ち上げた。
孤児院に訪れた時も年下の子供たちに対して同じようなことをしていたのを遠目で見ていたが、再会早々にやってくれるとは思わなかった。
この勢いで振り回されるかと思いきや、ヒヤシンスの咳払いですぐに降ろされてしまった。そう言えば今は食事中だった。
フィーを自分の手から降ろすとターゲスはヒヤシンスに視線を戻した。
「ウォルは今日も居ないのか」
「……彼は頑なにこちらへ越してきませんわ。まぁ男の子ですし、息子を持つ身として彼の気持ちはは分からなくもないですが……」
たまに声をかけてあげてはいるんですよと、ヒヤシンスは眉を下げて困った顔をした。
ヒヤシンスの夫はターゲスの部下の一人であり、内乱中な息子も揃って戦に加勢したらしい。
寮の家政婦は主に兵士の妻や娘だったりするため、戦や任務がなければ大体は家族寮で共に暮らすことが出来る。デメリットはその兵士の勤務地が変わればそれに伴い引っ越ししなければいけないことなのだけれど。
戸籍上ターゲスの子供となっているフィーとウォルだが、ウォルは護衛を理由に学院でしか顔を合わせない。本人も独身寮で寝泊りをしていると言っていた。
フィーは軍人なんてそんなものかと思っていたが、まさか。
「ウォルの家もここなの?」
「ターゲス様がそれを望んでいるのよ。師弟の関係を築いている方たちも同じ部屋や家で暮らすことはよくあることだから」
「あぁ。実際この家も部屋を持て余しているしな。せっかくだからうちに来いと誘ったんだ。フィーからも言ってやってくれないか」
ロイクの言うことは素直に従ったのに、上官の誘いは頑なに断ることに首を傾げた。
フィーも一緒に暮らせるなら同じ家で暮らしたいと思う。それに孤児院では大勢の子供たちと一緒に寝食を共にした。一人は寂しいのだ。
「わかりました」
今度会った時に話だけでも聞いてみよう。だが案外そのきっかけはすぐにやってきた。
―――
ウォルファングがターゲスの養子になったのはロイクとターゲスが旧友同士だからと言うわけではない。それならカレンデュラの孤児院出身の軍人たちは全員ターゲスの養子になっている。
ウォルファングが訓練兵だった頃、ターゲスとウォルが再会しウォルが軍に入った理由をターゲスに打ち明けた。その彼の想いにターゲスが賛同し協力してくれただけ。
唯一の家族を守りたいというその一言が天涯孤独だったターゲスに何か思うところがあったのかもしれないがそれは本人しか知りえないことである。
「街に出るぞ」
「なんでいきなり」
昼を過ぎた頃珍しく軍服ではなく私服姿のウォルがターゲスの家に訪ねてきたのだ。
ヒヤシンスも仕事があるのでターゲスの家から去り、ターゲスも仕事があるのだと言って大量の食料を胃の中に放り込むように食べたと思えばすぐに出て行ってしまった。現在家にはフィーただ一人だけしかいない。
照れ臭そうにウォルは後頭部をかいてはそっぽを向いた。
「その……お前王都に来てから一度も出かけたことないってクライアンさんが言ってたし」
確かにフィーは未だに街をしっかり見たことがない。
必要最低限の買い物はヒヤシンスが全てやってくれたし、他の生活必需品は敷地内にある軍と専属契約している商会が営む店で買うことが出来るから別に街に出なくても生きていけたのだ。
「でも、私ロイクから貰ったリボンをダメにしちゃったんだ」
フィーの種族は見慣れないものだ。特有の縦に割れた蛇の瞳に角。フィーの特徴が含まれる種族はどこにでもいるが、火傷跡として残った左頬の鱗があまりにも不自然過ぎる。
孤児院にいた頃は特に気に止めはしなかったが、学院では化け物扱いだ。ここまで奇異や畏怖の目で見られると流石に気にする。
フィーが持っていた種族を隠すリボンは授業中に燃えてしまったため、魔術の効力が無くなってしまった。
「……これやる」
「でも……」
ウォルから貰ったのは白いレースが付いた青いリボンの髪飾りだった。この類の魔術道具は細かなところに魔術が施されているため庶民から見れば高級品である。
魔術学院ではこういった類の魔術道具は、皇族が種族の差別をなくすために開発されたモノだと聞かされたが、犯罪で自身の特徴を隠すことに使われることが多く、領地によっては規制されることが多い。
「ありがとう。でもいいの?」
「いくら色んな種族がいる王都でもお前のそれは目立つだろ」
フィーの左頬には学院で貴族に付けられた火傷の跡が赤い鱗になってへばりついている。
孤児院にいた時はリナリアの毒の魔法で全てきれいさっぱりなくすことができたが、リナリアが居ない今、生前の母親のように火傷を負った分だけ竜の姿へ近づいていくのだろう。
「でも学院では付けないよ」
「分かってる」
既に自分の正体は学院全体で広まっているので付ける意味がない。それにこんな高価なもの常に身に着けるのは気が引ける。ウォルはそれを承知していた。
それに折角もらった贈り物だ。また壊れるのは困る。
フィーは自室に戻り、ターゲスが事前に用意してくれたシンプルなドレッサーの前に座ると、細い髪紐を使ってハーフアップにすると髪飾りを差し込んだ。そして髪飾りに魔力を込めると簡単に人族の姿になる。角は見えなくなり、縦長だった瞳孔の形も人族と変わりない。左頬に付いていた竜の鱗も完全に消えてしまった。
これで髪を伸ばして瞳の色も真っ赤になったら姿は女神とほとんど同じになることに少々複雑な思いを持つ。
かけられた魔術の感覚から、ロイクから貰ったリボンは首から上だけ変えるものだったが、ウォルからもらったのは全身変えられる更に高いものだったようだ。
ウォルの給料はいくらなのか知らないが、こんなものにお金を使わなくてもいいのにと思う。
フィーはポシェットに必要最低限のものを入れると玄関で待っているウォルのところに戻ってきた。
フィーの姿を見た途端一瞬ウォルの目は見開かれて硬直したが、すぐにいつもの表情に戻る。
「おまたせ」
「おう」
「じゃあ、いこっか」
ウォルの大きくなった左手を取るとウォルの顔が赤くなった。
「実の姉弟でもこんなことしねえよ!」
「でも孤児院で買い物するときはガーベラ姉さんともロイクとも手をつないだよ?」
「俺は姐さんとつながねえ。てかお前自分がいくつになったか分からねえのか!」
「10歳」
「言わなくても分かるわ!」
こんなやり取りをしているがなんやかんやで手は繋いだままでいてくれる。
だがもう既に顔見知りになった居住区に住まう人たちから「二人でデートか!」なんて野次でウォルは更に羞恥で死にそうになっていた。
―――
シャトーバニラは名前の通り
この島が統一される前も含め約二百六十年以上もの間その玉座を守ってきた皇族は、蘭科の植物をもとにした名前を持つ者がほとんどであり、通称【蘭の王朝】と呼ばれていた。
ちなみにこの街が首都として確立した時、当時の皇妃がバニラという名前だったのでその名前を街に付けたらしい。
実際城からかなり離れた郊外の地域はバニラがたくさん取れるため、バニラの香りがほのかに漂う街でもあった。
「王都の北側は寮とか居住区も含めた軍の所有地だけど南側は城壁を超えた先も含めて農耕地なんだ。東は元貴族たちの邸が並んでる居住区」
「へー」
フィーはウォルの話は基本聞いていない。ウォルもそこまで多くを語るようなタイプではないので王都の大体の概要を話せばすぐに話はしなくなった。
ちなみにこれから向かうのは女神を祀る大聖堂だ。
別に店が立ち並ぶ場所で歩いても良かったのだが、まだ子供である二人は多くの金を所持していないため観光地を見て回ることにした。
「こうして二人で一緒に街を歩くのは初めてだね」
「……そうだったか?」
孤児院でも大人と一緒に買い物に行くことはあったが、子供だけで一緒に出掛けることはなかった。
昔は普通に子供だけでお使いに行くことはよくあったらしいが、内乱の影響か人攫いが問題となったため大人と二人で出歩く決まりになっていた。
「私も昔はこんなこと考えたこともなかったな。ずっとあの村で生きていくんだって。それが当たり前だと思ってたから」
「……」
二人が生まれた村は何者かの手によって燃やされてしまった。
その村は島の北方に位置し、南方の激戦地からは大分遠かったはずなのに。軍人の出入りは多かったものの、ロイクのいる領地も含め比較的平和な地域だった。なのにこんなことになってしまった理由は分からず、ロイク曰く近隣の村も同様に廃村になっていたらしい。
詳しいことは軍の誰かに聞けば分かるかもしれないが、ウォルは知ることが出来たのだろうか。
「ウォルあのさ――」
「やあ!二人そろってデートかい?」
「うげ」
「あ」
ウォルは苦虫を嚙み潰したような顔をする。振り返れば白いうさ耳の軍人がこちらに手を振ってやってきた。この前ウォルと一緒にいたアリックスという騎士だ。
「こ、この前はありがとうございました」
「どういたしまして。お嬢さん。人族の姿も可愛いね」
「あ、ありがとう、ございます」
このやり取りに既視感を覚える。もしかして王都、というか貴族の男性はこれが当たり前なのだろうか。
そんなアリックスにウォルは「気色悪い」と繋いでいた手を引いて自分の背中にフィーを隠した。
「仕事中に何油売ってんだよ隊長」
「だって平和なパトロール中に非番の部下が出歩いていたら声もかけたくなるじゃん?」
「意味が分からねえ。てか街のパトロールはうち管轄じゃないでしょ。とっとと仕事に戻れやクソ上司」
友人のようにやり取りを交わす二人を見るがやはり兎族の彼はウォルの上官らしい。
だが上官で先輩なのに敬語を使わない二人を見ていると、揶揄う大人に子供が噛みついてるようだ。ウォルが少しだけ不憫に見える。
ウォルは二人の様子を黙って見ていたフィーに向き、アリックスに指差した。
「コイツの言葉を真に受けるなよ。こう見えて妻帯者。奥さんいるから」
「えっ、そうなの?」
自分たちより年上だろうがまだ若いであろう彼はもう既に心に決めた女性がいることにフィーは驚く。
いくつなのと聞けば15歳だとウォルが答える。15歳なんて成人でも男性が結婚するにはまだ早い。ウォルがため口で話すのはそういう理由か。
アリックスは近くにあったベンチに座り、右足を左脚の腿に置いて足を組んだ。
「やだなー、女性に敬意を払うのは紳士として当たり前のことだよ?」
「お前のそれは口説いているようにしか見えねえよ。奥さんにみられたらどうすんだ」
「それはないよ。うちのはずっと家にいるから」
その言葉にアリックスは一瞬だけ表情に影を浮かべたのはフィーの気のせいだろうか。
「そう言えば、アリックさん」
「アリスでいい。あ、僕のミドルネームね。君は一般人だし敬語もなくていい。ドックウッドは生意気だから必要だけど」
「お前に敬意を払えるか」
「もう、ウォル。――ねぇアリス、その、ウォルのことどうしてみんな『ドックウッド』って呼ぶの」
これはウォルファングと再会した時から思っていたことだ。
確かに彼は狼だから犬みたいに呼ぶのは良いだろう。だがドックウッドとはどういう意味だ。犬の木?
「聞いてなかったんだ。ドックウッドっていうのは
「なるほど」
「納得すんな。広めたのはお前だろうが」
「いいのかなー?もし君が|ラストネーム持ち『騎士』になったらウォルファング・ドックウッドになるかもよ?」
「やだよ。俺はウォルファング・ヴィスコだ。それに植物は貴族のだろ」
帝国時代、平民が爵位を賜る、または貴族の家が分家を立ち上げる為に新しい姓を賜る際、皇帝から植物の名前を貰うことが通例だった。
だが騎士の姓は
「名前名乗るの嫌がってなかったけ」
「嫌がってねえ。慣れないんだよ。元々ただのウォルファングだったし。でも今の俺は大隊長の弟子みたいなもんだから、流石に親父とまでは思えないし恐れ多いけど……」
「慣れない、ねぇ……」
フィーは首をかしげる。彼がターゲスとの同居を拒んだ理由にターゲスに対して苦手意識を持っていたのかと思っていたからだ。
親と思えなくとも家族と思えばいいというのはクライアンからの助言だ。ウォルも同じように思ってくれているのだろうか。
「それなら私と一緒に暮らそうよ」
「おや?」
「今朝聞いたよ。ターゲスさんから家に住もうって誘ってるのにウォルがそれを断ってるって」
「いや……それは」
「ごめんねー?この子一足早い思春期でさー」
「おいアリス」
その話は後にしてくれと言ったウォルの言葉を最後にアリックスはベンチから立ち上がった。
「二人は大聖堂に行きたいんだろ?それなら大聖堂の裏手にある【時の魔石】を見に行くといいよ」
「時の魔石?」
「そ。魔力には地や水を含めた八つの属性があるけど、その中にある【時】の概念の魔石がそこにあるんだ」
アリックスの言葉にフィーはロイクにかかった呪いを思い出す。女神が自らの肉体を滅ぼすために夫心臓の鼓動を自分自身の時間の基準にした。自分が夫と同じタイミングで死ぬことが出来るように。
だが魔法や魔術における【時】は女神の寿命云々ではなく、あくまで月日の経過にともなう変化という意味で扱われる。時の魔石もそれに関するもの。
なぜ具現化されない概念として扱われるはずの属性が、魔石となって固まって鎮座しているのかは不明なのだけれど。
じゃあ仕事に戻るねとアリックはその場から去っていった。気まぐれな人なのだろうか。
「ちょっと見てみたい。【時の魔石】」
「そうだな」
二人は引き続き大聖堂まで歩き始めた。
―――
女神を奉る大聖堂は城の正門から真っ直ぐ歩いたところにあり、内部は扉を開くと城を見ることが出来るような構造になっていた。
皇族は女神に一番近いと言われている。
その所以は女神に与えられた魔法と魔力は混血であればあるほどその能力は高くなり、体力は奪われ、時には暴走して街ごと崩壊する場合もある。
皇族はその暴走を抑えることが出来る稀有な存在だったからだ。それが転じて神に近い存在だと名乗り、それを知らしめるために作られたという。
「都合のいい解釈だね。魔力が多くても体は弱かったのに」
女神の記憶を持っているフィーだから説得力がある。
姿も人族で瞳さえ赤ければ女神と同じだと、女神の夫の生まれ変わりであるロイクも言っている。
ロイクも前世アセビと呼んでいた青年と顔はまったく同じだ。それならフィーも女神の生まれ変わりに該当するのだろうか。
「よく、わかんないけどさ、ロイクとお前は前世では夫婦だったってことだよな」
「私自身がそうだったかどうかは分からないよ」
自分の見ていた悪夢が女神の記憶だったということ、ロイクが女神の夫の生まれ変わりだということは孤児院で暮らしていたときウォルには話している。
実際乗っ取られる時はあれど感覚としてはもう一人の自分が中にいるような状態だから生まれ変わりかと言われるとその辺は実感がない。
女神と会話できないか試みたものの、自分の中にいる女神は眠っているのか静観しているのか、一切口を開いてくれなかった。傍から見ればただの頭が狂った人間だった。
「だからと言ってロイクの呪いは解かなくてもいいと思うんだけど。それが何千年も続いてるんだろ?」
「……」
ウォルには女神の時間がロイクの心臓の鼓動であることは教えていない。
ロイクの魂が消えてしまったら世界中の魔法が消えるなんていうのは憶測の範囲に過ぎないので。
「でも、女神様には、憎しみを持ってほしくはないな」
「……確かに憎むよりはいいかもな」
女神がただの人間だと知ってしまってからフィーの中での信仰心はすでに薄れている。
もし彼女が一人の人間ではなく、神そのものだとしたら、彼女の人に対する考え方は変わっていたのだろうか。
「ねえウォル」
「どうしたフィー」
「やっぱり私ロイクのことが好きだよ。だから諦めない」
「あーそうかよ」
他の男の手を握っておいて何を言っているんだかとウォルは空いてる手を握り締めたのだった。
―――
「ミス・ヴィスコ。貴方昨日殿方と一緒に歩いていたようですね」
「え?まぁ、うん……」
次の日。学校でクラスメイトの女子数人から話しかけられる。後ろではコスモスがおろおろしていた。一ヶ月過ごして見てなんとなく地位が高いのだろうなと思っていたが、まさか話しかけられるとは思わなかった。
「普段は護衛を付けて歩いているくせに、白昼堂々護衛も付けず異性と手を繋いで歩くなんてはしたないですわね、それに白兎の騎士ともにこやかにお話しされていたとか」
「白うさぎ」
白うさぎはアリックスのことだろう。昨日確かに男と街を歩いていたが、一緒に歩いていたのはウォルだ。もちろん途中アリックスとも会ったが、そこまで長く話をしていたわけではない。
「さっきからなんですの、恍けないでくださいまし!」
「……確かに手を繋いで歩いていたけど、異性って大袈裟」
「男女なのだから異性に違いないでしょ?」
隣でずっと立っていた彼女の友人らしき女子も口を出す。確かにウォルは男で自分は女だ。だが姉弟と一緒に出かけるのはおかしいのだろうか。
「弟と一緒に歩いちゃダメなの?」
「貴女孤児よね?ふざけたこと」
「フィラデルフィア」
「あ、ウォル」
教室の外で立っていたはずのウォルファングがフィーの後ろに来た。ウォルの後ろにはコスモスがいるからコスモスが呼んだのだろうか。
突然来た彼に話しかけてきた彼女らも一瞬怯む。
「護衛がしゃしゃり出ないでくださいませんこと?」
「彼女と昨日街を歩いていたのは俺ですよ。見てたんじゃないんですか」
「はぁ?」
「俺はフィーの義理の弟ですよ。年は同い年ですが」
話を聞いていたのか他のクラスメイトから「嘘だろう」と声が聞こえてくる。特に男子は羨ましそうにも見える。
ふしだらだと言いたかったのに、相手は私服姿の護衛でしかも義理とはいえ弟でしたという勘違いで指摘した本人は顔を赤くした。
「こ、こんな図体の大きい同い年がいるもんですか!!」
「生憎純血なんで。鍛えれば成長もするでしょ」
「いやしないから」
思わずフィーが突っ込みを入れるが、話を聞いていたクラスの大半が内心同意していた。だってウォルは小等部6年生と比べても背が高いのだ。ウォルのそれは純血もあるだろうがもはや才能である。
「紛らわしいですわ!」
結局話しかけた本人はその場を離れてしまった。一緒に居た子達も慌ててついて行く。
話が終わったと分かると周囲もそれぞれ散らばっていってしまった。
「ほら言ったろ、この歳で手を繋がねえよ」
「……」
フィーはなんだか腑に落ちなかったのだった。
――――――
きっと、お前にとっての俺は一生”弟”なんだろうな
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