14.突きつけられた課題



 その日はとても霧の濃い朝だった。

 その程度であの弟が旅立つ期日を延ばすなんてことをするはずもなく、彼は全く眠れなかったらしい姉がいる部屋に忍び込んでは、無言で頬にキスをした。


 小さなナップサックには昨日の迎春祭で貰った食べきれなかったお菓子と、ロイクからもらった餞別とターゲスから既に受け取っていた従軍への紹介状が入っている。

 正直ウォルは特段持っていくモノが少ないので、肩掛けタイプの底なし鞄は意味を成さなかった。それよりもロイクからもらった恐ろしい額の詰まった金融ギルドの通帳に直接目隠しの魔術をかけた方がマシだろう。そんな魔術使えないけど。



―――



「……フィー」


 水色の瞳がどこか覇気のない赤髪を見つめた。フィラデルフィアは中庭入り口の扉の前に座り込んでおり、爬虫類の瞳はどこか遠くを見つめている。

 朝靄で滴った中庭の草花は風に揺れる度に露が弾ける。


『ごめん』


 微睡の中、フィーが最後に聞いたウォルの言葉が頭によぎる。なぜ彼はごめんなんて言ったのだろうか。どうして彼は先に進むのだろう。力もないのになぜ険しい世界に進むのだろう。

 ロイクからは軍のことをたくさん聞いた。マーガレットから自分の婚約者が戦争で亡くなったことも知った。自分たちの村も知らない誰かからたくさんの火を放たれた。

 理不尽な目に遭ったけれど争いごとをしても無意味だとロイクから何度も言われた。だけどロイクはウォルが従軍することを諦めなかった。

 彼はフィーを守るためと言った。なぜ彼は自分よりも強いフィーを守りたいと思うのだろう。

 分からない。フィラデルフィアはただひっそりと暮らしたいだけなのに。ただこの平穏を保ち、共に愛する誰かと暮らしたいだけなのに、時間は嫌でも誰かの考えを変えてしまう。


「フィー。お外に行かないの?」


 水色の瞳がフィーの目を覗き込んだ。瞳同士の視線が交差しその水色の瞳の奥に映る自分の顔と焦点が合う。リナリアだと判断するのに時間がかかった。


「あ、なんだリィか……」


 驚いたフィーをよそにリナリアはフィーの隣に座り込んだ。

 ルークが水色の瞳のリナリアに対して『リィ』と呼ぶのでそれに倣いフィーも水色の瞳に対しては『リィ』と呼ぶようにしている。彼女自身、どちらも自分自身であることを認識しているためどちらもリナリアなのだが、人格が違う以上そう区別しないと会話が成立しにくい。


「ウォルは悪い子だよね。フィーのこと全然考えてない」


 しばらく水色の瞳の方が表に現れなかったため、彼女が多重人格であることを忘れてしまうところだった。だが同じ顔なのに人格が違うだけでこんなに別人に見えるものなのか。

 多重人格である自分を受け入れたのかリナリアはどこか活発になったような気がする。男性恐怖症に関してはまだ治りきっていないらしいが、彼女のかかりつけの医者が問診にくる日が月に二回だったのが一回に変わるくらいには大分快方に近づいてきたという。


「……悪い子じゃないよ」


 彼の行っていることは全てフィーの為に行動している。自分の将来も何もかもフィーの為に生きていた。

 確かに同じ年に同じ村で育ち、孤児院に来ても姉弟として生きてきたしこれからも一緒に暮らしていきたい。だが自分の望む将来と彼の望む将来に大きな食い違いがある。


「なら、どうしてフィーは泣いているの?」

「泣いてないよ」

「うん。でもフィーは泣いてるよ。ずっと前から、寝ても覚めてもずっと」


 リナリアはこくんと頭を下げてたと思えばすぐに起き上がりまたフィーのことを見つめた。

 灰色の瞳も水色の瞳同様に悲哀に満ちた顔である。


「……私って泣いてるのかな」

「えぇ。泣いてるわ」


 そっかとフィーは赤い目をこすってはリナリアの肩にもたれた。その姿にリナリアはこっそり小さいこぶしを握り締めた。



―――



「魔術陣というものは、基本的に誰でも書けるというのは知っているな」

「うん。でも魔術道具職人は、皆が使えるようにしてくれるんだよね」

「魔術を得意としない職人もいるが基本的にはそうだ」


 魔術道具職人というものは種族や魔法の属性に問わず、どの人間の魔力でも同じ結果が出るよう魔術陣を調整する職人である。

 軍には個人の魔力に合わせて魔術道具を調整してくれる者もいるという。己の個性を引き出す為でもあるらしい。


「でも魔術陣は」

「そうだ、だが今からお前に課すものは今までと違うものだよ」


 それは己の魔力を抑制する魔術陣を作ること。

 確かに力を抑止する魔術道具は存在するし、抑止をする術式は様々だ。

 ロイクも子供たちに罰を与える際はお手製の魔力抑止の札を背中に貼り付けて謹慎させることもある。

 だがロイクはなぜ自分の魔力を抑える魔術陣を作れというのだろう。


「完成したら見せてくれ。そしてその魔術陣を使ったうえで本気で戦い魔力強化している俺を倒してみろ。己の弱点を知れ。そしてそれを克服し制御しろ。お前は魔力に頼りすぎている」

「弱点……」


 己の力を抑止する魔術を編み出すのも難しいのに、それを抑止してロイクに勝てという。

 ロイクは先祖代々純血の人族同士で結婚していたために魔力が少ない。その代わりその細身の体で大勢の子供達の世話をすることが出来る。

 だが彼の魔法が一体なんなのか全く知らない。幼い頃からロイクのことを知るガーベラでさえ、ロイクの魔法を知らないくらい彼は徹底して自分の魔力は魔術か肉体強化にしか使わない。

 自身の魔法を使わず魔力が有り余る子供たちが多くいる孤児院で使用人二人のサポートだけで世話をこなせるのはすごいものだ。


「それが俺からの最後の課題だ。それ以降からは受験勉強に注力してもらう」

「えー……」

「えーじゃない。魔術学院は筆記試験なんだぞ。実技は無いんだ」

「分かってるけど……うん……」


 こればかりは仕方ない。

 魔術というのは、魔法の属性や力量を問わず自分の力を発揮させるために作られたもの。言わば魔法への呪いだ。そのため魔術を志すものは魔力の力量問わず学べるよう学院の入試方法は筆記なのである。

 だが基本的に技術は体で覚え、魔術の具体的な基礎知識が乏しい彼女はロイクの魔術を見よう見まねで全てのパターンを覚えきた。

 それゆえにロイクは自身が提示した課題も彼女に魔術に関する偏った知識を養って欲しいという願いもあった。


「ちなみに俺を倒すまで学院への入学は許さん」

「え!?」

「ウルのお前に対する態度や最近の国の動きを見て考えた結果だ。きっと誰かは容赦なくお前を連れていく」

「どうして。約束と違うじゃない!」


 フィーは分からないふりをしてロイクを睨む。

 ロイクは表情を変えずじっとフィーを見つめ返す。


「お前は竜種だ。それに火傷の度に獣化する魔族なんて聞いたことが無い。いつかお前の噂は国中に広がっていくだろう。ターゲスでもお前のことを守りきれるかどうか分からないこの状況でお前は炎に焼かれ、毒に侵され続ける見世物になりたいのか?俺はもうお前を守れる程の権力は無いんだぞ」


 自分はそこまで弱い人間なのだろうか。

 いや、たしかに十歳の子供なのだから弱くて当たり前だ。前に嫌というほど思い知らされた。なのだけれど、自分はそこまで歪なのだろうか。竜はそんなに忌むべきものなのだろうか。


「……みんな……なんでそんなに私を閉じ込めたがるの」

「ならお前は一人で生きていけるのか?己の種族を隠し、一人で仲間のいない世界を歩き続けることが出来るか?」


 とても意地悪な問だった。夢の中で見た女神の夫とかけ離れた、突き放すような言葉だった。


「……ロイクは、フィーのこと嫌いなの?」

「なぜそう思う。むしろ避けてきたのはお前の方だろう」

「もういい!」



―――



 それはロイクがフィーにその課題を出した数時間後のこと。


「ウォルファングに続いて今度はフィラデルフィアもかよ!」


 ガーベラは主人であるロイクから言い渡された内容に反論した。

 ガーベラは子供の時こそ反発したものの、だからこそ今の子供たちに、この孤児院の方針に反することはさせたくなかった。

 誰かの養子になるでもなく、ただ自立のためにこの孤児院から出るには十歳なんて幼すぎる。


「アイツらの決めた事だ。十三歳まで待てないらしい。フィアはウルのことを追いかけるようだ」

「それでもあと二年でしょう?それにここに出る理由が学院への進学なら尚更」

「だが子供の時代というのはあっという間だ」

「ロイク」

「心配なのは分かる。だがそれは分かってくれ。本人たっての希望なんだよ。ガーベラ」

「……」


 ロイクの妻であるダリアの亡き後の不安の最中、初めてやって来たのがあの二人だ。

 夜泣きこそすれど親を求める素振りすら見せない二人がとても気がかりだった。

 互いが互いに依存している。兄妹でも姉弟でもなければ家族でもない。かと言って恋人にしては想いが重ならず、友にしては互いの想いが重すぎる。

 いつも二人一緒にいるという訳でも無いが、二人には二人だけの世界があった。


「あの二人は切っても切れない関係なんだろう」

「ならウォルを待たせれば良かったはずだ。十三歳になって一緒に」

「保守的になったな。お前も」

「なんで」

「シードがお前に結婚を申し出たらしいな。何故断った」

「いつの話だよ!?てか話をずらさないで。アタシのことは今は関係ないだろ」


 何故そんなことを知っているのかとガーベラはたじろぐがそんな事はどうでもいい。


「どうして寄りによってあの二人だけなんだよ……」

「……俺は、正直後悔しているのかもしれない。二人をここに連れて来て良かったのかと」

「そんな……」


 迷っている彼を見るのは久しぶりだった。何故あんな子供二人に迷っているのだ。ただ片方の種族が珍しい竜の子であるだけだろう。


「アンタがそんなんでこの家はどうするの……」


 目の色、肌の色、髪の色、魔法や体格も関係なく身寄りの無い子供達を平等に保護し、愛せ。

 それがカレンデュラ家の決まりだ。それを目の前の当主である彼が目を背けようとしている気がしてならない。


「まだ十歳の子供なのに……」


 ロイクも同じことを何度も考えた。考えた末の結果なのだとロイクは目を細める。

 以前フィーが暴走した際、確かにあの姿は化け物と呼ばれてもおかしくはなかった。だがそんな子供も等しく愛情を育てるのがこの家の家訓、使命なのではなかったのか。

 フィーが暴走した次の日、ロイクがターゲスとどんな会話をしたのか知らない。他の子供達にも危害が及ぶとでも思ったのだろうか。

 ガーベラは無言でスカートをたくし上げて一礼する。長年の付き合いでガーベラはもう彼は決めたのだと分かった。ガーベラは彼の使用人として従うしかなかった。



―――



 突き放すつもりはなかった。

 ただ彼女には己の運命を受け入れ、かつそれ等から抗う術を学んで欲しかった。

 ターゲスから届いた手紙を見る。

 旧カレンデュラ領がある地域は王都の影響が薄く、統治する貴族が皇帝への忠誠を誓わない限り、政権が及ぶ事はなかった。


「坊っちゃま。自分を追い詰めてはいけませんよ」

「……マーガレット」


 ホットミルクを寄越してきた老婆は相変わらずロイクを子供扱いしているらしい。

 自分の父親よりも年上である彼女は今でこそただの老婆でしかないが、本来ならこんな田舎貴族の世話をする事はなかったはずだと言っていた。彼女は実家には迷惑をかけたから帰る気もない。と縁を切ったらしい。


「あの子達の事でしょう。貴方が思い悩む必要なんてないのよ?」

「あぁ……それはマーガレットとて」

「男は基本、待つ女の気持ちなんて汲んでくれないものですから」


 生きてくれればそれでいいと嘘をついた。

 この国は軍人が一番賃金が高く、国も軍に進むことを推奨している。

 マーガレットのような軍に行かせたくない人間は多かれ少なかれいるものの、この国の男の半分は一生のうちに従軍した経験があるくらいには軍人が多くいる。


「齢十の子供をここから出したこと、お前はどう思っている」

「私がもう少し元気なら、止めていたでしょうね」


 軽い金属製の杖を付く彼女は、かつて鬼のような教育をしていた頃の彼女ではない。

 老いというものは呆気ないもので、彼女は昔の、島が二つの国に別れていたときの話をすることも多くなった。その話を通じてこの国が毎度毎度同じ過ちを繰り返していることがよくわかった。


「坊っちゃまは、私が見てきたカレンデュラの当主の中で、一番、子供を子供扱いしない御方です。それは子供達の事を尊重しているように見えて、放任しているようにも見える」

「そう言われると結構痛いな」

「そう変わられたのはここ一年よ?」


 ダリアが亡くなってから。

 彼女の笑顔が脳裏を過ぎった。どんなに病で苦しい顔をしていても、辛く泣いていたとしても、彼女を思い出そうとすればあの笑顔が脳裏をよぎる。

 もっと彼女を色んな所に行かせてやりたかった。着飾ってやりたかった。少女のように沢山遊ばせたかった。女として扱っておけばよかった。


「……馬鹿なお人ですね。坊っちゃまは愛されているのにその自覚もなく無意識に愛していられた」

「あぁ。本当に馬鹿な男だよ。俺は」

「もう少し、貴方は自分と向き合わなければいけませんね」


 その言葉にあの幼い赤毛の竜と自分の記憶にはない赤毛の女神が脳裏に過ぎった。

 愛する人を傷付け無いために、何度も突き放しては干からびた土地で眠りにつこうとしていた彼女と同じことをしていることに彼は気付かない。


「愛している気持ちに気付けず、遠く離れ離れになってしまうことが辛いのは貴方が一番わかっていることでしょう?」


 後悔しないでねと老婆はロイクの首にある首飾りを見る。

 ロイクが身につけている首飾りはダリアにあげたチョーカーのチャームを紐に通したモノだ。

 持ち主の魔法の属性に近い色に変わるそのチャームは、自分の魔力の色である若菜色に染まったまま輝いている。


「今度こそ、貴方が後悔しない生き方をしてちょうだい。お節介な老婆心だけど、貴方も、旦那様も私にとっては孫みたいなものだから」

「ありがとう、マーガレット」



―――



 自分の特技は知らない。だが抑止したいものはある。

 そう思うくらいここ最近自分の中でささやく声が大きくなってきている。

 自身の身を削って産んだ子供たち。その子らがこのメイラという国が広がる島で繁栄しても尚、自分の思想、欲、憎悪を互いにぶつけ合いながら争い続ける。

 愛している。だけれどその在り方がとても憎い。その葛藤が嫌と言うほどフィラデルフィアの頭の中で響きわたり、飲み込まれそうになる。

 もう彼女の中で女神に対する崇拝の心も、憧れも全て失せてしまっていた。


 恋い慕う青年との間に生まれた愛おしい家族。

 憎しみの果てにようやく知ることのできた恋慕、愛情。


 まだ齢十、そして幼くして両親を失っているフィラデルフィアが親が子供に対する感情なぞ知る由もない。

 だが自分のロイクへの想いがこの悪夢のせいだったらどうしようとも思うのだ。

 ウォルファングが出て行ってからも絶えずその夢を見る。

 ウォルはフィーの見る夢が恐ろしいものであっても絶えず見た内容を聞いては慰めてくれたのは、フィーがその夢の内容を話すことできっと悲しみから一時だけ解放されるためだったのかもしれない。

 本人がいない今そんなこと聞けるわけがないけれど、聞けたとしてもきっと「知らない」と言ってそっぽを向いてしまうのだろう。


「おねえちゃん」


 三毛の耳が机の端から飛び出ているのが見えた。その耳を見てフィーは読んでも理解が出来ない魔術書を閉じてはそのしおれた耳を見る。


「どうしたのネネ」


 七歳のネネは基本的に必要以上に特定の誰かと一緒にいることはなく、孤児院で飼っている家畜たちと自身の魔法で気まぐれに会話していることが多い。

 それでも孤立しないのは、彼女が気まぐれに誰かの隣にくっついているからだ。それは猫の魔族特有の性格だからなのだが、彼女から恐る恐る声をかけることは珍しかった。


「おねえちゃんは、どうしてウォルおにいちゃんと離れ離れになっちゃったの?」

「私もよく分からないけど、私を守りたいんだって」

「ウォルおにいちゃんはどうして、おねえちゃんをまもろうとするの?」

「……分からない」


 なぜウォルが自分よりも強いフィーのことを守ろうなんて思うのだろう。

 孤児院に入る前、村でフィーと母親が外部の人間から隠されていたことは今思えば竜種である自分と母を守りたかったからだとフィーは考える。だがロイクはそんな自分を気にもせず共に街へ出かけ、たくさんの物を見せてくれた。

 竜という存在がいたというならば、自分と同じ竜種の魔族がいてもおかしくないはずなのに、大陸でも竜種の魔族はいないらしい。

 魔族を産んだ神はただ一人、この島にいたという赤髪で白いドレスを着た女神が始祖だとされているから。でも女神の記憶に竜種を産んだ記憶はない。


「おねえちゃんは、女神さまみたいだよね。とっても強いもん」

「……魔力があるからね……どうして女神さまみたいって思うの?」

「女の子なのにとっても強いから」

「そりゃ、そうだね」

「女神さまは強いよ。だって何でもできるもん!」


 万能の女神であっても、魔力という概念を新しい人類へ授けたとしても、彼女は平和な世界を作ることが出来なかった。


「……女神さまでも何でもできるわけじゃないよ?ロイクもなんでもできるけど、とっても魔力弱いでしょ?」

「でもお父さんは、お母さんになれないよ?女神さまは、たくさん子供産んだよ」

「物知りだね……」

「おばあちゃんにおしえてもらったんだよ。おばあちゃんね、お父さんがしらないことたくさん知ってる」


 確かにマーガレットはロイクよりも長く生きている分ロイクと別の側面で知っているものがたくさんある。

 大陸にある女神が生み出した魔物のこと。海にしか住まないという魚類の魔族の伝説のこと。綺麗な編み物縫い物のコツ。同じ曇りでも雨になる曇りと晴れになる曇りがあること。街中の猫の多い場所、ロイクが生まれる前に居た孤児院出身の者が営んでいる店や家々など。

 マーガレットはロイクが生まれる前から孤児院に住んでいるらしく、意地でも見せたがらないロイクの魔法も知っているという。だが流石にマーガレットも教えてくれないけど。


「ネネはマーガレットおばあちゃん、好きだね」

「うん」


 机の下をもぐり込んでフィーの隣にやってきたネネの頭を撫でる。喉を鳴らしながら笑顔で見上げる彼女を見て、たまに女子同士で行うままごとで母親の役をやるのならこんな感じなのだろうかと思う。


「でもね、ネネはみんなと一緒に寝ることが好きだよ」


 みんなが寝てる隙間に入るの。今度はフィーの脇に入る。


「寝てたら全部忘れるよ。死んだお父さんとお母さんも夢の中で会えるよ。きっとウォルおにいちゃんにも会えるよ」

「……ありがとう、ネネ」


 チリンと鈴の音がなるような声に誘われ、フィーはうとうとと船を漕いだ。

 ネネから声をかけられた子供達は必ず眠気がやってくる。フィーは大人気もなく小さい身体のネネに体をもたれた。

 そういえばネネの魔法はなんだったかと、思い出しそうな所でフィーは眠りに着いてしまった。



///


「ねぇ、■■■」

「なんだい。我が愛しの鎖」

「あのね――」


……


「切ってしまうなんてもったないなぁ……この赤毛好きなのに」

「いいの。掃除したらゴミになった物は燃やしましょうか」


……


「■■■■……何故君は成長している」

「あら、老けた私は嫌?」

「違う。こんなの、まるで……!!」

「――折角だから、話しておきましょうか」


 最期は、一緒よ。


///

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