第9話 初デート

 とうとうデート当日がやってきた。いつもよりも早起きをして身支度を整える。シャワーを浴び、歯を磨いて髪型が変じゃないか入念にチェックする。最後に「デートするならコレ付けてけ」と武人から貰った香水を少し付ける。姿見の鏡で全身をチェックして準備は万端だ。

 時刻を見ると十時半で、約束の十二時までまだ余裕はあるが、万が一にも遅刻は許されないので早めに家を出る事にした。


 待ち合わせ場所は神宮司さんと初めて出会った時の駅近くにあるコンビニだ。落ち合った後は電車で十分程度にあるスポッチャオだ。俺は武人や他の友人と何度か行ったことはあるが、神宮寺さんが行ったことがないというのでそこに決定した。

 ちなみに、お昼は神宮寺さんがお弁当を作ってきてくれるという事なので、今日は朝食を抜いてきた。


 待ち合わせ場所に到着し、時刻を確認すると、十一時を少し回ったところだった。

 コンビニで立ち読みでもして時間を潰そうかとも思ったが、神宮寺さんが時間よりも早く来て、待たせてしまう可能性を考え、コンビニの前で待つことにした。


 スマホでSNSを見ていると武人からメッセージが来た。


<彼女を退屈させるなよ!>

<わかってるよ>


 そう返したものの、不安になったのでネットで女性が楽しむ話題と検索を掛ける。すると沢山のサイトやブログがヒットして、どれを参考にするか悩んでいると、不意に左手を掴まれた。

 驚いて顔を向けると、そこには神宮寺さんが俺の手を握っていた。

 スマホに目をやり時間を確認すると、まだ待ち合わせ時間まで三十分以上あった。


「お久しぶりです。お待たせしてしまって申し訳ありません」

「全然待ってないですよ。それより早いですね、ビックリしました」

「その……お恥ずかしながら、楽しみで早く来ちゃいました」

「俺も楽しみで早く来ちゃったから同じだね」

「ふふ、そうですね」


 そう言って神宮寺さんは口に手を当てて笑う。

 ヤバイ! 初めて笑顔見たけどまるで天使の様だ!


「そういえば、誠一さんはスマホで何を見てらっしゃったんですか? 真剣なお顔されてましたが」

「え、え~っと」


 女性を退屈にさせないために話題探してたなんて言ったら軽蔑されてしまうかもしれない! ここはなんとしても誤魔化さないと!


「き、今日行くアミューズメント施設を調べてたんだ」

「そうなのですか? でも誠一さんは何度か行っているのでしょう?」

「そうなんだけど、神宮寺さんには楽しんで貰いたいからさ! 改めてリサーチしてたんだ」

「そうだったんですね。野暮な事聞いてしまって申し訳ありません」

「全然気にしなくていいよ! それよりちょっと早いけどそろそろ行こうか」

「はい!」


 なんとか誤魔化せたけど罪悪感を感じてしまう。

 それにしても、今日は学校でたまに見かける印象とはかなり違うな。なんというか、柔らかい印象だ。でも怒ると怖いんだよな……女の人って不思議だ。 


 スポッチャオに到着し、施設内に入ると神宮寺さんが目を輝かせながらキョロキョロと辺りを見回している。そんな彼女を引き連れて受付に向かう。

 

「ご利用時間はいかがなさいますか?」


 と聞いてきたので、事前に二人で決めたフリータイムを希望する。


「かしこまりました。学生割引等はご利用でしょうか?」

「じゃあコレで」


 と言って学生証を見せる。


「…………」

「…………?」

「あの、お連れの方も拝見して宜しいでしょうか?」

「あ、も、申し訳ありません。学生証ですね」


 神宮寺さんは店員に促され、ゴソゴソと学生証を探し出した。ここで俺は失敗に気づく。神宮寺さんはこういう所は初めてと言っていたんだから俺がエスコートしなければならなかったんだ! 気が周らなかった所為で神宮寺さんに余計な恥を掻かせてしまうなんて……。


「こ、こちらでよろしいですか?」

「はい、確認させていただきます」


 無事に学生証の確認を済ませ、料金を支払い受付を後にする。


「さっきはごめんなさい、俺が気を利かせられていれば」

「いえいえ、良い社会勉強になりました。次からは失敗致しません」

「うん、ありがとう」


 俺達が最初に向かったのはバッティング施設だった。これは神宮寺さんが「是非やってみたいです!」との要望で、今日までに計画を立てた一つだ。


「先ずは俺がお手本見せるから良く見てて」

「はい!」


 とりあえずボールのスピードは神宮寺さんに合わせて70/kmで打ち込んでいく。俺が一球打つ度に「凄い凄い!」と言ってくれたので、俺としても気分が良い。


「じゃあ今度は神宮寺さんの番ね」

「は、はい! き、緊張しますね」


 そう言って打席に立つ神宮寺さんの姿はカワイイの一言だった。ブカブカのヘルメットに握りが逆のバットで球が通り過ぎてからゆるゆる~としたスイングをする。これぞ天使! 最愛の女性ひと

 って、見蕩れてる場合じゃないな。


「バットの握り方が逆です! 右手が上です!」

「えっ? こ、こうですか?」

「そうそう! あとはボールをしっかり見てタイミング良くバットを振ってください!」

「わ、わかりました!」


 最初よりは良くなったが中々ボールに当てる事が出来ない。そしてとうとう一球もカスる事もなく終わってしまった。

 

「はぁはぁ、む、難しいですね」

「でも段々と良くなってきてたから次は当たると思うよ」

「そ、そうですか……はぁはぁ、す、少しお手洗いに行ってきますね」

「じゃあ近くのベンチで待ってますね」

「す、すみません」


 謝罪し、ふらふらとお手洗いに向かう。ずいぶん疲れさせてしまったな。だけどこれだけであんなに疲れるなんて普段は運動なんてしないんだろうな。家がお金持ちっぽいし。

 しばらくベンチで待っていると、神宮寺さんがお手洗いから戻って来た。


「お待たせして申し訳ありません」

「俺は大丈夫ですよ。それより神宮寺さんはもう大丈夫ですか?」

「はい! もう元気いっぱいです!」


 と言って力こぶを作る仕草をするが、その腕には白い肌に柔らかそうな二の腕があるだけだった。


「ですがお腹が空いてしまいまして、お昼にしませんか?」

「そうですね、時間的に丁度いいのでそうしましょう」


 お昼を食べるべくフードコートへ移動すると、人でごった返していた。

 なんとか席を確保して神宮寺さんを座らせる。


「飲み物買ってきますけど何がいいですか?」

「誠一さんにお任せします」

「分かりました」


 売店まで来たが、神宮寺さんは何にしよう? やっぱり紅茶とかだろうか? いや、こういう時は普段飲まないような物が良いだろうという事でコーラを買い、人混みを避けながら席へと戻る。

 席に着くと、テーブルの上には手作りらしきお弁当が広げられていた。


「うわぁ、凄い豪華ですね」

「ふふ、有難うございます。腕によりをかけて作りました」

「こんなに作るの大変じゃありませんでしたか?」

「いえ、妹に手伝って貰ったので然程さほど苦労はしませんでした」

「妹さんいるんですね! これは妹さんにも感謝して食べなければ!」

「え、ええ。沢山食べてくださいね」

「はい! いただきます」


 お弁当はどれも美味しく、特にから揚げが特段に美味しかった。それを伝えると「嬉しいです。次回も作ってきますね」と言ってくれたので、次のデートの楽しみが増えた。


「御馳走様でした。お腹いっぱいです」

「お粗末様です。満足して頂いて嬉しいです」

「お腹も膨れたので次は何をしましょうか?」

「そうですねぇ――」


 それからボーリングや卓球を楽しんだ。どれも神宮寺さんは初体験だったので最初はぎこちなかったけど、終盤は普通に動けていて楽しそうだった。

 

「次は何がしたいですか?」

「そうですねぇ、次は――」

「あれ? 誠一じゃん!」


 神宮寺さんの言葉を遮り、俺の名前を呼ぶ声がした。

 声のした方を見ると、そこには美咲が立っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る