第8話 進展

 一時限目が終わり武人の元へと急ぐ。どうしても聞きたい事があったからだ。


「武人、彼女と話す時どういう話題が良いんだ?」

「いきなりだな。メッセージで何かやらかしたのか?」

「うっ、そ、そんなことは……ない」


 俺の歯切れの悪い返答に、何かを察した武人が、「なにをやらかしたんだ?」と聞いてくる。


「やらかしたというか……送らなかったんだ」

「ん? 話が見えないんだが」

「ちょっと来てくれ」


 「ここでは話づらいから」と付け加えて教室からでる。人気の少ない場所を選び、昨日の失態から今朝の出来事を話した。武人は唯一、俺と神宮寺さんの秘密を知っている人物なので今回の様な事を相談出来るのは有り難い。

 全て話し終えると、マジかコイツといった表情で呆れていた。


「お前、それは怒られて当然だろ。ずっと連絡を待っててくれたのにそれは無いわ」

「だよなぁ。だからこそ! 今後の為にも女子とスムーズなやり取りが出来るように武人に色々教えて欲しいんだ!」

「なるほどな。ま、誠一の初めての彼女だから協力はするけどさ」

「ありがとう、助かる!」


 スマホを取り出し、メモ帳アプリを開く。


「どんな話をしたら女の人は楽しいんだ?」


 そう質問する俺に、腕を組んだまま少しの間考える素振そぶりを見せた。


「ちょっと質問なんだが、誠一は神宮寺さんの事、どこまで知ってるんだ?」

「どこまでとは?」

「趣味だったりすきな音楽だったりだよ。パーソナルな事だと友人関係や家族構成とかだな」

「……そういえば知らないな」

「だったら先ず、そういうところから埋めて行かないと先には進めないだろ」

「た、確かに」

「あと、何を話せば神宮寺さんが楽しむかに関しては問題ない」

「え? どうして?」

「好きな人と話してて楽しくないなんて思わないからな。今朝のやり取りも最終的には喜んでくれてたんだろ?」

「なるほど! 俺も楽しかった!」

「だから最初はお互いの好きな事とかを共有するのが第一歩だと思うぞ」

「目から鱗とはこの事か! 武人が居てくれて本当に良かった!」

「大袈裟だな。お前が特殊なだけなんだけどな」

「お? 照れてるのか?」

「んなんじゃねぇよ」


 これは良い事を聞いた。確かに俺は神宮寺さんの事を殆ど知らない。知っている事といえば同級生でBクラスという事だけだ。あとは家が厳しいという事くらいか。

 聞いたからには実践したい、神宮寺さんのことを知りたい! という想いが溢れ返った。早速質問してみようとしたが始業のチャイムが鳴り、次の休み時間までお預けとなった。


 全ての授業が終わり、部活だ遊びだと騒がしい教室の中、俺は灰になっていた。

 理由は二時限目の休憩時間に神宮寺さんへ<趣味はなんですか? 俺は最近まで武道をやってました>

という内容のメッセージを送ったのだが、まだ返事が返ってきていないのだ。

 机に突っ伏していると、武人がやってきた。


「いつまで落ち込んでんだよ、お前らしくもない」

「だって、かれこれ六時間近く返事返ってこないんだぞ」

「それを言ったら昨日の神宮寺さんはもっと悲しかっただろうな」

「うぐぅ、そうだよな。この程度で落ち込んでたら神宮寺さんに申し訳ないな」

「そうそう。焦っても良い事ないぜ」


 たかが半日、俺がしてしまった事を思えばどうでもない。が、返事が返ってこないだけでこんなに気分が落ち込むなんてちょっと前の俺からは想像できないな。恋愛は人を狂わせると聞いた事はあったがまさにその通りだ。


 なんとか気持ちを持ち直し、武人と教室を後にして上履きを履き替える為に下駄箱に向かう途中、神宮寺さんとすれ違った。

 神宮寺さんも俺達に気づいた様子だったが、表情一つ崩さず俺達なんて目に入っていないかの様に素通りされた。

 学校では接触禁止。朝の出来事は緊急時のイレギュラー。

 改めてこの条件の厳しさを実感した。

 好きな人が目の前に居るのに会話どころか話しかける事すら出来ない。おまけに今日は俺からのメッセージへの返答がまだきていない。それが苦しく、やるせない気持ちにさせた。


「神宮寺さん、マジで学校では他人のフリなんだな」

「……そうだな」

「嫌になったか?」


 そう聞かれた時、少し胸がチクッとした。が、その痛みを無視する。神宮寺さんと付き合えるならと条件を呑んだのは俺だ。今更文句など無い。


「何言ってるんだ? こうなる事は事前に分かってただろ」

「そうだけどさ」

「それに、学校では話せなくてもメッセージでやり取りできるし、週一回のデートだってあるんだから贅沢は言えないさ」

「お前がそう言うなら俺は何も言わないが」

「でも、心配してくれてありがとな!」


 靴に履き替え、昇降口を出ると、スマホが震えた。

 確認すると神宮寺さんからのメッセージが届いていた。すぐさまアプリを開きメッセージを読む。


<返事が遅れてしまい申し訳ありません。武道ですか! 通りで御強いんですね>


 すぐさま返事をしようとしたが、続けざまにメッセージが送られてきた。


<私の趣味は可愛いモノを集めることですね>

<それと、こうして誠一さんとメッセージのやり取りするのが楽しみの一つになりました♪>


 立て続けのメッセージにテンパっていると、武人が助言をくれた。


「焦らず一つづつ返事しろ。メッセージも会話と同じで、人によってテンポが違うからキチンと相手のテンポに合わせるんだ」

「あ、ああ分かった」


 その後もメッセージのやり取りが続き、神宮寺さんの事が色々分かった。

 華道・茶道・日舞・外国語等を習っていること。そしてお父さんの付き添いでパーティー等に出席していること。その他にも色々と知ることが出来た。

 俺の事も聞かれたので色々話した。祖父に育てられた事や好きなこと・嫌いなことまで。

 ずっと話していたかったが平日は習い事がある為、一旦区切りの良いところで終わらせた。


 その日から俺達は毎日メッセージをやり取りし、今度の日曜にデートに行く約束をした。

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